第167話 壮大なプロジェクトへ
セレスと共に、ロシナティスの冒険者ギルドを訪れた。
初めて訪れる町の施設に興味津々なのか、セレスは辺りをきょろきょろと見回している。
「すみません、ヴェネスさんをお願いできますか?」
私はカウンターの職員に声をかけた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
職員は丁寧に応じると、すぐさま階段を上がり、ギルドマスターのいる三階へと向かっていった。やがて、ヴェネスがその職員と共に姿を現す。
「おや?そちらのご婦人は?」
「水の神殿に住んでいる精霊さんです」
「これはこれは……私は冒険者ギルド・ロシナティス支部でギルドマスターを務めております、ヴェネスと申します。お嬢さんのお名前をお伺いしても?」
「私はセレス、セレスティア! ラミナと契約してるの!」
(……その最後の一言、わざわざ言う?)
丁寧な挨拶を返すヴェネスと、無邪気に応じるセレス。その対比がどこか微笑ましい。
「セレスティア様ですね。今後ともよろしくお願いいたします」
「うん、よろしく!」
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「麦の収穫がもうすぐ始まりそうで、それをどうすればいいのか、ご相談に……」
「もう収穫ですか? 時間の流れの違いを考慮しても、それは随分早いですね」
ヴェネスはやや驚いた様子で言う。たしかに、現実世界の一時間でダンジョン内では一週間が経過するとはいえ、ギルドを出てから数時間しか経っていない。
「精霊たちが、ちょっと張り切っちゃって……」
「なるほど。それでしたら、こちらに搬入していただいても結構ですし、商業ギルドに直接納品していただいても構いません」
商業ギルドか……でも、私は別にお金が欲しいわけじゃない。
「ねぇラミナ、私、この町に住みたい!」
「えっ!?」
突然、セレスが思いもよらないことを口にした。
「……なんで?」
率直に尋ねる。いまのロシナティスは、決して魅力に満ちた町とは言い難い。
「なんとなく!」
「ふむ、それでしたら空き家をご紹介しましょうか。麦を定期的に納品していただけるなら、我々としても歓迎いたしますよ」
定期納品……って、あの麦の量じゃ過剰供給になるのが目に見えているけど……いいのかな?
「いいよ! 代わりと言ってはなんだけど、果物とか食べ物の苗や種ちょうだい!」
その“代わり”って何の……!?
「それくらいでしたら問題ありませんよ」
もしかして、麦以外にも栽培する気……?
「やったね! いろいろ育てられるよ!」
……もはや“水の神殿”じゃなくて“農耕の神殿”では?
『ええんちゃう? 一種類だけやと飽きるしなぁ』
『私も同感です』
『俺の出番がないのはどうなんだ……?』
火の精霊の出番……パン焼きぐらい?
「パンとか焼くなら、出番あるかもね」
『パンか……』
「作ろう! パン作ろう!」
「え?」
「せっかく育てた作物、なにかに使おうよ! それを配ればいいじゃん!」
「でも、無料配布すると他のお店が困っちゃうよ?」
「そうですね。ある程度の価格は維持していただかないと、商売が成立しなくなります」
「じゃあ、飢饉が終わるまで配って、その後は普通にお店にしよう!」
なるほど、それなら確かにバランスは取れるかもしれない。
「……ということですが、どうしますか?」
「私としては歓迎ですが、本当にそれでよろしいのですか?」
「私は構いませんよ。実際、働いてるのは精霊たちですし……」
『ええよ、むしろ楽しんどるしな』
『どうせなら、職に困っている人にも手伝ってもらうのもいいかもしれません』
『ボクらだけでもできるけど~町への運搬とかは任せたいかな~』
『パン作り担当が必要だな、俺としては』
……なんだか、ちょっとした町おこしプロジェクトみたいになってきた……。いや、帝国の飢饉・雇用対策まで含んだ国家レベルかも……
私の中では、単に食糧問題を解決できれば、という程度の気持ちだったのに。
「精霊たちは賛成してるみたいです。将来的に、町でお店を構えることを考えて、場所を確保したいのですが……」
「かしこまりました。それでは、この後一緒に商業ギルドへ向かいましょう」
「はい、お願いします」
こうして、私はヴェネス、セレスと共に商業ギルドへと足を運ぶこととなった――。
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