第126話 いざラマンサの里へ
週末、アカデミーの入り口でファラを待っていた。
「来ないね~」
昨日のクラブ活動時に、八時と言っていたんだけど、現在の時刻は七時五八分。
『まだ時間前だからな』
『せやなぁ、ゆっくり待っとったらええんちゃう?』
私個人としてはそういう気持ちなのだが、リタの話が聞けるかもしれないと思うと早く向かいたかった。
少し待っているとファラが来た。
「おっす、お前早いな」
「おはようございます」
正直自分が待つのは構わないけど、人を待たせるのは個人的に気が引ける。
「あぁ、んじゃ行くか」
「はい!」
帝都の西門へ向かって歩き出した。
「どうやって行くの?」
「ん、歩きでハーヴァーまで行って、渡し船じゃね?」
村から上京するときはハーヴァーから船だったけれど、今回は歩きでいくのか。
「わかりました」
西門を抜けて川沿いの道を駆け足で移動する。
ファラは、時々こちらを見て着いてきているのか確認しながら前を走っていた。
「お前すごいな」
「これくらいなら……」
全力疾走でもないし、大して苦でもない。
「多分ハーヴァーまで全力でも行けると思います」
『余裕やろうなぁ』
『そうですね、キラベルよりも近いですからね』
精霊たちのお墨付きをもらった。
「ふ~ん、じゃあ行くか!ついてきな」
ファラが一段どころかかなりペースを上げた。
体格差もあってか徐々に差が開いていく。
大人げない気がする!
『ラミナ、強化を使え、二~三割位強化すれば余裕になるはずだ』
「わかった」
グレンのアドバイス通り、少し足を強化する。
すると、だいぶ楽にはなったけど、ゴリゴリ体力が削られている気がする。
「へぇ~、これでもついてくるのか」
「これくらいならハーヴァーまでは行けるそうです」
鞄の中にはスタミナポーションもマジックポーションもある。どちらかがきつくなれば飲めばいい。
「へぇ~いいねぇ~、泳げるか?」
「ぇ?」
渡し船じゃなくて、まさか泳ぐ気なのだろうか?
「泳げますけど、魔物は……?」
「お前の精霊が何とかできないのか?」
アクア頼みですか……。
『良いですよ、近くにいてもらえればそれで大丈夫ですよ』
「先輩、近くにいてくれればそれでいいって」
「よっし!それじゃあ行くか!」
ファラはそういうと、川岸のほうに向かい、そのまま泳ぎ始めた。
私も置いて行かれないように必死についていく。
川に足を入れてみるととても冷たい。時期はまだ夏というには早い、どちらかというと春の終わりだ。
「ぇ~……、この中泳ぐの……?」
『俺が何とかしよう』
グレンのおかげか、わずかながら水温が上がった気がする。
「ありがとう、アクア、サポートお願い」
泳ぎに関してはどちらかというと得意なほうだとおもっているが、念のため、アクアにサポートを依頼した。
『えぇ、お任せください』
ファラの方を見ると、こちらを見ることなく泳ぎ続けている。魔物の心配は私だけでいいのかな?
「ついてかないと……」
グレンのおかげで周囲の水温が上がり、アクアのサポートもあり、先を泳ぐファラの後についていく。
思ったことがある。かなり流れが速い気がする。
『ねぇ、流れが速い気がするんだけど……』
『この先支流と本流がぶつかりますからね、両方の流れがありますから』
ハーヴァーからグリーサに向かう時の事を思い出した。
『リタとアクアが出会った場所?』
『えぇ、その通りです』
そうなると、ハーヴァーまではあと少しの場所だ。
『ラミナ、こっちやで~』
ファラの姿を見失ったまま、精霊達の声を頼りに泳ぎ続けると、ようやく足が届くところについた。
「ふぅ……、疲れた……」
服を着たまま泳ぐのは初めてだ、倍以上体力を使った気がする。
『おつかれさん』
『お疲れ様~』
『おつやで~』
『お疲れさまでした』
精霊達にねぎらわれて辺りを見渡すも、ファラの姿が見当たらなかった。
「あれ?先輩は?」
『お昼ごはんとなる魔物を狩ってるようですよ』
「元気だね……、というか体力続くんだね」
『あいつは元々体力があるようだな』
『そうですね、ラミナと同じ理由でしょうね』
「ぇ?」
『村に居たころ、薬草園まで山を駆け登ってたやろ』
「うん」
『ファラも似たように、自然を相手に生活して基礎体力が身についたんだろうな』
動きやスタイルを見ていて鍛えてる感じなのはわかる。体力のほうはどうなんだろうか?
「はぁ……、体力があるのはスタミナポーションを飲んでるとか?」
『どうでしょうね、多分飲んでないと思いますよ』
『だな、おそらく地道にトレーニングしたりしてるんだろうよ』
私は、スタミナポーションを飲むことで、体力底上げしているけれど、ファラは日々のトレーニングの結果として十分な体力を身に着けているのか感心した。
『服を乾かしますね』
「うん、お願い」
アクアがわずかに光、全身の水気が飛びきれいになった。
「ありがとう」
『どういたしまして』
しばらく精霊達と雑談していると、少し上流の方でファラが水面から顔を出した。
「お、ちょうどよかった。少し腹ごしらえしようぜ」
そういって寄ってきたファラの手元を見ると、貝系と魚系の魔物を持っていた。
「手づかみですか……?」
「あぁ、魚ならグレンに教わったあれが役に立つな」
「ぇ?」
グレンに教わったあれ?
思い当たる節は、学内武道会のエキシビションマッチ……。
「武道会のやつですか?」
「あぁ、あれをうまく使えば、少し離れたところにいる魚にダメージ与えられるんだよ」
『ショックウェーブだな、教えた甲斐があったってものだな』
「……」
私には想像を超えることで言葉を失ってしまった。
『実際にマンティスシュリンプも同じことが出来るんですよ』
魔物生物学で聞いたことがある。なんでも数メートル離れた船にダメージを与える厄介者だって……。
「あれと同じなんだ……」
『えぇ、水中では空気中より何倍もの伝播しますからね』
「どうした?」
独り言が始まった私に対して、気にかけてくれているようだった。
「いえ、グレンが教えた甲斐があったって……」
「あぁ、感謝してるぜ、さ、飯食おう、里まではあと少しだからな」
「はい」
その後グレンの力も借りて、サックっと昼食を済ませて、ラマンサの里を目指した。
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