第119話 決勝トーナメント ソロ部門
決勝の開会式が終り、いよいよ第一回戦が始まった。
「さぁ~~!いよいよ決勝トーナメントを始めます!第一回戦は、数十年ぶりに新入生が決勝トーナメントまで上ってきました!弓の名手ジョーイ!」
リング上にいる審判とおぼしき男性が大声で叫ぶと、ジョーイが姿を現し、リングまで周囲に手を振りながら歩みを進め、ジョーイがリング上にあがると観客が“わ~”と叫ぶ声が嵐のように聞こえる。
うるさい……。
それにしても審判の声、かなり離れているのにはっきり聞こえるもんだなんて思っていると。
『拡声というスキルだからな。うるさいと思うならクゥに周囲と遮断してもらうといい』
「クゥ?」
「呼びました?」
グレンの話の中に何で“クゥ”の名がと思ったら、クゥがラミィーとは反対側に座っていた。
「え? クゥ、何でいるの」
「学内武道会って帝都でもお祭り扱いなんだって。学生以外も観戦可能ってオリビアから聞いたからね」
『決勝トーナメントに出られるだけでも、各国の騎士団や宮廷魔道士団なんかに就職できる可能性が跳ね上がりますからね』
『秋の収穫祭の時にやる国際武道会の方がトトカルチョもあるし盛り上がるよ~』
秋にもあるんだ。国際ってことは、参加フリーなのかな?
というか、トトカルチョってなんだろか?
「そうなんだ。それで見学しに来たんだ」
「ちがいますよ。私はオリビアから頼まれてね、試合が終わったら、あなたに渡す物があるの」
「あっ、そうなんだ。グレンが言っていたんだけど、周囲の歓声がうるさいからなんとかしてくれない?」
「いいよ」
クゥがそう言うと、急に全ての音が無くなった。
ファラの紹介とか聞こえなかったが、まぁいいか。
「なんか静かだね」
『そう望んだやん』
「そうなんだけど、私の声も外に聞こえないんだよね」
「そうだよ。私と精霊達しか聞こえないよ」
空間を遮断したならそういうことか。ちょっと審判の声が聞こえないのは寂しい気がするが、そんなことを思っていると、両者リング上で握手を交わし、双方の位置にもどり構えをとった。
『いよいよ始まるな』
『せやなぁ』
審判が試合開始と思われる動作をすると、すかさずジョーイが二本の矢を番えて速射していた。
ファラの方は難なく二本の矢を一度の動作で捕まえていた。
「あれが矢掴み?」
『あぁ、無駄のない動作だな』
ジョーイは飛翔し、上空を動き回りながらひたすら矢筒から二本の矢を取り出し、番えて速射というのを繰り返していたが、全てファラにたたき落とされるか掴まれていた。
「これ、ジョーイ勝てないじゃん」
『それだけ実力差があるんだよ』
ジョーイが番える矢がなくなると、ファラが何か言い放って次の瞬間、持っていた矢をジョーイめがけて投げた。そのまま他の矢も投げ返す。
「速っ!」
ジョーイが放った矢は僅かだが曲線を描いてファラの元に向かっていたが、ファラの投げた矢は違う、一直線だった。
ジョーイはファラの初撃こそ躱したものの、二本目三本目とどんどんジョーイの体に突き刺さっていく。
『勝負あったな』
数本の矢が刺さったジョーイはリング上に落下し、そのままダメージが上限を超えたためか場外にはじかれていた。
「おかしくない?」
『何がだ?』
「矢って重力があるから曲線を描くんだよね?」
『あぁ、一応あれも曲線描いているからな?』
「あっ、そうなんだ……」
『曲線を描く間もないくらい速い速度で投げていたってことなのですが、ラミナはちゃんと見えました?』
「なにが?」
『ファラが投げた矢の行方ですよ、目で追えていました?』
「それくらいは追えてたよ」
『ハンゾーとの鍛錬の成果だな』
『せやなぁ、あれ常人の目で追えんもん』
「え? 普通は見えないの!?」
『あぁ、それ位速かったからな。ファラが投げる動作をした瞬間、ジョーイに突き刺さっていたと感じた者達のほうが多いはずだ』
拳聖じゃなくて、狙撃じゃん、なんて思いながらファラの勝利を見ていた。
「あっ、そうだ。オリビアから渡された物を渡しておくわ」
クゥから、紙が数枚束ねられた物を渡された。
パラパラってめくってみるけど、私には意味不明なものだった。
「なにこれ?」
『楽譜ですね。見た感じ私の歌用ですか?』
アクアは楽譜読めるの!?
「そうそう、オリビアが最近ずっと練習していたそうよ」
え?
『もしかして食堂で私の歌を聴いてですか?』
「そうみたいね。それでカミラって子に楽譜に起こしてもらって練習していたんだそうよ」
「というか、クゥってオリビア先生と結構親しいの?」
「うん、ラミナと契約した後すぐに会ってね。そこからお友達として付き合っているわよ」
まさかの交友だった。
「で、この楽譜どうするの?」
「大会の終りに弾くから問題ないか確認してってさ」
こういうの練習前に尋ねるべきなのでは!?
今から変更出来ないと思うんだけど。
『正確に作られているようですし大丈夫ですよ。ところで演奏っていつ決まったんですか?』
「今朝、学長に言われたんだって」
とんでもない無茶振り!
でもないのかな?
好きで練習していたら、学長から演奏の話があったと言うことだろうか?
『そうですか。ラミナ、楽譜をクゥに』
「はい」
「ん、ありがとう。んじゃ、また後でね」
そう言ってクゥは席を立ってどこか行ってしまった。
しばらくはぼんやり眺めていたが、決勝戦のファラVSハンゾー戦はものすごい打ち合いになり、間合いの不利なファラが決勝戦を制した。
「なかなかすごい戦いだったね」
『白羽取りを久々に見たな。ああなると刀を引いても押しても抜けんからな』
白羽取りで刀を奪われ場外に投げ飛ばされた後は、ハンゾーも素手で戦ったが、縮地の早さをものともしないファラに思いっきり蹴っ飛ばされていた。
「へぇ」
『刀を奪われた時点で詰みやな』
『だな、拳聖に素手というのは無謀だからな』
そりゃそうだろう。
「ファラの小手って何か特殊なのかな? 刀の刃を通さなかったよね」
『普通のミスリルだよ~』
『角度だな。直角に当てれば斬れたかもしれんが、刀の刃をうまく流していたんだよ』
「考えてガードしてたと……」
『あぁ』
私には無理そうな世界だなぁ……。
いよいよ、ミッシェルとミアンが出るペア部門の試合が始まる!
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