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第168話 取引

 ロシナティスの町の中央までくると、広場に面した3階建ての大きな建物があった。


「こちらが商業ギルドになります、元々は交易が盛んで賑わっていましたが……」


 ヴェネスがそう言いながら、商業ギルドの扉を開けた。


 中にはカウンターの向こう側に職員が2人いるだけで、他に誰も居なかった。


「寂れてると……」


「えぇ」


 ヴェネスが、カウンターへ向かっていった。


「すいません、シルビアはいますか?」


「ヴェネスさん、マスターなら2階の部屋に居ますよ、お呼びしますか?」


「いや、ちょっとした商談でね」


「かしこまりました。それでは案内しますね」


「えぇ、頼みます」


 ギルド職員と共に、商業ギルドマスターの部屋に向かった。


 そして案内された部屋には、猫の獣人女性がいた。


「なんだい、ヴェネスか」


 猫の獣人女性はなんというか、疲れ切っているような感じでやつれていた。


「シルビア、元気ですか?」


「元気に見えるかい?元気に見えるなら目医者に行った方が良いよ、それで今日は可愛いお嬢さん達を連れて何のようだい?」


「ロシナティスの再興と、帝国の飢饉対策の話を持ってきたんですよ」


「は!?何冗談いっているんだい?」


「まずはこちらの二人を紹介しましょう、こちらは昼過ぎにAランクに昇格したラミナさん、そしてこちらが、ラミナさんと契約しているセレスティアさんです」


「ラミナです。よろしくお願いします」


「セレスティア!セレスって呼んで!」


「私はシルビアだよ、ラミナのほうはクラーケン討伐していた冒険者だね」


 見ていたんだ。


「そうです」


「Aランク冒険者がなんで再興や飢饉の話につながるんだい?」


「そこなんです、センターリタのダンジョンのことはご存じですよね?」


「あぁ、世界中の薬草をあつめた薬草園なんだろ?それ位は知ってるさ」


「同じ事を水の神殿でやり始めているんです」


「……、なるほどね、セレスは水の神殿を司る精霊か」


 シルビアは、ヴェネスの話を聞いて全てが繋がったのか、すっきりした表情を見せた。


「そうだよ!」


「分かった、とりあえずそっちに座りな、レーベ、上客だ今ある中で一番良いお茶もってきな」


「はい、かしこまりました!」


 私達を案内してくれた職員が慌てて下に降りていった。


 二人掛けソファーのため、私とセレスが座り、ヴェネスはシルビアの横に座った。


「それで具体的にどうするのか聞こうか」


「えっと、帝国が飢饉の間は麦やパンを無料配布します。飢饉解消したらお店でパンを販売したいので、そのお店をやる場所がほしいなぁって思ってます……」


「そいつは構わないが、麦の話だ、ここに話を持ってきたと言うことは、商業ギルドに麦を納品するという認識で相違ないかい?」


「はい」


「そうか、今納品できる麦はどれくらいある?」


『脱穀済みの麦なら5トン以上あるで』


「ぇ!?」


 トンという単位がおかしいのは分かる。


「どうした?」


「えっと脱穀済みの麦なら5トンあると……」


「5トン……、にわかに信じがたいな……、現地に連れて行ってもらっても良いか?」


「いいよ~皆で手をつないで~」


 セレスが、私とヴェネスの手をとり、ヴェネスがシルビアの手に触れた瞬間、周囲の状況が一転した。


 商業ギルドの1室から、気づけばダンジョン内の農場に戻ってきていた。


 おかしい、私がセレスと一緒にロシナティスに移動する前には建物なんて無かったのに、倉庫とおぼしき建物が3棟建っていた。


 おまけに、精霊達の数はまたふえている。


「ここ!そしてこっち来て~」


 セレスが倉庫とおぼしき建物に私達を案内した。


 倉庫には、何かで作られた袋に何かが詰められたものが大量に積み重なっていた。


「これが麦か?」


「そうだよ~見て見る?」


「あぁ」


 セレスが近くの袋を持ってくると床に置き開けた。


「なるほど、麦わらを使った袋か」


 どこから持ってきたのか不明だったけど、麦わらで作った袋だったのか、と私は内心納得していた。


「そうだよ~、どうかな?」


「……、ずいぶん品質の良い麦だな……、これ以上のもなんて世界中探してもどこにも無いぞ」

「当然だよ~皆で力を合わせて作っているんだから~」


 セレスがそう言うと、シルビアは立ち上がり、麦畑を見ていた。


「ゴーレムが動いているだけじゃ無く、精霊達が動いているんだな?」


「そういうこと~」


「わかった、是非取引させてほしい、店の件も任せてくれ、特等席を用意させて貰おうか」


「ぇ!?いいんですか……?」


「あぁ、まずAランクの君から直接大型の取引を持ち込まれる時点で相当名誉な事だからな、私の勘では君はAの器じゃ無い、もっと上までいくだろう」


 すごく褒められている気がするけど……。


「ありがとうございます」


「それから、先も言ったがここまでの品質の麦は見たことがない、このままロシナティスの名産品にすることも考えている」


「いいんじゃない~?飢饉が解消されたら、他の物も育てるつもりだけど~」


「かまわない、その時も是非我がギルドに仲介させてくれ」


「私はラミナが良いなら良いよ~」


「ぇ」


 私が判断するの!?


「是非お願いします」


「あぁ、麦の配布なんかもギルドが仲介していいのかい?」


 そうしてくれると私の手を煩わせずに済むはず……。


「それはもう是非」


 トロランディア帝国から戦を仕掛けられる原因が解消されたら……、あっ。


「あの、もしトロランディア帝国がミネユニロント王国領に戦争を仕掛けたりする場合はこの取引は無しで!」


「わかった。その旨皇帝にも伝えておこう。他に条件はあるのか?」


 条件か、何があるだろうか?


『むしろ、約束を破ったら私達が国を滅ぼしに行きましょうか』


 アクア、何物騒なこと言っているの……。


「えっと大丈夫です。もし可能ならここで採れた麦はあくまでも食料で困っている人達為のもので、優先的にそういった人達にとどけて貰うことは可能ですか?」


「あぁ、もちろんだ!そうさせて貰うよ、他にはあるかい?」


 他にはあるかな……?


『ラミナ、働き手の無い奴らの話はしなくて良いのか?』


 そうでした。


「えっと、働き手の無い人達をここで雇用とかは……」


「良いと思うよ、この倉庫からギルドに運ぶ人手なんかだね?」


 どうやって運ぶのかな?


「そうなんですけど、セレス、ここからロシナティスのギルドまでどうやって運ぶの?」


「ん?それは私がやるよ、人手は収穫の手伝いとかで良いんじゃないかな?」


「だそうです……」


「報酬はどうするのだ?」


「現物支給だけじゃダメですよね?」


 村だったら物々交換とかで基本成り立って、不要な分をキャラバンに売っていたから現物支給ってイメージのほうがあった。


「一部はそれでもいいと思うが、貨幣も必要となると思うが」


「相場とか分からないので、麦を引き取ったお金から支払いで、その辺りもそちらにお願いしたく……」


 私にそんなことをやれと言われても出来ない自信がある!


 本業は学生!


「それは構わないが、ある程度利益が出るように運営すれば良いって事だな?」


「はい、あと利益に関しては、親の居ない子ども達や仕事をしたくても出来ない人のために使って貰っても良いですか?」


「構わないが、それだと君の懐に1ウルも入らないぞ」


「や~私は私で収入があるので、正直ここの収入貰っても使い道ないし、それならそういった人達のために使ってほしいかなと」


「ふむ……、たしかにここでの収入は莫大な物になるのが目に見えているからな、分かった君の要望に添えるよう努力しよう」


 よかった。これでミアン達が待っているミネユニロント王国に行けるかな?


「お願いします」


「あぁ、戻って物件の話をしようか」


 そうでした、まだ話が残っていた……。


読んでくれてありがとうございます!


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