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第196話 実物のファントムフラワー

 エセリアと契約した翌朝。


 洞窟の中は朝の光とエセリアの温かい光に包まれていた。エセリアは昨夜からずっと輝き続けており、まるで小さな太陽のように周囲を照らしている。平和な朝の光景だ。


「ワイバーンってもういないよね?」


 昨夜のうちに帰ってしまったかと思って確認してみる。


『いるよ~』


 まん丸が元気よく答える。


「またお肉食べたいよね~」


 誰か立候補してくれるだろうと思いつつ確認してみる。ワイバーンの肉は本当に美味しかったから、また食べられるなら嬉しい。


『しゃねぇな、俺も食べてぇし行くか』


 グレンが渋々といった感じで答える。さすがグレンと思っていたら、目の前から炎と共に消えていた。


 しばらく待っていると、前回同様にワイバーンを引き連れてきた。違うことは今度は4匹も引き連れてきたことくらいだ。空を舞う4匹のワイバーンの姿は壮観で、翼を広げた時の迫力は圧巻だった。


『アクア!頼む!』


 グレンが上空から叫ぶ。


「ぇ?」


 突然の依頼に困惑する。


『分りました』


 アクアが冷静に返事をすると、上空にいるワイバーンが瞬時に氷漬けになり落下してきた。巨大な氷の塊となったワイバーンが空から降ってくる光景は迫力満点だ。


「うわぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~」


 1匹目と3匹目が近くに落下した。ドスンという重い音と共に地面が揺れる。


 なんか、前回もこんな思いをした気がする。気のせい?


「ここで解体する?」


『ん~ん、食べる前に解体しようか~』


 まん丸が提案する。


『じゃあ、血抜きだけしておきましょうか』


 アクアが実用的な提案をしてくれる。


『お願い~』


 まん丸が頼む。


 アクアが氷魔法で血抜きをしてくれた氷漬けのワイバーンをカバンに詰めた。4匹分となると相当な量だが、マジックバッグの便利さで問題なく収納できる。


「よっし、ミネットに向かおう!」


 ルナに跨がり、いよいよ待ちに待ったミネットに向かった。エセリアも一緒で、移動中も周囲が明るく照らされている。


 地中を走ること十数時間、ルナの疲れ知らずの走りで、日が変わる頃にミネットに到着した。長距離移動もルナのおかげであっという間だ。


「ん……、こんな時間に城行ってもあれだし、湖畔で一泊しようか」


 深夜に城を訪れるのは迷惑だろう。


『ええんちゃう?』


 ミントが同意してくれる。


『ですね、ラミナが見たがっていたファントムフラワーも咲いていますし』


 アクアが嬉しい情報を教えてくれる。


「行こう!直ぐに行こう!」


 ファントムフラワーと聞いて興奮が抑えられない。


『フッフフ、こちらですよ』


 アクアが案内してくれる。


 ルナに乗ったまま、アクアに案内してもらい到着したのは、湖の美しい砂浜だった。月光が湖面に反射して、幻想的な光景を作り出していた。


 目の前の月明かりに照らされた湖面には、輪郭がかろうじて分るくらいの透き通った美しい花が咲いていた。まるでガラス細工のような繊細さで、月光を受けて淡く光っているように見える。


「これがファントムフラワー?」


 息を呑むような美しさに感動する。


『せやで、綺麗な花やろ』


 ミントが誇らしげに答える。


「うん!」


 ファントムと言われているのも納得できるほどに透明度の高い花が咲いていた。まさに幻の花という名前にふさわしい神秘的な美しさだ。


「これさ、セレスの所で繁殖できないかな?」


 こんな美しい花をセレスにも見せてあげたい。


『水辺もありますし良いんじゃないですか?』


 アクアが肯定的に答えてくれる。


『こっちや』


 ミントについていくと、水の中にある黒い石のような物を指さしていた。


『これ拾うんや』


「ん?」


 水面に手を入れ、ミントの言う黒い石のような物を拾った。手に取ると意外に重く、表面は滑らかな感触だった。


「これで良いの?」


『ええで、それが種なんや』


「ぇ?普通は種って……」


 受粉した後に種が出来ると思う。問題は手元にある石のような物は拳大の大きな物だった。普通の花の種とは全く違う。


『ファントムフラワーは少し特殊な生態なんですよ』


 アクアが説明してくれる。


『せやで、それが種なんや』


 ミントが確認してくれる。


「特殊って?」


『その種からは複数のファントムフラワーが育つんやけど、発芽したら種はすぐに切り離されてまうんやな。で、その種は次の年にもまた発芽するってわけやな』


 ミントが詳しく説明してくれる。


「ぇ、1回だけじゃ無くて複数回発芽するの?」


『せやで、1年に1回どころか、1年に何回も、数年にわたって発芽するんや』


 驚くべき生態だ。


「そんなことしたら、湖面いっぱいにファントムフラワーだらけにならない?」


『ならんならん』


 ミントが首を振る。


『ファントムフラワーの栄養素は、水中に潜む魔素なんです』


 アクアが補足してくれる。


『せやから、魔素がなくなったら、ファントムフラワーは増えへんわ』


「あぁ~、じゃあ水中の魔素が無くなったら発芽しなくなるんだ」


『せや』


 なんとも珍しい生態系だ。魔素を栄養にする植物なんて初めて聞く。


「ぇ、じゃあ、水中に落ちてる黒い石みたいなのって全部……?」


『せやで』


「種だらけにならない?」


『ならんで』


 これもきっと何かバランスを保つ仕組みがあるんだろうか?


「なんか本当に変わった生態なんだね」


『せやろ』


『水中の魔素濃度の高いこの湖でしか生息しないのは、そのためなんですよ』


 アクアが生態系について説明してくれる。


「へぇ~」


『明日、明後日辺りになると、ファントムフラワーが湖面いっぱいに広がるんだよね』


 フゥが楽しそうに教えてくれる。


 湖で漁業を行う人にはたまったものじゃない気がするけれど、明日、明後日が凄く楽しみだ。一面に咲くファントムフラワーはどんなに美しいだろう。


 今拾ったファントムフラワーの種をマジックコンテナに大切に入れた。


「香りもあまり強くないんだね」


 香料を作ったことがある関係で結構強めの香りだと思ったけれど、実際に側に寄るとかすかに香る程度だった。上品で繊細な香りで、確かに香料に使われるのも納得できる。


『そうですね、花の周りだけですからね』


 アクアが説明してくれる。


『香りも魔素なんやで』


 ミントが興味深い情報を教えてくれる。


「というと?」


『直ぐに大気中に散っちゃうんですよ』


 アクアが補足する。


「それでかすかにしか香らないの?」


『せや』


「へぇ~」


 魔素でできた香りなんて、本当に不思議な花だ。


 その日は湖面に浮かぶファントムフラワーの美しい光景を眺めながら眠りについた。エセリアの温かい光と、月明かりに照らされたファントムフラワーが作り出す幻想的な世界で、最高に贅沢な夜を過ごすことができた。明日はミアンとミッシェルに再会できる。夏休みがいよいよ始まる。


読んでくれてありがとうございます!


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