第12話 幕間 リタと入学試験2
植物の大精霊ミドリ(ミント)視点
実技試験2戦目
2人の男女学生が前に立った。男は剣を構え、女は杖を構えている。剣士と魔法使いという組み合わせのようだ。
「双方準備を」
リタはポケットからレッドローズの種を取り出した。
「ミドリ」
『OK』
リタの魔素を使い、種を鞭状に成長させた。
『これ、いらんのちゃう?』
「まぁね。いつでもどうぞ」
審判役が二人の試験官役の方を見る。
「こちらも問題ない」
「それでは、はじめ!」
先ほどの試合を見ていたからだろう、いきなり突っ込んでくることはなかった。2人とも足元を確認した上で、剣を持った男はこちらに向かい、女は詠唱を始めた。
そして次の瞬間、2人がリタのいる方に吹っ飛んだ。
「「ゲッハッ」」
アオイが、二人の背後から特大アイスボールを見舞ったのだ。
「ミドリ」
『OK』
吹っ飛んだ二人をツタで縛り上げた。
「先輩方、攻撃手段は足元とは限らないのよ」
『どっちか貴族?』
リタから質問が来た。
『二人とも貴族やね』
また煽る気だろう。リタの貴族嫌いは本当にひどい。親を貴族に殺されたと言っても過言ではないから分かるのだが……。
「で、先ほどの無能にも言いましたけど、2人がかりで幼い女子に勝てないってどうなの? そんなのが領民を守れるんです? 弱すぎですよ先輩方」
『まぁ尤もやな。そんなのが領主になったところで領民守れんわ……』
『領主1人が守るものじゃないですけどね……』
「リタ君」
「は~い。あ~あ、せっかく武器を出したのに無駄になっちゃった~。弱すぎ」
『ほんまに、煽るの好きやなぁ』
『ですね……』
リタは元の開始位置に戻ってくると——
「次!」
審判がそう言うと、4人の男女が出てきた。剣と盾を持つ男、槍を持つ女、弓を持つ男、杖を持つ女。バランスの良さそうなパーティーだった。
『貴族はおらんね』
「ふ~ん、真面目にやろっか」
『やっとかいな』
『ミドリは蔦を回りに生やして護衛を、アオイは~』
もはや一方的なやり方だった。
「双方準備を!」
「いつでもどうぞ」
「俺らも問題ない!」
4人それぞれが武器を構え、リタは鞭を振り回して遊んでいた。
「では、はじめっ!」
審判の合図とともに4人を、アオイのアイスウォールが取り囲んだ。
「赤き炎よ、我が魔素を喰らいて壁となれ……」
そしてリタが魔法詠唱を始める。
槍使いと剣盾使いは氷から抜け出せないようだが、弓使いが矢を上空に放ったり、魔法使いがロックバレットを詠唱し、氷の壁を割ろうとしていた。
「喰らえ……、喰らえ……我が魔素を……猛炎となりて奴らを消し炭にせよ!」
『消し炭って手加減する気ないん!? どんだけ本気を出すねん!』
「ファイヤーウォール!」
その瞬間、アオイの出していたアイスウォールの内側にリタの容赦ない炎の壁が4人を囲った。
「武器が……」
4人のうちの誰かが言った。
「そりゃそうでしょ。金属も溶かす炎ですから、降参してくださいまし」
リタの発言に対し、4人の誰も降参を口にしない。弓使いが山なりに矢を放ってくる。
「降参してくれないのなら、そのまま消し炭になりますよ」
リタがそう言うと、炎の壁が内側の空間を狭めるように動き出す。
「早くしないと……」
「それまで!」
4人からのギブアップではなく、審判によるストップがかかった。
アオイがアイスウォールを解き、リタもファイヤーウォールを解いた。
4人の姿が見えるようになると、剣と盾を持った男の姿が結構悲惨な状態だった。盾の大半が炎で溶け、溶けた金属により腕を大やけど、剣も原型をとどめていなかった。
『なぁ、リタ、あいつら火傷とかしてんとちゃう?』
「してるでしょうね、薬余ってるでしょ」
『分けるん?』
「それくらいはね」
そう言うとリタは4人の元に行った。
「なに? 私たちも馬鹿にするの?」
杖を持った女が怒ったように言った。
「馬鹿にされたいの? ならしてあげるけど?」
リタがスカートの裾をめくり、レッグバッグからお手製のハイポーションを4本出した。
「あなた、これだけ負傷して弱音を吐かないって見事ね」
「あっ?」
重度の火傷を負っている男に向かって、リタなりに褒め称えているのだろうが……。
「腕を出して」
「何すんだ……」
「治療よ、アオイ手を貸してちょうだい」
『はい』
「あなた、精霊使い?」
試験官役の上級生がリタに尋ねていた。
「そうよ、それがなにか?」
「いえ……」
リタは、アオイの治癒魔法とハイポーションで、溶けた金属と皮膚の分離と、男の腕の火傷を治療した。すぐに対応したからだろう、火傷の痕が少し残っているが治っていた。
「痛みは?」
男は肩を回したりといろいろ試していた。
「ないな」
「そう、なら大丈夫そうね、それじゃ」
「すまない、感謝する」
「いえ」
『さっきまでの奴らとずいぶん扱いがちゃうね』
『貴族じゃなければ憎しみなんてないもの』
『やっぱりそこなんやな』
後に伝説となる、リタの実技試験が終わった。
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「って、そんなことがあったんだ。私も聞いたことだから正しいかどうか分からないがね」
ボッシュとミントとアクア3人のおかげで、先祖がどういう人なのか、少しは知れた気がした。
「そうなんですね、その後はどうなったんですか?」
「あぁ、実技試験のこともあって、魔法試験はパス、学科試験も満点で首席合格だったらしい。ちなみに満点での合格者は後にも先にも、彼女一人だけだそうだ」
「えっ、そうなんですか?」
「あぁ、学科試験の最終問題が難しすぎるからな」
『せやったっけ?』
『そんな記憶はないですけど……』
ミントとアクアにとっては難しい問題じゃないのかな?
「どんな問題なんですか?」
「自分が一番得意とする魔法の魔方陣を書けって問題だね。これは必ず毎年出題されているんだよ」
『あぁ~そんなんあったな』
『ありましたね』
「そうなんですね」
「あぁ、だが魔方陣は一瞬現れるだけだから、分からないんだよ」
そんな問題をどうやって解いたのか気になった。
『リタはな、精霊魔法に魔方陣は存在しない、って書いとったで』
なるほど、たしかに精霊魔法は、ミントたち大精霊が魔方陣の代わりになるから存在しない。それが正解なのか。
その後も雑談してから、泊まる部屋に案内してもらった。