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神様と呼ばれた精霊医 ~その癒しは奇跡か、祝福か~ 【原作完結済】  作者: 川原 源明
第12章 サバイバル学習 ラマンサ大森林編

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第201話 アラクネー達のお仕事

 親アラクネーと一緒に行動することになり、先導していたオーク達の方を見ると。


「イッテイイ」


 オークが寛大な表情で頷いてくれる。どうやら別行動しても問題なさそうだった。魔物たちの柔軟な対応に少し安心する。


「ありがとう」


 私は親アラクネーの後についていく。


 木の上でやるのかと思ったが、どうやら違うらしい。親アラクネーは藪の奥深くに入っていく。蜘蛛の足で器用に枝をかき分けながら進んでいく姿は見事だ。


「ぇ……、ミントお願い」


 藪が密集していて通れそうにない。


『ええで』


 ミントの力で藪の中に人が通れるほどの道ができる。植物が左右に分かれて、自然なトンネルのような通路が出現した。


「ありがとう」


 アラクネーの後に続くと、藪を抜けた先には開けた場所に作業場と思われる建物があった。周囲は丈夫な木材で組まれているが、屋根が白い布で覆われた大きな建物で、開放的な造りになっている。まるで大きな工房のような印象だ。


 そこには色々な服を着ているアラクネーたちが沢山いて、何かの液体に浸して布を染めたり、4本の腕を器用に動かして布を縫う者、大きな機織り機を使い反物を作る者等がいた。その光景は人間の工房と変わらぬ活気に満ちている。


 彼女たちは私の存在に気づくと、作業の手を止めてこちらをじーっと見ていた。好奇心と少しの警戒心が入り混じった視線だ。


「トレントノオサガイッテイタヒトノコカシラ?」


 一人のアラクネーが興味深そうに尋ねる。


「トレントノオサ?」


 思わず疑問に思ったことを口にしてしまった。


『このラマンサ大森林のまとめ役をしているエルダートレントの事だよ~』


 フゥが説明してくれる。


『せやなぁ、この大森林で唯一リタを知ってる奴やね』


 ミントが補足してくれる。


 そうなんだと思いつつ、先に挨拶しなくてよかったのだろうか?礼儀として森の長に挨拶すべきだったかもしれない。


「えっと、ルマーン国立アカデミーのラミナです。よろしくお願いします」


 丁寧に自己紹介する。


「ワタシハクララ、コノコハミルル」


 親アラクネーが自分と子どもの名前を紹介してくれる。どうやらさっきの親アラクネーは、クララという名で、子どものほうはミルルという名らしい。どちらも可愛らしい響きの名前だ。


 その後は、周りのアラクネー達が一斉に自己紹介してくれたけど覚えきれない……。しかし、彼女たちの熱心さは十分に伝わってくる。


 けれど、アラクネー達の名前には一定の法則があることに気づいた。基本3文字で、2文字目と3文字目は同じことが多い。ルタタやキララ、ユミミといった名が多かった。まるで音の響きを大切にする文化があるのかもしれない。


 それともう一つ、気になったことがある。それぞれどこかしら痛めているような動作を見せていた。ほとんどの者達は手首や指先を痛めているようで、時々手をさすったり、動きをかばったりしている。職業病のようなものだろうか。


「よろしくお願いします」


「ラミナハ、ワタシタチガフクヲツクルトコロガミタインダッテ」


 クララが他のアラクネー達に説明してくれる。


「ソウ、ナラクララアンナイシテアゲナサイナ」


 年上らしいアラクネーが優しく指示を出す。


「ウン」


 クララが嬉しそうに頷く。


 アラクネー達はみな髪を染めているのかな?黒や赤系、オレンジ系、白系等いろんな髪の色をしている者達がいた。まるで虹のように多彩で美しい。それに外見は同い年位に見えるが、やり取りを見ている感じ、クララは若手なのかな?


「コッチキテ」


 クララに促され後についていくと、小さなアラクネー達がたくさんいて、水色の大きなワームが糸を吐いて繭を作っているところだった。その光景は幻想的で、まるで絹の雲が生まれる瞬間を見ているようだ。


「大きい!」


 シルクワームの大きさに驚く。人間の胴体ほどもある立派な体躯だ。


「カレラハシルクワーム、ヒガクレルコロニナルト、コウヤッテネドコヲツクルノ」


 クララが説明してくれる。


「毎日繭を作ってるの?」


「ウン」


「小さなアラクネー達は何をしてるの?」


 子どもたちの可愛らしい働きぶりに興味を持つ。


「シルクワームノオセワハコドモタチノシゴト」


「なるほど……」


 お世話している子アラクネーの動きを見る限り、清掃したり餌を与えたりしている感じだ。とても丁寧で愛情深い世話をしている。


「ツギハ~コッチ」


 クララについていくと今度は、口から美しい銀色の糸を吐いて自分の腕に器用に絡ませているアラクネー達がいた。その作業は芸術的で見とれてしまう。


「口から?」


「オシリカラデルイトハ、ネンチャクセイガアルノ」


 クララが実用的な説明をしてくれる。


「あ~普通の蜘蛛の糸みたいなってこと?」


「ソウ、クチカラダスイトハネンチャクセイガナイノ」


「そうなんだ」


 なるほど、用途によって使い分けているのか。


「イトヲダストマソガナクナルカラマイニチコウタイスル」


 クララが重要な情報を教えてくれる。


「なるほど、倒れるまでやるの?」


「マソガナクナルトシンジャウ」


 クララの表情が深刻になる。


「ぇ?」


 魔素の保有量が増えるんじゃなくて死ぬの?なんて疑問を思っていると。


『魔物たちが魔素を使い切るという事は体内の魔石の分まで使いきるってことなんですよ』


 アクアが重要な説明をしてくれる。


『彼らはそうなると心臓まで止まっちゃうんだ!だから魔石の魔素を使わないレベルで止めるのが一般的なんだよ!』


 フゥが追加で説明してくれる。


 疑問に思っていたことを、アクアとフゥが教えてくれた。魔物と人間では根本的に体の仕組みが違うのだ。


「あぁそうなんだ」


 体のつくりが違えば、魔素の扱いも違ってくるってことね。だからこそ、彼女たちは交代制で慎重に作業しているのだろう。


「ココデツクッタイトヲアソコニアルキノ"ヒ"ニマキツケルノ」


 クララが次の工程を説明してくれる。


 機織り機なら村で見ていたけども、"ヒ"って何だろうと思ったら、横糸を通すための道具のことだった。という織物用具だ。


「機織り機の道具だね」


『ソウ』


 杼に糸を巻き付けているアラクネーを見てて思うことがある。手足が8本あるからこそ、人間には不可能な器用さで巻き付けている。その技術は見事としか言いようがない。


「シルクワームの糸も?」


「コドモタチガヤルヨ」


 子どもたちにも大切な役割があるのだ。


「へぇ~」


「ツギハコッチ!」


 クララが次の場所に案内してくれる。


 クララが次に案内してくれたのは機織りをしている場所だった。リズミカルな織機の音が心地よく響いている。


「ココデタンモノヲツクル」


「はぁ~」


 機織り機を見てて思うのは、村にあった機織り機よりは2倍ほど長い立派な物だった。アラクネーの体格に合わせて作られているのだろう。


「これ大きいよね?」


「ヒトノコガツカウモノヨリオオキナモノダッテキク」


 クララが比較してくれる。


「これって自分たちで作るの?」


「ヒトカラカウ」


 意外な答えだった。


「ぇ?」


『毎週イアンかボッシュがここに行商に来るんや』


 ミントが説明してくれる。


 なるほど、私の村にも来ていたイアンがこの村にもキャラバンとして来ていたのか。商業ネットワークが広がっているのだな。


「なるほど……、そこで必要なものを買ったり売ったりしてるんだね」


「ソウイウコト」


「そういえば、みんな色々な服を着てるけど、買ったの?」


 アラクネー達の多彩な服装に興味を持つ。


「チガウ、アシタクルショウニンニ、ジブンデツクッタフクミセルタメニキテルノ」


 クララが興味深い説明をしてくれる。


「あぁ、見本みたいなやつ?」


「ソウソウ、ショウニンニキニイッテモラエレバ、チュウモンヲモラエルノ」


 なるほど、ファッションショーのようなものか。


 ここで競争が生まれるのか。そんなことを思っていると、森の奥の方で太鼓のような何かをたたく音が響き渡った。その音は森全体に響いて、終業の合図のようだ。


「キョウノオシゴトハコレデオシマイ」


 アラクネー達が一斉に作業の手を止める。


「今の音がその合図なの?」


「ソウ、コレカラユウショクノシタク」


 クララが説明してくれる。


 学校のチャイムじゃないけど、同じようなシステムになってるんだ。どこの社会でも時間管理は重要なのだろう。魔物の村でも、きちんとした共同生活が営まれているのが分かって興味深い。


読んでくれてありがとうございます!


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