第195話 光の大精霊レム
バトラス要塞からミネユニロント王国王都ミネットに向かっている途中。
夜空を駆けながら、星明かりが美しく輝いている。要塞での作業を終えて、ようやく平和な時間を過ごせると思っていた矢先だった。
『レムの迎えには行かへんの?』
ミントの声が頭に響く。
「あ~ラックバードだっけか……」
そういえば、レムを迎えに行く約束をしていたのを思い出した。
『せやね』
夏休みを堪能したいんだけど……。でも約束は約束だ。
「ファントムフラワーは……?」
『あと5日位は猶予があるのではないですか?』
アクアが計算してくれる。
『せやね、ぼちぼち咲き始めとるけど』
ミントが確認してくれる。
5日……、時間的にはギリギリだけど何とかなりそうだ。
「ラックバードからミネットまで一直線でいったら直ぐだよね!?」
『ロシナティスに飛んでからラックバードに向かえば最短じゃないでしょうか?』
アクアが効率的なルートを提案してくれる。
『だな、ラックバードからは地中を一気に行けば1~2日位でミネットに行けるだろ』
グレンも同意してくれる。
「じゃあそれで!」
そうと決まったら、すぐに行動に移す。カバンからパン屋の地下に飛ぶカードを取り出し、魔素を流してロシナティスにあるセレスのパン屋に転移した。
「うお、お前さんいつの間にそんなところに」
転移した先の目の前に、馴染みのある従業員のラックがいた。彼の驚いた表情が印象的だ。パン作りの最中だったのか、手に小麦粉がついている。
「あぁ、すいません」
突然現れて驚かせてしまった。
「よい、パンを食べていくのかい?」
ラックが親切に声をかけてくれる。
食べたいけれど今はそれどころじゃない……。
「10個くらい注文でセレスに預けて貰って良いですかね」
「後ほど焼いてセレス嬢に渡しておこう」
ラックが快く引き受けてくれる。
「お願いします。それじゃあ用事があるので」
そう言って、ラックの横を抜け、パン屋の温かい香りを後にしてロシナティスの町を出てラックバードに向かった。
ルナに地中を走ってもらいラックバードに向かった。土の中を駆け抜ける感覚は独特で、まるで地底の世界を旅しているようだ。ルナの能力のおかげで、通常なら何日もかかる距離をあっという間に移動できる。
ラックバードに到着したのは、既に日が暮れていた。町には温かい明かりが灯り、夕食の準備をしている家庭の煙が立ち上っている。
「今から教会に行っても大丈夫かな?」
『まだ大丈夫だと思いますよ』
アクアが答えてくれる。
『やね』
ミントも同意する。
教会に向かうと、石造りの建物の入り口にアカネが立っていた。まるで私の到着を予期していたかのように、落ち着いた表情で待っている。
「やぁ、待っていたよ」
アカネの穏やかな声が夜の静寂に響く。
カバンから時計を取り出し見てみると既に21時を回っていた。針が示す時刻に驚く。
「よい子は寝てる時間じゃ……?」
「私もラミナが来なきゃ寝ているよ」
アカネが苦笑いを浮かべる。
「そうですか」
申し訳なく思う。
「レムも待っているから付いてきて」
アカネは背後の重厚な木製の扉を開けてくれた。古い蝶番がきしむ音が小さく響く。
教会の中を見ると、あちらこちらに光の子ども達が舞っていた。小さな光の粒子が宙を舞い、まるで生きているかのように動き回っている。神聖な雰囲気に包まれた空間だ。
「光の精霊しか居ない……?」
「ラミナにはそう見えるんだね」
アカネが興味深そうに言う。
『実際教会は光の子しかいませんよ』
アクアが説明してくれる。
『だな、どこの教会も俺等が入る余地がないからな』
グレンが補足する。
「そうなんだ」
何か理由があるのかな?思えば教会に入るのは初めてな気がする。
アカネの後に続いて教会に足を踏み入れると、石の床に足音が響く。ステンドグラスから差し込む月光が美しい模様を作り出している。
その時、ひときわ大きな光の塊が私の元に飛んできた。他の光の精霊たちとは明らかに違う、特別な存在感を放っている。
なんというか、光の球の中に目と口が見える。表情豊かで、感情が伝わってくるようだ。
「レム?」
『……』
何もしゃべらないが、コクコクと嬉しそうに頷いていた。
「レムが来た?」
アカネには見えていないのか、きょろきょろと辺りを見回している。
「うん、私とアカネの間にいる」
「そっかそっか、ずっと旅に出たがっていたからね」
アカネが微笑む。
『……』
レムが再びコクコクと頷いていた。その表情からは期待と興奮が伝わってくる。
「アカネには見えてないのに、レムの言うことが分るの?」
「メネシスと一緒に夢によく出てくるからね」
アカネが説明してくれる。
夢の中でやりとりしていたのか。不思議な繋がりだ。
「そうなんだ、えっと名前だよね」
目の前の光の球が期待するように頷いた。
「光に関する名前、何かの物語に出てきたエセリアでどうだろうか?」
「へぇ、また同じ名前を貰ったね」
アカネが驚いたような声を出す。
エセリアは嬉しそうな表情を見せながらコクコク頷いていた。光がより一層輝いているように見える。
「ぇ?」
『ガルドーが、こいつにエセリアって名付けたんだよ』
グレンが説明してくれる。
「白銀の騎士……?」
『せや』
ミントが確認してくれる。
そういえば、白銀の騎士とは、ミントとグレンが一緒に旅したんだったっけか。
「何か由来ってあるのかな?」
「ガルドーの出身地では永遠に輝く星って意味だって言われていたかな」
アカネが懐かしそうに答える。
「そうなんだ」
なぜアカネがそんなことを知っているのかを問いたいが、メネシスから直接聞いていると言ったところだろうか?
気になることがあるとしたら、レム—エセリアはさっきから一言もしゃべってない。
「エセリアはあんまりしゃべらないのかな?」
『俺はしゃべっているのを見たことねぇな』
グレンが答える。
『うちもや、でもな、こいつは表情がいっぱいあんねん、何考えとるかすぐわかるわ』
ミントが説明してくれる。
『だな』
グレンも同意する。
「そうなんだ」
確かに、ミントとグレンがしゃべっているときの表情は少し困ったような表情を見せていた。
勝手な解釈だけど、"私もしゃべった方が良いのかな?"とか考えていたのかな?
「そっか、とりあえずエセリア、これからよろしくね」
そう伝えると、ニッコリ微笑みながら頷いていた。その笑顔は本当に美しく、心が温かくなる。
「よっし!ミネットに帰ろう!」
「ラミナにかける事じゃないけど、気をつけてね」
アカネが心配そうに言ってくれる。
「うん、アカネも元気でね」
「またね!」
アカネと別れて教会を後にした。夜風が頬を撫でて、涼しく感じられる。
「ん~どこで野営しようか」
なんというか、夜なのにエセリアが側に居ると、周囲がかなり明るくなる。まるで小さな太陽が一緒にいるようで、暗闇を恐れる必要がない。
『ワイバーンの所にいこ~?』
まん丸が提案してくれる。
「あぁ、あの崖の下か、良いよ行こうか」
またワイバーンが居てくれたらなと思いながら、アカネとルナと出会った思い出深い場所に向かった。
崖下での野営は静かで、エセリアの光が洞窟の壁を美しく照らしている。
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