第131話 キラベルサバイバル学習
二週間前の学内武道会が終わって、季節はもう六月の第二週。恒例の「サバイバル学習」第二回が始まる――そんなタイミングだった。
「よし、これからキラベル丘陵に向かう!前回と同じだが、トラブルは起こすなよ!」
クロエ先生が号令をかけ、私たちは整列して帝都西門へ移動。そこから馬車に分乗して、再びキラベルへと出発した。
今回の実習はちょっと違う。前はグループ単位の活動だったけど、今回は二組で一つのチーム。Sクラス全体で四つ、八〜十人編成のグループが組まれている。
それだけじゃない。なんと私のグループ以外には、護衛として騎士科と魔法科の先輩が2人ずつ同行することになった。ハンゾー先輩、ミラ先輩、そしてなぜか錬金科のファラ先輩まで……。
「私たちのグループにはラミナさんがいるから、護衛はいらないのね」
「精霊さんがいるから問題ないよね」
「そうですわね、お強いですし」
馬車の中では、ミッシェル達とミアンがのんきにおしゃべりしている。私はというと、隅っこでポーションの仕込み中。
今回はミッシェルたちのグループと合流して、九人での行動となっている。
ジョーイは最初から馬車に乗らず、馬車の上空を飛んで移動しており、私は車内の隅でポーション作りを始めた。
「ラミナ、私も手伝っていい?」
「うん、お願い」
ミアンが隣に座り、瓶や材料を並べながら一緒に作業を始めた。備えあれば憂いなし。何があるか分からないしね。
キラベル東門から街を抜けて、西門を出たところで馬車は止まった。
「よし、全員降りろ。今夜はあそこの丘で一晩過ごすぞ。降りたらすぐに野営の準備に取りかかれ!」
目指す丘は、以前オークの解体練習を行った場所だった。
「丘の頂上って、結構遠くありませんこと?」
「そうだね。でも、登りでも十〜二十分もあれば着くと思う」
そんな会話をしつつ、私たちは登り始めた。そして、そのときふと目に入ったのが、空に上がる薄黒い煙――。
……あれ、キラベル火山、噴いてない?
「ねぇ、グレン。前に来たとき、麓の村の人に“噴火するから避難しろ”って言っていたけど、もう噴火は終わったの?」
『いや、今日か明日中に起こるだろうな』
は!? まさかの“これから”!?
……実習する時期、間違えたんじゃないの!?
『溶岩は北側に流れるから、ここには関係ないよ〜』
『北側は湿地帯が広がってるし、火の勢いも抑えられるだろ。それよりだな』
「それより?」
『大きな地揺れが起きるよ〜』
「地揺れ?」
『地震と呼ばれている現象ですね』
地震!? そんなの聞いたことない!
村にいた頃は、一度もそんな現象なんて起きなかった。想像すらできない。
「そうなんだ……」
「ラミナ、何かあったの? さっき“噴火”って……?」
隣を歩いていたミアンが、少し不安そうに顔を覗き込んできた。
「うん。キラベル火山が今日か明日には噴火するって。それと、地揺れ──地震が起きるみたい」
「噴火と地震って連動するって聞きますよね」
「……ミアン、地震が起きるのか」
ジョーイが会話に加わる。私たちの話が聞こえていたようだ。
「うん、ラミナが精霊さんからそう聞いたらしいよ」
「だからか……途中から嫌な予感がずっとしてた。キラベルに近づくにつれて強くなってる気がしてたからな」
『動物や獣人は、そういう自然の異変に敏感ですからね。感覚的に察知しているのでしょう』
そうなんだ……。
とにかく、丘の頂上に着いたらすぐ、クロエ先生に報告しなきゃ。
登頂自体はスムーズに完了した。私はグループのみんなに一言伝えてから、クロエ先生の元へ向かう。
「クロエ先生、少しよろしいですか?」
「ん? どうした? 何か問題でも?」
「問題といえば問題なのですが……精霊たちが言ってたんです。今日か明日、キラベル火山が噴火するって。それに……“地揺れ”が起きるとも」
「ふむ、噴火については事前に情報があったが、今日か明日とは随分と具体的だな。地揺れの方は、いつ起こると言っていた?」
そういえば……いつって言ってなかったかも。
「……いつ起きるの?」
『たぶん噴火と同時じゃないかな〜? どっちが引き金か分からないんだけどね〜』
「噴火と同時くらいじゃないかって。どちらが引き金になるかは分からないそうです」
「なるほど。ということは、どちらも切迫している状態というわけか。ほかに何か言っていたか?」
「溶岩は北側に流れるって……湿地帯があって、火の広がりは心配いらないとか」
「そうか。確かに、キラベルの北にはメリットン大湿原が広がっているからな。となると、最大の懸念は地揺れだ。このあたりの地盤は崩れる恐れがあるか?」
『この丘は大丈夫だけど〜、キラベルの街中が……どうなるかは分からないよ〜』
……それ、結構重大な話じゃない?
「この丘は無事みたいです。でも、キラベルの町については……」
「そうか。ここが安全ならいいが、町の方は領主や冒険者ギルドに連絡しておくべきだな。了解だ、この件はこちらで対応しよう」
「お願いします」
メンバーのもとへ戻る途中、 クロエ先生がすぐにハンゾー先輩を呼び止め、何か指示を出しているのが見えた。
「……ハンゾー先輩に伝令を任せたのかな?」
『急ぎの連絡ですからね。速さで言えば、ハンゾーが一番ですし』
私はそのまま皆のもとに戻り、“まん丸”の力を借りて立派な屋敷と塀を作り上げた。
メンバーたちの野営準備が整う頃には、すでに陽も傾き始めており、私たちはそのまま夕食の準備に取りかかった。
──今回の実習、どうにも“何事もなく終わる”気がしなかった。
読んでくれてありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、
作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!
みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。
引き続きよろしくお願いします!