第163話 クラーケン誘導
磯からロシナティスの冒険者ギルドに向かっていると、砂浜にチラホラと人が集まっていた。
「何かあるのかな?」
『クラーケン討伐の見学だな』
「ぇ?」
『夕べの宴会でギルドの職員がぽろっと話しちゃったんだよ~』
「ぇ~」
地味な討伐になると思われるのに……。
「派手にやらないとダメかな?」
「派手にやりますか?」
「やりますか?って出来るの?」
「えぇ、リタの時に1度やりましたからね」
『精霊召喚の儀みたいなやつやね』
『あれは確かに派手だが、キラーウェールの背に乗りながらやるのか?』
想像してみて思った。砂浜に上がってきてから精霊召喚とかはなんかシュールな気がする。
「それで良いかもしれませんね、いったん姿を消しておきましょう」
どんな演出になるのだろうか?
冒険者ギルドにつくと、ギルドマスターのエルフとアカデミーの先輩の職員が既に待っていた。
「おはようございます」
「ラミナさんおはよう~」
「おはようございます。昨日は名乗っていませんでしたね、私はロシナティスの冒険者ギルドのギルドマスターをやっているヴェネスです。そしてこちらは」
「ギルド職員のレンゲです。よろしくお願いしますね」
「はい」
「それでは早速砂浜の方に向かいましょうか」
「はい」
冒険者ギルドを後にして、砂浜に向かった。
「これは、ずいぶん人が集まっていますね」
確かに冒険者ギルドに向かうときに比べて、人が増えていた。
「すいません、昨夜私が口を滑らせまして……」
「いえ、構いませんが、ラミナさんはこのような状況でもよろしいので?」
「んまぁ……」
よろしくないって言ったところで状況が変わるとは思えなかった。
「あまり無理しないでくださいね」
「はい……」
「ところで、どうやってクラーケンをここに連れてくるんですか?」
レンゲが私に尋ねた。
「私が餌になるらしいです」
「なるほど?クラーケンは魔素量が多い生物を襲うというのはよく聞きますが……」
「砂浜で待ってればクラーケンが寄ってくるんですか?」
「いえ、泳いで引き寄せるんです」
「「ぇ?」」
そりゃ、そういう反応になるよね。
「船ではなく、泳いでですか?」
「はい、ちなみに泳ぐのは私じゃありませんよ」
「「ん???」」
二人の頭に“?”が浮いているのがよく分かる。
「ラミナさんが泳がないで誰が泳ぐんですか?」
「これから紹介しますよ」
二頭キラーウェールが友人のような感じになっているけど、大丈夫だよね。
私が波打ち際まで来ると、沖の方からキラーウェールの群れが私の方に集まってきた。
あれ?
二頭じゃない、軽く数えても10頭以上居るように見える。
「なんか増えてる……」
「シャチですか」
「シャチ?キラーウェールじゃないんですか?」
「キラーウェールのことをこの辺りの人はシャチと呼ぶんですよ」
「へぇ~、ってかものすごく増えているんだけど……」
『元々彼らは群れで生活しますからね、助けた母娘が仲間を呼んだんじゃ無いですか?』
「なるほど……」
私が海に入ると、群れの中で一番大きい個体と思われるキラーウェールが私の元に寄ってきてお腹のあたりを鼻先でつんつんしてきた。
「これ、乗って良いのかな?」
『えぇ、どうやら彼が一番パワーがあるようですからね』
「じゃあ、よろしくね」
「キィ~!」
頭をなでると、一瞬顔を出して一声鳴いて再び潜った。
彼の背びれを掴み、またがる。
「それじゃあ、ちょっと連れてきます」
「あぁ……」
ゆっくりとだが、泳ぎ始めた。私は落とされないように、必死で捕まりながら沖に向かった。
しばらくしがみついていると。
『近くに居ますね』
『面倒な奴もおるやん』
『テラマウスはキラーウェールが天敵だから大丈夫でしょう』
「テラマウス?」
『サメ系の魔物だな、今乗っている奴と同等の大きさだが、こいつらはテラマウスなんかの肝臓が好物だからな』
『グレンのいうとおりです。なので近くに居てもこちらに気づいたら逃げ出しますよ』
サメって、私達人からすれば結構恐ろしい生き物だったと思うんだけど、キラーウェール達にとってはただの餌なんだ。
『テラマウスは結構美味しいんだよ~』
「そうなの?」
まん丸が評価するって事は本当に美味しいんだろう、いつか食べる機会があると良いな。
そんなことを思っていると、なんとなくだが同じ所をグルグル泳いでる気がする。
「同じ所を泳いでる?」
『えぇ、すでに姿を確認できる距離まで近づいているのですが、寝ているらしく反応がないんですよ』
「魔法を一発当てて起こしちゃえば良いじゃん」
『そうしましょうか、それでは逃げる用意を』
アクアがそういうと、キラーウェール達が反転し砂浜の方を向いた。
『では、行きますよ!』
その次の瞬間、海上に何かが落ちたような音が響き、キラーウェール達が全力とも思えるような勢いで泳ぎ始めた。
“落ちる!”って思った瞬間、両サイドのキラーウェールが私の足が後ろに流れないように鼻で押さえてくれた。
「ありがとう!」
聞こえるはずも無いだろうけど、思わずお礼を言ってしまった。
『それではラミナ、精霊召喚の詠唱文句を伝えますね』
「うん」
その後、必死に背びれに捕まりながら、アクアから精霊召喚の詠唱文句を教わった。
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