第166話 水の神殿
冒険者ギルドを後にした後、そのまま水の神殿と呼ばれるダンジョンに向かっていた。
「さっき、水中に潜るときにアクアとミントが助けてくれるって言っていたけど、アクアは分かるんだけどミントはなんで?」
『エアリウム・パインという木材が濡れると酸素を発生させるんです。これを口にくわえて水中を潜るといいんですよ』
「へぇ~、近くで取れるの?」
『取れるで、こっちや』
海岸から離れて森の中に案内された。
「珍しい木材?」
『海沿いでよく見られるで』
「へぇ~」
森の中を進んでいくと、私の背丈程に生長した若木の上にミントが停まった。
『これや、この枝を折ってくとええで』
「うん」
ミントが指さした枝を折った。
「これでどうするの?」
『皮を剥けばええねん、効果時間が短いけど葉っぱも似た効果があんで』
「へぇ、枝だとどれくらい?」
『24時間や、葉っぱは1枚あたり12時間や』
何方にしても十分な効果時間がある。
カバンからナイフを取り出して樹皮を削った。
「これでいい?」
『ええで』
『それではダンジョンに行きましょうか』
「うん」
精霊達について行くと、キラーウェールが打ち上げられていた場所から少し奥に入ったところにダンジョンの入り口があった。
ダンジョンの中に入ると、外の空間とは一転して、神秘的な暗闇の中、天からの一筋の光が静寂を照らし出し、その光は苔むした石段を下りていくと、未知の巨大な石造りの建物という作りになっていた。
建物の周りには大きな池があった。
「なんか、帝都のダンジョンと全然違うよね?」
『そうですね』
『魔物がいる気配がねぇな、とりあえず進もうぜ』
「うん」
足下が少し滑り安い、滑らないように気をつけながら1段1段降りていく。
石造りの建物の中に入るも、何かが居る気配がしない。
「何も居ないね」
建物内を探索すると、いろいろな人種や魔物の彫刻が置かれていた。
「これって、動き出さないよね……?」
『今のところそんな気配ないね~心配ならボクが貰ってくるけど~』
貰ってくるって何だろう?
まん丸はそう言うと、エルフを象った像に近づき触れると、像が粉々になり、まん丸の周りに集まりだした。次第にまん丸が像と同じ姿になっていた。
「エルフのゴーレム……」
『この粉ね~アダマンタイトだよ~』
「聞いたことのある鉱石……」
『結構良い鉱石と思えばよいかと』
『せやね』
さらに奥に進んでいくと下に続く階段があった。
「魔物も居ないし、良いのかな?」
『別に良いだろ、どうやら直接会う気があるみたいだからな』
『そのようですね』
「というと?」
『この先がコアルームなんよ』
「ぇ?」
『ダンジョン攻略する手間省けたね~』
それはうれしいのだけど、このまま無いも起きずに済むのかな?
そのまま下り階段を降りると、目の前には地下都市ダンジョンのコアルームと同じような部屋になっていた。
「だれもいなくない?」
辺りを見渡すも人影が見当たらなかった。
『いませんね』
次の一歩を踏み込んだ瞬間、空気が一変した。静寂が支配するその場所で、ただ立ち尽くすしかなかった。
「なんか空気変わった?」
『変わったな、姿を現すと思うぞ』
グレンの声に反応したかのように、突如として、部屋の中央にあるダンジョンコアから柔らかな光が放たれ始めた。
透明感のある美しい少女の姿をしていた。
彼女は私たちに微笑みかけながら、ゆっくりと近づいてきた。
動いたら殺されるみたいな感じはないが、動いてはいけないような空気に支配されていた。
彼女が手を伸ばせば私に触れることが出来るところまで来ると。
「ちゃお!ようこそ水の神殿へ!」
元気よく挨拶をしてきた。
なんというか、直前の空気はなんだったのだろうか?
「あっ、うん……、こんにちは……」
「君のことは、クゥから聞いているよ~、ここに何のようなの~?」
「あの、良かったらダンジョンの一角を借りられないかな?」
「なんで~?」
ん、OK貰うにはどのように伝えれば良いのだろうか?
「あのね、今ダンジョン入り口のある国が飢饉で食糧不足に悩まされているの、だから場所を借りて麦の栽培とかを出来たらな~なんて……、ダメだよね……?」
「ん?いいよ~」
「やっぱり……、ぇ?いいの?」
ダメって言われたと思って返してしまったけど、OKがでた!?
「えっと、ほんとに?」
「うん、いいよ~、最近来る人が減ってね~暇なんだ~」
まぁ、彼女が良いっていうなら良いんだろうけど、あっさりOKがでて拍子抜けだった。
「えっと、どれくらいのスペース借りて良いかな?」
「その前に名前ちょうだい?」
「あっ、ごめん」
本当にあっさり契約まで進んだけど……。
「ん~、セレスティアはどうかな?」
以前アクアからセイレーンの話を聞いたときに出てきた名前だ。
「ありがとう!私はセレスティア!」
喜んでくれたようで良かった。
「それで、どれくらい借りられるかな?」
「使ってない部分全部使って良いよ」
「ん?」
「ちょっと失礼」
セレスティアが私に触れると、周囲の光景が一転した。
「ここを好きな環境にしていいよ」
ダンジョン内なのに空があり太陽とおぼしき物も存在していた。そして見渡す限りの平地、地平線の果てまで続く平地……。
『魔素が流れてるな』
『ですね、それにこの広さ……、ルマーン帝国丸々入る広さですよ……』
世界地図を見たときに、ルマーン帝国はそこまで広くは無いけど、小さくも無い国だったと思うけど、それが丸々って……。
「ここ1面畑とかにしていいの?」
「いいよ~、けれど私一人でやりたくないかなぁ」
『魔素流れてるし、子ども等を派遣すればよくない~?』
『そうですね、上位の子らを派遣しましょうか』
『OK~』
『俺も一応……』
それぞれが、周囲の魔素を利用して上位精霊を複数出していた。
地の子は早速、地面の土を使いゴーレム化して畑を作っていた。
「お~なんだか賑やかになりそうだね~」
私が何もしなくても事が進んでいく……。
『ラミナ、カバンの中に麦あるやろ?』
「あったっけ?」
私は入れた記憶がないので、あるとしたら先祖が入れた麦だ。
鞄の中に手を入れて念じてみると1房の麦が手元に現れ鞄から出した。
「これでいい?」
『ええで、地面において』
ミントに言われたとおりに地面に置くと、植物の子達が集まってきた。
何をするのかと思い見ていると、麦の成長促進を繰り返し、種となる部分を大量に増やしていた。
『まん丸~とりあえずこれ撒いといて』
『は~い』
地の子ゴーレム達が、植物の子等が増やした麦の種を
『セレス、ここに川を伸ばしたりして貰っても?』
「いいよ~」
麦畑の近くに川が出現した。
「これでいい~?」
『ありがとうございます』
ゴーレム達が撒いた種の場所に、植物と水の子らがいき麦の成長を促していた。
「なんか、皆の子ども達異様な速度で増えているよね?」
正直ドン引きするレベルで増殖している。
『無限に魔素がありますからね、どんなに無理しても回復しますし』
『それにな、こんなに大きな仕事するんは久しぶりやわ』
『だな、センターリタの薬草園以来だな』
気づけば早い物はすでに芽が出てにょきにょき成長していた。
「そういえば、セレスは外に出たとしてどこまで行けるの?」
「ロシナティス中心に2~3キロくらい?」
それはおかしい、ダンジョンの入り口自体、ロシナティスから1キロ離れてないくらいの場所にあったはずなのに、なんでロシナティス中心?
「あっ、もしかして海中に入り口があるダンジョンって……」
「ここだよ~、元々あそこ地上だったんだけど、地殻変動で沈んじゃったんだよね~それでこっちにしたんだ~」
「あっ、そうなんだ、あっちの入り口閉じないの?」
「あそこの入り口結構使ってる子居るんだよ~」
「ぇ?」
誰が使ってるんだろうか?
「ちょっと失礼」
そう言って私に触れると、再び転移して連れてこられた場所はダンジョンを入って直ぐの場所だった。
「あそこの入り口ってそこの池に繋がってるんだ」
「へぇ……」
池の中を見て見ると、綺麗な珊瑚があり小魚が結構いた。
正直、泳いでみたいと思えるくらいに綺麗だ。
「魚?」
「そうそう~、入り口も大きくないから大きな魚は来ないんだけどね~」
「はぁ~、なんかすごいね……」
ダンジョン内にで一つの生態系が出来ていることに感心した。
「釣りする?」
「いや……、釣り具とかないし、もどろ?」
「うん」
再び、精霊達がやっている麦畑に戻ってきて驚いた。
すでに収穫出来そうなレベルまで成長していたのだ、おまけに精霊達がさらに増えていた。
「なんか……、すごい成長速度だね」
『たんまり魔素があるからね』
「収穫したらどうするの?」
セレスティアの言うことももっともだ、その先を考えてなかった。
「一緒に冒険者ギルドにいかない?」
「いいよ~、町の外でいいかな?」
「転移先だよね?」
「そうそう~」
「うん、お願い」
セレスが私に触れると、日が落ち始めた町の外にいた。
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