第193話 王都コレンスタ内へ
砲撃による陽動作戦から、外にいる騎士達を掃討する掃討戦に移行した。
吹き飛ばされた兵士たちが立ち上がろうとしているのが見える。中には頭を振って意識を取り戻そうとしている者もいる。
「どうするの?」
『雨で濡れた体には寒さは堪えますよね~、フゥやりましょうか』
アクアの声に計算されたような冷たさが含まれている。
『面白そうだね!』
フゥが無邪気に応じる。
『なら俺はラミナの側に居るか』
グレンが私を気遣ってくれる。
なんだろうか?アクアの口ぶりからして雪でも降るのかな?
なんて思っていたら、真夏の暑い時期に雨が突然雪に変わり始めた。最初は小さな雪片だったが、あっという間に大粒の雪が激しく降り注ぐ。
「ぇ……」
驚いている間にも、雪が風に吹かれて、猛烈な吹雪と化す。視界が真っ白になり、数メートル先も見えなくなった。風の音が唸り声のように響き、雪が顔に当たって痛いほどだ。
『寒くないか?』
グレンが心配そうに尋ねる。
「うん、大丈夫ありがとう」
自身寒さを感じないのは側にいるグレンが暖めてくれているからだろうか?体の周りに温かい空気の層ができているような感覚がある。
「これ王都の町中も雪?」
『じゃないか?』
グレンが推測する。
真夏の雪って……。町の人達は大丈夫だろうか?家の中にいれば大丈夫だと思うけれど。
『ッフッフフ』
アクアが悪戯っぽく笑っている……。
『薄着に鎧って状態で吹雪は酷だよね!』
フゥが楽しそうに言う。
「どういう状態なのかな……」
二人の発言を聞いていてなんとなくだけど想像は出来るが、正直吹雪で視界が悪く、どういう状態なのかが分らない。ただ、薄着の上に鎧だけを着た兵士たちには確実に堪えるだろう。
『もうほとんどの騎士がこおんでもうたで』
ミントが状況を教えてくれた。
そうなるよね……。真夏の装備で、土砂降りの雨の後に、突然の吹雪に遭遇したら、体温を奪われて動けなくなるのは当然だ。
「そっか……」
しばらく待っていると、吹雪の勢いが次第に弱まってきた。
『これで終りですね』
アクアが満足そうに言う。
『だね!元の雨に戻す?』
フゥが確認する。
『えぇ、そうしましょう』
吹雪が横殴りの雨に変わっていく。雪が溶けて水になり、地面には氷と水たまりができている。
『そういえば、開戦の合図を忘れてたな』
グレンが思い出したように言う。
「あぁ~、そうだね」
代わりに爆発音が数回鳴り響いたと思うけど……。
「グレン、終りの合図お願いして良い?」
『あぁ、任せろ』
グレンはそう答えると上空に5発の火の玉を射出した。赤い光が夜空を照らし、花火のように美しく散っていく。
1発でいいって言ってた気がしたけど……?まあ、派手な方が分かりやすいか。
「んじゃ私達もお城の方に向かおうか」
『そうですね、足下が悪いので気をつけてくださいね』
アクアが注意してくれる。
「ん、ありがとう」
凍てついた兵士達を横目に、正門に向かった。地面は氷でつるつるに滑りやすくなっている。ルナの蹄が氷の上でカチカチと音を立てながら、慎重に歩いてくれる。
正門の扉を押してみると、びくとも動かなかった。分厚い木製の扉に鉄の補強が施されており、複数の錠前がかけられているのが見える。
当然のことながら、正門は固く閉じられていた。
「閉まってるね……」
『当然だろうな』
グレンが答える。
「城壁登って降りる?」
『いいよ~、それならこっち来て~』
まん丸が案内してくれる。
門から少しずれたところに案内され、いつかの時みたいに土でできた足場が段々と形成されていく。まん丸の土魔法で作られた階段は頑丈で、安全に上昇していける。
城壁の上にたどり付くと、石造りの通路が続いている。見張り台も見えるが、嵐のせいか人影はない。
『こっちに階段がある~』
まん丸の後に付いていくと、城内に続く大きな下り階段があった。石段は古く、長年の使用で摩耗している。
『少し待って貰って良いですか?』
アクアが声をかける。
「ん?」
『町全体にクリーンの魔法を使いますので』
アクアが説明する。
「あぁ、プロパガンダスキルによる洗脳の解除だね」
『えぇ』
アクアが返事すると、直後に淡い青い光が体から放射された。その光は波紋のように広がり、町全体を包み込んでいく。
『大丈夫です』
「了解」
階段を降りて町の中に侵入した。石畳の道が続き、両側には二階建ての家々が立ち並んでいる。建物は古いが手入れされており、グリーサよりも質素な印象だ。
グリーサ同様に街灯が立ってはいるけれど、明かりが着いていない街灯が多く見られた。薄暗い通りが続いており、雨に濡れた石畳が月明かりでかすかに光っている。
「街灯あまり着いていないね」
『意図的に着けてないみたいだがな』
グレンが観察する。
「意図的に?」
『魔石を消費しますからね、経費削減と言ったところでしょうか』
アクアが分析する。
これも現国王になったからの政策なのだろうか?民衆の生活を犠牲にした節約とは、確かに暴政と言えそうだ。
町中を歩くも、この嵐の夜のためか出歩いている人が全く居なかった。雨音と風の音だけが響き、窓の隙間から漏れる僅かな明かりが人々の生活を感じさせる唯一の証拠だ。
「レジスタンスの人達はどうしたんだろう?」
『城の前にある広場で交戦中だな』
グレンが状況を教えてくれる。
「あら」
『光と闇の魔法しか使えへん相手は、時が来たらきっちり鎮圧されるやろな』
ミントが状況を教えてくれた。
おそらく精霊達がそれぞれの属性魔法を封じたのだろう。
「そっか、ガレスは?」
『まだ、来てないね』
フゥが答える。
大人数での行動となれば、そんなに早く行動できないか。そんなことを思っていると、前から人影がこちらに向かって走ってきた。雨の中を軽やかに駆けてくるその姿は、明らかに訓練された動きだ。
「やはり、そなたか」
前から走ってきた人影はアリアナだった。フードを被っているが、その独特の身のこなしですぐに分かる。
「アリアナさん?」
「あぁ、正門前の掃除はもう終わったのか?」
アリアナが確認する。
「はい、つつがなく終わりました」
「そうか、さすがと言ったところか、おまけに塔の爆発も?」
アリアナの視線が城の方向に向く。
「はい精霊達が大砲で砲撃してました」
「なるほど、魔法が使えないなら物理的にって事か」
アリアナが納得したような表情を見せる。
廃れた大砲のことを知っているのか。それに、そういう意図があったんだと今知った。確かに魔法が封じられた状況では、物理的な攻撃が有効になる。
「ですかね、アリアナさんはこれからどうするんです?」
「正門開放してからガレスと合流だな、君は広場で戦っている仲間達を手助けしてやってほしい」
アリアナが作戦を説明する。
「了解です」
『戦いを補助しつつ、イザベラの救出と行きましょうか』
アクアが提案する。
場所を確認したのだろうか?
『だね!』
フゥが同調する。
「わかりました」
「では、後ほど」
そう言うと、アリアナの気配が雨の中に溶け込むように消えた。その隠密技術は本当に見事だ。
それじゃあ、次の目標はイザベラ救出かな?城の前の広場では、光と闇の魔法を得意とする第6騎士団の団長が囚われているはずだ。急がなければ。
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