第198話 夏休みの終り
夏休みは色々とあったけれど、残りの2週間はかなり満喫した。
5人で宿題をしたり、水浴びしたりワイバーンの肉を使ったバーベキューをしたりと本当に楽しかった。湖での水遊び、エセリアの光に照らされた夜のキャンプファイヤー、みんなで解く数学の問題—どれも大切な思い出になった。そんな充実した夏休みが終り、今日から新学期だ。
朝の教室は久しぶりの学校の雰囲気に包まれている。机の配置も元通りになり、夏休み前の日常が戻ってきた感じがする。
「ラミナおはよ~」
「おはよ~」
この夏は、ラミィーとシーアとも結構距離が縮まった。一緒に過ごした時間が、お互いを理解する良いきっかけになったようだ。
クラスメイトと挨拶を交わして、しばらくするとクロエが教室に入ってきた。いつものように元気な足音を響かせながら。
「よ~し全員揃ってるか~?」
クロエが教室を見渡して確認している。その眼差しは一人一人を丁寧にチェックしているようだ。
「そろってるな、今日から新学期だ、夏休み気分を抜けよ~」
クロエの声に教室がざわめく。
ん?クロードがまだ来ていないけど……?いつもなら真面目に一番乗りしているはずなのに。
「先生、クロード君がまだ来てませんよ」
ミアンがクロエに丁寧に伝えていた。
「あぁ、それは構わない、クロードはしばらく忙しいからという理由で休学だ」
クロエがあっさりと答える。
「ぇ?」
突然の知らせに驚く。ロシナティスで何かあったのかな?
「なぁに、悪い話じゃない、クロード自身が侯爵になっただけだ」
クロエが説明してくれる。
「あぁなるほど」
父親が亡くなったから、そのまま息子にって事だろうか?
「それからラミナ」
突然名前を呼ばれて身を正す。
「はい?」
「放課後学長室に行くように」
クロエの表情は特に深刻ではないが、理由が分からない。
「ぇ?」
何かした覚えは無いんだけど、なんで!?
「えっと、思い当たる節が無いんですけど……」
困惑しながら尋ねる。
「私も詳しく聞いてないからな、とりあえず授業が終わったら学長室に行ってくれ」
クロエもよく分からないらしい。
学長室ということは、ヴィッシュからの呼び出しじゃないし、本当に思い当たる節がなかった。一体何の用事だろう?
◇◇◇◇◇◇
放課後
石造りの廊下を歩きながら学長室に向かっていると、精霊たちから興味深い反応があった。
『なるほどな』
グレンが何かを理解したような声を出す。
「グレン、何がなるほどなの?」
『これから会う方ですよ』
アクアが補足してくれる。
「ん?私が知ってる人?」
『えぇ、2人……、3人は知っている人ですね』
アクアが訂正する。
はて?誰だろうか?心当たりがある人で学長室にいるような人って……。
「そっか」
学長室の重厚な扉の前まで来て、緊張しながらノックした。コンコンという音が廊下に響く。
「基礎学科1年のラミナです」
そう答えると、扉がゆっくりと開いた。
学長の前に居たのは、知らない男性と、リリアン、ガレスの2人がいた。久しぶりに見る二人の顔に、ステルツィア王国での出来事が蘇ってくる。
「久しぶりですね」
リリアンが上品な笑顔で挨拶してくれる。
「よぉ、手紙だけ残して消えるなんてひでぇじゃねぇか」
ガレスが豪快に笑いながら文句を言う。
この2人が居て、さっきアクアが2人から3人に修正したことを考えると、おそらくもう1人いる。
「アリアナさんは?」
「ふん」
声がした方を見ると、先ほど扉を開けたのが気配を消していたアリアナだったらしい。
「お久しぶりです」
「レオナルド、彼女が我々を助けた子だ」
ガレスが知らない男性に私を紹介してくれる。
知らない男性はレオナルドと言うらしい、というか聞いたことのある名前だけど?
「フッフフ、ラミナさん、こちらの方はステルツィア王国の新国王レオナルド・ウルフハートになります」
リリアンが丁寧に紹介してくれる。
あぁ、レジスタンスのリーダーの名前で聞いたのか。
「リリアン、紹介をありがとう、それからラミナ君、クーデターを手伝ってくれてありがとう」
レオナルドが感謝の言葉を述べてくれる。王としての品格がありながらも、親しみやすい雰囲気だ。
「いえ、成り行きなので……」
本当に成り行きだった。光の大精霊と契約がかかっていたし。
「それだけではない、大量の小麦粉の寄付、本当に助かった」
レオナルドの表情に心からの感謝が表れている。
「だな、個人であれだけの量を抱え込んでると思わんかった」
ガレスが驚いたような顔をする。
「トロランディアからも支援があり、現在苦しかった時期が嘘のように改善されました」
リリアンが状況を報告してくれる。
トロランディアからの支援って……、もしかして支援物資はロシナティス発だったりするのだろうか?セレスの活動の影響かもしれない。
「はぁ、役に立てたなら良かったです」
「それでだ、我々から何かお礼をと思ってね、ガレスから聞いたが君はAランク冒険者なんだってね」
レオナルドが話を切り出す。
この流れって、まさか……。嫌な予感がする。
「ほれ、こいつが俺等からのお礼だ」
そう言ってガレスから手渡されたのは、美しい羊皮紙に書かれた公式文書だった。
「もしかしてですが、Sランクの推薦状……?」
恐る恐る確認する。
「よく分ったな、その通りだ」
ガレスが確認してくれる。
要らない……。でもそうは言えない。
「そして、トロランディアの皇帝から預かっている物があってね」
レオナルドからも手渡されたのは、先ほどと似たような重厚な文書だった。
「これも……?」
「あぁ、支援物資を届けてくれた使者から預かったよ、なんでもトロランディア帝国の飢饉対策に対してもかなり貢献したようだね」
レオナルドが説明してくれる。
「これで、後1つあればSランクだ、確実に最年少Sランクになれるだろうな」
ガレスが興奮気味に言う。
ミネユニロント王から貰ったのがあるのだけど……。
「ありがとうございます……、Sランクになるには推薦状は幾ついるんですかね?」
『3つですよ』
「3つだな」
ガレスもアクアと声を重ねて教えてくれた。
「ミネユニロント王からも貰っているので、これって」
恐る恐る報告する。
「ふっふふ、Sランクになれるのに嬉しくなさそうですね」
リリアンが私の表情を読み取ったようだ。
さすがに嬉しくないとは言えない。
「いや……、嬉しいですよ?」
曖昧に答える。
『表情は嬉しくないって言ってるぞ』
グレンが容赦なく指摘する。
そんなこと言われても、嬉しいと思わないし。冒険者として有名になりたいわけじゃない。
「そういうことにしといてやるよ」
ガレスが苦笑いを浮かべる。
「さて、僕らはこれで帰るとしようか」
レオナルドが立ち上がる。
「はい」
「では、ラミナ君時間が出来たら我が国にも遊びに来てくれ、我々は皆歓迎するよ」
レオナルドが温かい招待の言葉をかけてくれる。
「はい、機会があれば遊びに行きます」
「メイもお前さんに会いたがっているからな、絶対に来いよ」
ガレスが娘のことを嬉しそうに話す。
メイちゃんは可愛かったしまた機会があれば遊びに行けたらいいな。
「はい」
「それでは、学長、僕らはこれで」
レオナルドが学長に挨拶する。
「あぁ、気をつけて」
学長の返事はいつもと変わらない調子だ。
学長は、相手が国王でも卒業生に対しては接し方が同じなのかな?そんなことを思っていると、レオナルドやリリアン、ガレス、アリアナが部屋から出ていった。
「えっと、じゃあ私もこれで失礼します」
「あぁ」
学長室を出て教室に戻る途中、手元にある二つの推薦状を見てどうすべきか悩みながら廊下を歩いた。石造りの廊下に足音が響いて、Sランクという重い責任について考えていた。果たしてこれは本当に良いことなのだろうか?
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