第138話 完全内臓逆位
レージュ村を後にして、その日の夕方にはキラベルに到着した。
キラベルでは崩れた瓦礫の撤去が済み、地の精霊達と住民達による建築ラッシュが始まっていた。
レージュ村は元の土地に、元々あった家屋と同等の大きさ作っておしまいにしていたけど、こちらはちゃんとレンガや石を詰めたりしていた。
「なんか、結構進んでいるね」
『キラベル実習に来た子達も何かしら手伝ったりしていますからね』
SとAクラスは貴族の子が多いから“何で僕らが平民の家なんかを!”とか反発しそうなものだけど……。
「皆素直に手伝っているの?」
『ミッシェルが先陣切って動いてよるね』
他国の王女が手伝っているのに、って流れですか。
「皆それに続いたと……」
『えぇ、ミッシェルは体を動かす事が好きなようですし、結構楽しんでお手伝いしていますよ』
まぁ、まとまっているなら良いか、私はこの後どうすればいいかな?
「クロエ先生はどこに居るのかな?」
『教会の前におるで』
ミントを先導に教会まで行くと、クロエが中年のエルフ女性の方と話をしていた。
エルフの女性にはドライアドが付いている。錬金科の卒業生?
「クロエ先生、戻りました」
「お、帰ったか」
「おやおや、こりゃ懐かしい顔じゃのぉ」
だれ?
あったことないはずだけど、もしかして……。
『ひよっこがおばちゃんになっとる』
「ぇ?」
『彼女の名はロゼッタ、錬金科設立当初の薬草学の講師をしていたんですよ』
「ってことは、リタと知り合い……」
『せやで、ルマーン革命の時なんか今のラミナと同じ位やったんや』
『ロゼッタの出産にも立ち会っていましたよ』
先祖を知るエルフって多い?
「ほっほっほ、ヴィッシュ先生が言っていた子だね」
「何か聞いているのですか?」
クロエが尋ねていた。
「リタ先生にそっくりな子がアカデミーに来たと先日手紙を貰ったよ、それもその年でリタ先生が治せなかった病を治療したともね」
ミアンの魔素硬化症の件だろうか?
「ほぉ、それは知らなかった」
クロエが視線をこちらに向けた。
「えっと……」
「クロエ、彼女を借りもいいかい?」
「えぇ、構いませんよ、先ほどの件ですよね?」
「えぇ、おそらく彼女なら治せるかもしれないからねぇ」
なにかの病気だろうか?
「構いませんよ、明日の昼まででしたらこき使ってやってください」
「ほっほ、そうさせてもらうかのぉ」
私は何をされるのだろうか?
「ふむ、たしかラミナって名だったかい?」
「あっ、はいラミナですよろしくお願いします」
「私はロゼッタ、キラベルで薬師のとりまとめをやっとる」
『キラベルの治癒院で院長としても活動しているようですよ』
キラベルで医療行為するなら必ず関わってくる人と……。
なんて返せば良いのかな?
「私についてにおいで」
「はい」
ロゼッタの後に付いていくと、大通りから外れて住宅街とおぼしきエリアに連れてこられた。ゴーレム化している地の子達と住民とおぼしき人、実習に来ている同級生らと一緒に立て直しをしている中奥に進んでいく。
「ここだよ」
案内された先は古い木造家屋だけど、地震の影響が無かったかのような佇まいだった。
「あれ?地震で崩れたりしなかったんですか?」
「この地は定期的に大きな地震がくるからねぇ、私らは周囲の連中とは違って木材を中心にしとるんだよ」
「木材だと地震に強いんですか?」
「使う木材次第だねぇ、キラベル火山の麓に広がる樹海にはよくしなるキラベルパインって樹木があってね、それをうまく使うと大きな地震でもびくともしないのさ」
「へぇ」
エルフの知恵ってやつなのだろうか?
「エルフの間での知識みたいなのなんですか?」
「ふっふ、そうだねぇ、私らエルフの知恵かもしれないねぇ、これを見ても人の子等はレンガや石材を中心にした家を建てたがるんだよ」
何かこだわりがあるのかな?
「こんな所で立ち話も何だから中に入ろうか」
「はい」
『なるほど、虫垂が炎症を起こしている方ですか』
「虫垂?右側の下腹部にあるやつ?」
『えぇ、ですがもう一つ、彼は普通の人とはちがい完全内臓逆位と呼ばれ全ての臓器左右が反転していますね』
「ん?心臓が左じゃなく右にあるとかそういうこと?」
『えぇ』
始めて聞いたかも。
ロゼッタの後に続き門をくぐり、中に入った。
「っほっほっほ、本当にリタ先生のように独り言を始めるんだねぇ、精霊様はなにか言っていたのかい?」
「えっと虫垂って言っていました。あとは全ての内臓が左右反転している完全内臓逆位だそうです」
「なるほどねぇ、心音の位置がずれていると思ったがそういうことかい、やはり全てを見通せる精霊様だねぇ」
「ロゼッタさんにも精霊付いていますよね?」
「そうだねぇ、アカデミーに講師として招かれた時にリタ先生からいただいてからずっと世話になっとるよ」
「精霊達が、先祖がロゼッタさんの出産に立ち会ったとも言っていました」
「そうだねぇ、ちなみに私の名を付けたのもリタ先生なんだよ」
「ぇ」
「私が生まれた頃は乳児の死亡率が今よりも高くてねぇ、薬師の見習いとして村に来ていたリタ先生が母を気遣ってくれてね、私が生まれるまでずっと側にいて母を守ってくれたそうだよ」
『懐かしいですね』
『あの日は今でも鮮明に覚えているな、雨風がひどい夜だったよな』
『だね~、キラベルハーブ取りに来て嵐で帰れなくなったんだよね~』
『ほんで近くの村に一泊させてもらいに行ったら、薬の知識があるならって事で出産に立ち会うことになってんなぁ』
『でも結果として、リタが居なかったらロゼッタは生きてなかったんですよ』
「へぇ……」
ロゼッタさんの記憶が美化されていたりしないかな?
たまたま居合わせて、たまたま薬の知識があるからって事で立ち会ったと……。
「この後見て貰いたい子が居るんだが、精霊様から聞いているね?」
「はい」
「治療法は分かるかい?薬じゃ痛みを抑えるくらいしか出来なくてねぇ」
切り取ってヒールポーションで大丈夫だと思う。
「ん~、たぶん虫垂を切り取ってヒールポーションで虫垂を回復させれば大丈夫じゃないですかね?」
『理屈上はそれで行けると思うけどええの?』
『大丈夫でしょ、何かあれば全力でフォローすれば良いだけですし』
いつものように、ミントが心配し、アクアが返す。
ミアンの事例を考えたら、理論上それで行けるはず。
「ほっほ、なるほどねぇ、本人が良いと言ったら頼んでも良いかい?」
「はい、大丈夫です」
「ちょっとまってておくれ」
ロゼッタが近くの部屋に入っていった。
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