第192話 王都コレンスタ攻略戦開戦
土砂降りの雨の中、ルナに跨がり王都コレンスク正門を目指していると、城壁の外にテントや柵などが設置され、多くの明かりが灯っていた。
雨粒が激しく頬を打ち、視界が霞む中でも、その明かりは鮮明に見える。テントは軍用の大型なもので、柵は木製と鉄製が組み合わされた頑丈な造りだ。まるで城壁の外に小さな要塞を築いているかのようだった。
「雨なのにかがり火消えないんだね」
不思議に思って呟く。
『あれはかがり火じゃなく魔道具だからな』
グレンが説明してくれる。
「かがり火にみえるだけってこと?」
『そういうことだ、で、どうする?』
「あそこに居るのって3騎士団まとまってるの?」
『まとまってないよ!』
フゥが元気よく答える。
『フゥの言うとおりです、あそこに居るのは第5騎士団のオズワルド達ですね』
アクアが正確な情報を教えてくれる。
建築専門の人達だったっけ?
「何かスキルとか警戒すべき所があったり?」
『地魔法の使い手が多いな、オズワルド自身は大地操作ってスキルだが、まん丸の前では無効だろ』
グレンが分析してくれる。
そういえば、ガレスが腕に嵐召喚したときに精霊達が集まっていたのを思い出した。
「精霊達が力を貸してるから?」
『そういうことだ、自然操作系のスキルは少なからずとも俺等の力を借りて行使するからな、俺等大精霊が許可しなければスキルを行使することすらできん』
グレンの説明に驚く。何というか……、精霊達と敵対したらスキルが使えなくなるなんて……。それは圧倒的なアドバンテージだ。
『まぁ今回は他の騎士団を引きつけるための陽動なので、瞬時に終わらせるのではなく、少し遊びましょうか』
アクアが戦略的な提案をする。
『だな、で、どうするよ』
グレンが確認する。
『はいはい!1番はボクがいくよ!』
フゥが手を挙げるように光る。
『構わねぇがどうするんだ?』
『全てを吹き飛ばす!』
だめじゃん!陽動にならない。
『お前、さっきの話を聞いてたか?他の場所にいるやつらをこっちに引きつけるのに吹き飛ばしたら意味がねぇだろうがよ』
グレンが呆れたような声を出す。
『は~い、じゃあ引きつけるのボクにやらせて~?』
まん丸の可愛らしい声が響く。
まん丸は戦う話をしてなかったけど、なにか策があるのだろうか?
『何すんだ?』
グレンが興味深そうに尋ねる。
『お城の塔に向かって砲撃するの~』
砲撃?聞いたことのない言葉だ。
『なるほど音で引きつけるのか』
グレンが理解したようだ。
『そうそう~、そしてあわよくば例の魔道具も破壊~』
『ふふふ、いいですね、私はまん丸の意見に賛成です』
アクアが同調する。
『だな、引きつける目的と、やっかいな魔道具破壊同時にこなせるわけだ』
グレンも納得している。
「ねぇ、砲撃って何?魔法じゃないよね?」
全く想像がつかない。
『砲撃というのはな、大砲と言われる大きな筒の中に込めた砲弾を爆発で発射させるんだ、砲弾が着弾した場所が破壊されるって寸法だな』
グレンが詳しく説明してくれる。
「そんな武器があるんだ」
『魔法の方が便利なので廃れてしまいましたが、リタが居た時代に戦向きではないスキル持ちでも一定の戦力になるための道具として使われていましたね』
アクアが歴史的背景を教えてくれる。
「はぁ……」
『筒となるやつが重いからな、持ち運びには手間がかかる』
グレンが補足する。
廃れた理由はそれなのね。確かに魔法の方が便利だろう。
「じゃあ、とりあえず、それで行こうか、フゥは音に引きつけられた人達を吹き飛ばしてね」
『任せて!』
フゥが張り切って答える。
『それじゃあ、俺等もフゥのサポートをしてやるか』
グレンが協力的だ。
『そうですね、ではまん丸お願いします』
アクアがまん丸に依頼する。
『任せて~、グレンは後で手伝ってね~』
『おうよ』
ミントとまん丸が、私から魔素を受け取り作業を始めた。魔素が流れ出ていく感覚が手のひらから伝わってくる。
そしてしばらくすると、目の前に信じられない光景が現れた。巨大な10門の大砲が、城の塔に照準を合わせてずらりと並べられている。黒い鉄製の筒は太く、それぞれが私の身長ほどもある長さだ。木製の台座に据え付けられ、まるで古代の攻城兵器のような威容を放っている。
『準備できたよ~』
まん丸が嬉しそうに報告する。
『やるか?』
グレンが確認してきた。
「うん、お願い」
どんな感じなのか全く想像が付かないけど、始めなきゃ始まらない。
『耳ふさいどき!』
ミントが急いで警告する。
「ん?」
ミントに言われて、慌てて耳を塞ごうとした瞬間。
近くで"ドン!"と大きな爆発音が連続で鳴り響き、地面が震えるほどの衝撃が伝わってきた。数秒後には遠くで何かにぶつかり爆発する音が響く。耳を塞いでいたにも関わらず、その轟音は骨の髄まで響いてきた。
こちらからでも、着弾したと思われる場所が橙色の炎と共に爆発したのが見えた。城の塔の一部が崩れ落ちているのが分かる。
『ちょっとずれたね~、ミント、下方に1cm修正して』
まん丸が冷静に指示を出す。
『あいよ』
ミントが答える。
大砲の下にある木製の台で角度修正しているのかな?細かい調整を繰り返している様子が見える。
『グレンお願い~』
修正が終わったのか、まん丸がグレンに指示を出す。
『おう!』
グレンが返事をすると、再び"ドン!"と大きな爆発音が連続で鳴り響く。今度は先ほどより正確に塔に向かって砲弾が飛んでいくのが見えた。また数秒後には何かにぶつかり爆発する音が聞こえ、今度は塔の上部が完全に吹き飛ばされているのが見える。
『王都内の結界が解けましたね』
アクアが確認する。
「魔道具が壊れたの?」
『えぇ、今の爆発で砕けましたね』
私の中では、ローブをかぶって、塔に登ってなんて思っていたけど、こんな形で解決することになるとは思っても居なかった。まん丸の砲撃という発想は予想外だった。
『さぁて、残りは奴らだな』
グレンが戦闘モードに入る。
『こっちから音がなってるのに気づいたくらいで、ボクらの場所をまだ把握出来てないみたいだよ』
フゥが敵の様子を報告する。
「他の騎士団がこっちに来る様子は?」
『すでに正門付近に向かっていますね』
アクアが状況を教えてくれる。
陽動自体は成功かな?
「残りの大砲は、あの騎士団に向けるの?」
『いいよ~、ミントお願い~』
まん丸が指示を出す。
『あいよ』
ミントが大砲の向きを調整し始める。
人に向かって使ったらただじゃ済まない気がするけれど……。
「くれぐれも、町の人とかには被害が出ないようにね……」
心配になって釘を刺す。
『大丈夫大丈夫~』
まん丸が軽い調子で答える。
まん丸が、大丈夫というなら大丈夫だと信じて祈るしかない。
『グレン~、全部一気に点火~』
まん丸が最終指示を出す。
『うっしゃ!』
グレンが気合いを入れて答える。
10門一気発射音が鳴り響く!今度は先ほどとは比べものにならない轟音だった。
慌てて耳を塞ぐも、耳を塞いだ事が意味がなさそうなくらい大きな音が響き渡った。空気そのものが震えているような感覚で、ルナも驚いて体を震わせている。
そして、全て城壁付近に着弾し、辺りにいた兵士達が土煙と共に吹き飛ばされていた。テントは跡形もなく消失し、柵は木っ端微塵に砕け散っている。兵士たちは地面に倒れているが、動いているので生きているようだ。
「あ~、やり過ぎじゃない?」
予想以上の破壊力に驚く。
『いいんじゃねぇの、どのみちこれから掃討戦だろ』
グレンが物騒なことを言う。
「そうだね」
今度は自然災害では無い。確かに戦いは避けられないのだろう。
ふと、大きな落とし穴に兵たちを閉じ込めれば早くない?なんて思ったのは、砲撃の後では少し遅かったかもしれない。でも次からはそういう非致傷的な方法も考えてみよう。
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