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第199話 久々のサバイバル学習!

 長いようで短い夏休みが終わり、はや1か月。時の流れの速さに改めて驚かされる。


 秋の深まりと共に、スペルン地方、キラベル地方に続く3回目のサバイバル学習の時期がやってきた。これまでの2回とは全く違う体験になりそうな予感がしている。


 場所は、以前ファラと行った、ラマンサの里の先にある村だ。あの時の冒険を思い出すと懐かしく、同時に少し緊張もする。先週の授業では、リタがはぐれの魔物や魔族を集めて作った魔物たちの村ということを教わった。リタの名前が出ると、いつも精霊たちがざわめくのを感じる。


◇ ◇ ◇


 1週間前、サバイバル学習事前授業


 いつもの魔物生物学の授業ではなく、翌週のサバイバル学習についての特別授業に変わっていた。教室の雰囲気もいつもとは違い、学生たちの表情に期待と不安が入り混じっている。


「さて、来週からは3回目のサバイバル学習だが、課題は異種交流だ」


 クロエが黒板に「異種交流」と大きく書く。


 異種交流?これまでの2回とは明らかに違うタイプの課題だ。


『フフフ、久しぶりですね』


 アクアが懐かしそうに呟く。


『だな』


 グレンも同意している。


 二人の反応を見る限り、何か知っている様子だった。きっとリタと一緒に過ごした時の経験があるのだろう。


「異種交流ですの?」


 クロエに真っ先に質問したのはミッシェルだった。その声には好奇心と少しの緊張が含まれている。


「あぁ、そうだ」


 クロエが頷く。


「エルフとかなんですか?」


 続いて質問していたのはミアン。人種の違いを想像しているようだ。


「いや人種ではない、魔族魔物が相手だ」


 クロエが答えると、教室中からどよめきの声があがる。魔物という言葉に、学生たちの反応は様々だ。興味深そうにする者もいれば、不安そうな表情を見せる者もいる。


「襲われたりはしないんですの?」


 ミッシェルが心配そうに尋ねる。


「しないな、彼らは聖女リタが集めたはぐれの魔物たちの末裔だ、今はラマンサ大森林を中心に活動している」


 クロエが安心させるように説明する。


「お前たちが着ている制服の生地なんかは、その地にすむアラクネーの糸で作っているし、アラクネーたちが作ってるんだぞ」


 その事実に驚く。毎日着ている制服が魔物によって作られているなんて……。改めて制服の袖を見ると、確かに非常に丈夫で美しい光沢がある。


「知っている奴もいるだろうが、アラクネーやシルクワームの糸は高級品だからな?彼らが思いを込めて作らなければすぐにボロボロになる」


 クロエの説明に、制服への見方が変わる。思いを込めてということは、魔道具とかと同じなんだろうか?


「言葉は通じるんですか?」


 実用的な質問が飛ぶ。


「どうだろうな、通じるものも居る。というのが答えだな。だが大半の者はこちらの言葉を理解していると思って間違いないはずだ。」


 クロエの答えは曖昧だが、希望が持てる内容だ。


 以前、セイレーンやローレライと人の恋の話があったが、言葉が通じる通じないは関係なく、思いは通じるのは間違いなさそうだ。そんなことを思いながら聞いていた。


「とりあえず、今回の課題は、彼らと交流しながら1週間を共に過ごすことだ。食料を持参しても構わないが、それは**物々交換のためだけ**に使え。自分で口にするのは禁止だ。食べていいのは、**相手から提供されたもの**か、**現地で調達したもの**のみとする。」


 クロエの説明を聞いて、ふと思ったことがある。食料の制限は交流を促すためのものだろうが、かなり厳しい条件だ。


「お金は使えないってことですか?」


「使えるぞ、ただ彼らにとってはお金よりも価値があるものがある。とだけ言っておこう」


 クロエが意味深に答える。


 お金よりも価値があるものがある?一体何だろう?


「何かって言わないってことは、それを知ることが課題ですの?」


 ミッシェルが鋭く推理する。


「そうだな、一部の班はそうなるかもしれんな、今回の課題は班ごとに違う。課題内容に関しては来週現地で渡すから楽しみにしとけ」


 クロエが謎めいた笑みを浮かべる。


 どんな課題が課せられるのだろうか……。期待と不安が胸を駆け巡る。


◇ ◇ ◇


 サバイバル学習出発当日、教室


 いつもより早い時刻の教室は、学生たちの荷物でごった返している。みな思い思いの準備をしてきたようで、大きなリュックを背負う者もいれば、コンパクトにまとめた者もいる。


 クロエが教室中を確認し。


「よっし、そろってるな、船着き場まで移動するぞ」


 アカデミーの正門を出て、そのまま川をさかのぼる船が停泊している川港まで移動した。朝の爽やかな空気が頬を撫で、遠足のような気分になる。


 ファラとラマンサの里に行った時は走って泳いで行ったけども、さすがに今回はそんなことはないらしい。あの時の無茶な移動を思い出すと苦笑いが漏れる。


「よーしそろってるな、それじゃあ船に乗り込め」


 クロエの指示で船に乗り込む。


 思えば今回はAクラスと合同ではなく、Sクラス単体らしい。船も3隻に分かれ、それぞれに10人程度ずつ乗り込んでいる。


 3隻の船に乗り込むと、風魔法の使い手と思われる船員が帆に風を当てはじめ、ゆっくりと船がすすみ始めた。帆が風を受けて膨らむ様子は美しく、川面を進む船の心地よい揺れが旅情を誘う。


 川をぼーっと眺めていると、両岸に広がる緑豊かな風景が目を楽しませてくれる。時折、水鳥が川面を飛び交い、のどかな光景が続く。


 横にいるミアンが。


「魔物たちの村ってどんなんなのかな?」


 期待と不安が入り混じった表情で尋ねる。


「さぁ~?」


 どんな種族が居て、どんな暮らしをしているのかは想像できなかった。


 ただ、授業でも、物語でもでてくるが、魔物と一緒に過ごす話があるのは知っている。


 ベア系の子どもの魔物が、親とはぐれ怪我をしているところを拾って育てた物語。


 以前ミアンが言っていた。セイレーンと人の恋物語。


 狼系の魔物と人種が共に過ごしている遊牧民等の話があり。


 魔物=悪というわけでもない。むしろ、理解し合えば素晴らしい関係を築けるのかもしれない。


 ゆっくり流れる風景を眺めつつ、ミアンやミッシェル達と雑談しながら過ごした。船旅の時間は、普段の慌ただしい学園生活とは違い、ゆったりとしていて心地よい。


 船はハーヴァーの街並みを少し越えた先の船着き場に到着した。周囲は自然豊かな風景に囲まれており、都市部とは全く違う静寂な雰囲気だった


「よっし降りろ~」


 クロエの号令で全員下船する。


 長いこと揺られていたからか、下船したあともまだ揺れているような感覚がある。足元がふわふわしているような不思議な感じだ。


「ん~……」


「ラミナ、どうしたんですか?」


 横にいるミアンが心配そうに声をかけてきた。


「なんかまだ揺れているような気がして」


「あ~わかります。私もまだ揺れてるような感じがしてますね」


 ミアンも同じような状況らしい。


「だよね」


 船酔いというほどではないが、陸に上がってもしばらく続く独特の感覚だ。


「ここから、ラマンサ大森林に向かう!遅れるなよ!」


 クロエが号令をかけると、一行はゆっくりと歩き始めた。荷物を背負った学生たちが列を成して進む光景は、まるで冒険の一団のようだ。


 懐かしいラマンサの里を経由し、ラマンサの里奥地にあるラマンサ大森林へ到着した。木々の間から差し込む陽光が幻想的な雰囲気を作り出している。


「よっし、各班の班長とラミナはこっちこい」


 クロエが指示を出す。


 なぜ私だけ名指し?疑問に思いながらも従う。


「行こうか」


 ミアンが班長として一緒に向かう。


「うん」


 クロエの元に行くと、ミアンやミッシェル達各班の班長は、クロエから課題が記されたと思われる封書を受け取っていた。それぞれの封書には班の番号が記されている。


「そいつに書かれている物が今回の課題だ、なおラミナは特別課題がある」


 クロエが私を見つめる。


「ぇ?」


 突然の特別扱いに戸惑う。


「お前の精霊はリタと共にいたのだろう?」


「はい」


 学園の七不思議の原因探しの際、夜の校内探索の時にクロエにそのことを打ち明けたのを思い出した。あの時の会話が今になって関係してくるとは。


「そうなると、ここにいる誰よりも里の事を知っているはずだ」


 クロエの推理は的確だ。


「はぁ……」


「それにSランク冒険者にやらせるような課題でもないからな、お前には、お前にしかできないことをやるように」


 クロエが真剣な表情で言う。


「自分で課題を見つけろと……」


「そういうことだ、高ランク冒険者になると、与えられた任務以外にも目を向けなければならなくなることも多いからな」


 クロエの言葉に、Sランクの重責を改めて感じる。


 好きでSランクになったわけじゃないのに……。


 推薦状を3つ揃った数日後には、ミッシェル、ミアン、ラミィー、シーアの激しいプッシュがあったためSランク登録をすることになり、現在はSランク冒険者に名を連ねている。あの時の4人の熱意には圧倒されたが、結果的に断り切れずに登録してしまった。今思い返しても、あの時の友達の期待に満ちた眼差しが印象的だった。


「ミアン達と行動は別ですかね?」


「そうだな、ミアン達の班の課題はお前には関係のないものだからな、その逆もしかりだ」


「わかりました……」


 渋々ながらも承諾する。


「よっし、それでは解散!」


 クロエの号令と共に、いよいよ異種交流のサバイバル学習が始まった。森の奥に足を踏み入れる時、未知への期待と不安が胸を駆け巡る。どんな出会いが待っているのだろうか?


お休み詐欺じゃないです。書けたので、投稿です。


読んでくれてありがとうございます!


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