第116話 アカデミー7不思議のおち2
剣戟の謎なんて案外あっけないものだった。
もしかしてクゥ達が行ってるデュラハンも……。
「そうなんだ、これで剣戟の謎も解けて次は……階段の段数?」
「ただの数え間違いやろ」
『そうですね、リタの学生時代に幻影スキルでいたずらしている生徒はいましたね』
「あ~あったな、リタに思いっきりどつかれとったな」
「なんで、どつかれたの?」
『幻影というスキルは相手の脳を騙すスキルなんです』
『その子はね~リタに幻影かけていたずらしてたんだよ~』
『膝かっくんとかしょーもないことやっていたな』
『好きな相手に構ってほしいだけって話なんですけどね』
皇子の件といい、先祖は割とモテるらしい。私とは大違いだ。
「階段の話じゃないの?」
『実際そいつが、他の生徒にいたずらしてたんだよ、何段になったら気づくかとかな』
「あぁ、なるほど、それが噂になって7不思議にってことか」
「せやな」
「ラミナさん、一人で納得してないで教えてくれません事?」
「ごめん、昔幻影スキルとかでいたずらしてたらしい」
「あぁなるほど、先ほど“どつかれとった”ってのはどういうことです?」
「なんかね、リタに幻影スキルを利用していたずらしてたんだって」
「その仕返しってことですわね」
「じゃないかな」
「ふっふっふ、その方はきっとリタさんが好きだったんですね」
「ミッシェルもそう思うの?」
「えぇ」
いたずらなんかしたら嫌われるだけじゃないの?
好きなら好きってはっきり言えば良いのに……。
「そっか、んで後なんだっけ?」
ダンスホール、姿見、人体模型、剣戟の音、階段、あとはなんだ?
「消える生徒じゃないんですの?」
「あぁ、そうだね」
「可能性やけど、さっきいった認識阻害や隠密なんかで説明つくで」
『だな、あとはスキルで空間を持っているとクゥのように転移するからな』
「あ~なるほど……、空間スキルって結構良さそうだけど、いっぱいいるの?」
「そんなにおらんよ」
『だな、精霊使いほどじゃないが、珍しいスキルなのは間違いないな』
「そっか……」
ダンスホール、姿見、人体模型、剣戟の音、階段、姿を消す生徒、これで6つ。残すは今クゥ達が行ってる首無し騎士だけになった。
「残りは首無し騎士だけだね」
「ダンスホールに行ってみたらええんちゃう?」
「ん、なんで?」
「これから検証するみたいや」
「なるほど……、ミッシェル行こうか」
「そうですわね」
「場所知らないんだけど……」
「私が存じていますわ」
「了解」
宿直室を出てしばらく歩いていると。
「やっぱり雰囲気ありますわね……」
「そう? 私がいた村の森は月明かりも届かない真っ暗な場所があるから、それに比べたら全然良いと思うけどね……」
まぁ、森の中は植物の精霊だらけだからスキルを貰った後は全然雰囲気は違ったけども。
「私はそんなところ行きたくはありませんわ」
「そう? 森を抜けたら満天の星空で結構好きなんだけどなぁ」
「それは興味ありますわね」
「でしょ、機会あったらおいでよ」
その後は、ミントも交えて雑談をしながら貴族科棟のダンスホールに向かった。
ダンスホールがあるフロアに来ると、ダンスホールには明かりが灯っており廊下に明かりが漏れていた。
「あそこ?」
「えぇ」
早足でかけより、ダンスホールの中に入ると、クロエ先生ともう一人女性が居た。彼女がオリビア先生なのだろうか?
「来たか」
「あら、精霊使いさん」
オリビア先生とおぼしき女性は私を知っているようだった。
「えっと始めましてですよね」
「そうですね、私が一方的に知っているだけですからね。私はオリビア・ワンワール、貴族科でダンスやマナーの指導をしています」
「あっ、私はラミナです」
「私は、ミッシェルですわ」
「えぇ、よろしくお願いしますね」
「「はい」」
「挨拶はすんだか? こっちに来てみろ」
ダンスホールの窓際まで行くと、対面の校舎にミアンが手を振っていた。
クゥの姿を探してみたけど、見える範囲にはクゥの姿は無かった。
「あれ? クゥは?」
「呼んだ?」
「「っ」」
貴族科の方を見ていた四人それぞれ驚き、声のした背後を振り返るとクゥの姿があった。
「いきなり現れるのやめない?」
「今回は転移してないけど?」
「そう……、で、どうしたの?」
「トリックの準備できたからね」
「準備?」
「えぇ、ミアンの横にある置物見ててもらっていい?」
私、ミッシェル、クロエ、オリビアの四人が対面にある貴族科の校舎に視線を移した。
「よく見ててね。まずは兜部分が消えるトリックなんだけど、こうすると……」
クゥがそう言うと、徐々に兜のある部分が消えた。
「ぇ、消えた?」
「消えましたわね」
「このトリックは?」
「よく見てみて。消えているのは兜だけじゃないでしょ」
ん、よく見ると、校舎も消えてない?
「首から上全てが消えてる?」
「ぱっと見そう見えるよね。月明かりを雲が遮った結果こうなることもあるの。もう一つは、あそこに飾ってある兜、結構へこんでいるんだよね。頻繁に兜の部分が落ちていたみたいだよ」
月明かりトリックと、物理的に兜が落ちていたと。
オリビア、ミッシェルは振り返りクゥを見た。
「でも私が見たのは動いていたように見えましたよ?」
「うん、実際は動いてないと思うんだよね。ちょっと待ってってね」
そう言うと、クゥは貴族科ミアンの方に向かって手を振っていた。
クゥが合図をすると、少しだけミアンが甲冑から離れたのだ。
「あれ動いている?」
「なるほど、比較対象か」
「そうそう。一つはそれだと思うんだよね。今年入った騎士科のブロウン先生って夜目スキル持ちだから電気つけずに仕事してるって聞いてるんだよね」
「そうか。オリビア先生はブロウン先生と鎧の位置で動いたと判断したと……」
「どうかな?」
「確かに思い返してみると、ブロウン先生が宿直のときですね……。見回りの時に挨拶されるのでよく覚えています」
「だよね。鎧があるのは貴族科の学科長室、ブロウン先生は横の職員室で作業しているから、近くにいる比較対象にはなるのかな」
「それで、先ほど“一つは”と言っていたが、まだ別の要因があるのか?」
「えぇ、こっちはもしかしたら実際に動いていたのかなって思えるの。ちょっと待ってて」
そう言うとクゥは私達の前から姿を消し、しばらくするとミアンと甲冑の胴部分を持って姿を現した。
「はぁ~、一人で真っ暗なところにいるのは怖いですね」
クゥと共に戻ってきたミアンがそんなことを漏らした。
「ごめんなさいね。で、この鎧よく見て」
クゥはそう言うと、鎧の中を見るように促してきた。
「魔法陣ですか?」
「そうなんだ。でね、この鎧に魔素を流すと……」
鎧がガタガタと震え、肩当ての部分が少し伸びた。
「魔素が流れたときに振動すると」
「そうそう。これ着用したら肩当てが大きくなるようになっていたり、ある程度サイズ調整されるように出来た魔道具なんだよね」
「ですが、魔素が流れなければ動きませんよね?」
「そうだね」
「ならあまり動くというのは現実じゃないんじゃないか?」
「そう思いますか?」
クゥはそう言うと、鎧から離れた。
「グレンでもアクアでもいいから魔法陣の近くに行って」
『しゃ~ねぇな、俺が行くか』
グレンはそう言うと、鎧の内部にある魔法陣の所にふらふらっと移動した。
グレンが鎧の内部に入ると、ガタガタと振動し、再び肩当ての部分が伸びた。
というか、鎧があれだけ振動で兜が普通に落ちそう……。それだけ激しい振動だった。
「精霊か」
「そう。七属性の精霊達はそこら辺にいるからね。たまたま鎧の近くに行った子に反応して動いた可能性があるかな。ただ乗せているだけの兜が落ちる要因にもなっていると思うよ」
「なるほど。それではあまり気にしないほうがいいんですね」
「えぇ、貴方が気にしているような、あやかしとかゴーストみたいな変な者はいないから安心していいと思うけど」
「そうですか。久々にゆっくり寝られそうです」
「それじゃ、仕事と完了で良いかな?」
「ありがとうございます。依頼票をいただけますか?」
「えぇ」
クゥはそう言うと、オリビアに依頼票を出しサインを貰っていた。
「今日のお仕事完了~」
「クゥお疲れ様、真面目に仕事しているんだね」
契約時渋っていたくせに、結構満喫してるじゃん。
「そりゃね」
「ってか普段どこで寝泊まりしてるの?」
ダンジョンに戻ったりしているとは思っているけど、なんとなく聞いてみた。
「ラミナの家だよ」
思わぬ答えが返ってきた。
「ぇ?」
「帝都内にあるでしょ」
「うん、そこ使っていたんだ」
「えぇ、掃除ぐらいはしてるよ。綺麗に使ってるから安心して」
クゥがあの家を利用していると思ってなかったけど、まぁいいか、綺麗に使ってくれてそうだし。
「これで七不思議全部解決やね」
「そうですわね」
「ぇ、他の話も解決したの?」
「えぇ、ミアンさんがクゥさん達と出ていった後に精霊さんから話を聞きましたわ」
「ずるーい! 後で聞かせてよ!」
「えぇ」
「はぁ、今日はもう遅いから寮に戻れ。オリビア先生、私はこいつらを寮まで送っていきます」
「わかりました」
「ほれ行くぞ」
クロエに促され、ダンスホールを出て寮まで送って貰った。
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