第11話 幕間 リタと入学試験1
料理を味わいながら雑談が続く中、イアンさんがふと真面目な顔で話しかけた。
「会頭、ラミナちゃんに入学試験の話って、もうされました?」
「いや、まだだな。そろそろ話しておかないとな」
「入学試験……?」
初めて聞く単語に、私は首をかしげた。今まで「試験を受ける」としか聞いていなかったけど——どんな内容なんだろう?
「ああ、アカデミーに入るにはね、一定以上の学力と、実戦における基礎的な実力が必要なんだ」
「学力って……私、勉強あんまりしてないんですけど……」
不安そうに言うと、すぐにミントが元気よく声をあげた。
『うちらがついとるから、大丈夫やって!』
「問題ないよ。読み書き、それに簡単な計算ができれば合格ラインには届くからね」
「そうなんですか?」
少し安心しかけたところで、ミントがひょいとアクアを指差した。
『計算ならアクアが得意やで』
『ええ、お任せください。必要な時は、いつでもサポートします』
『えらい頼もしいなぁ〜!』
「それに、貴族科、騎士科、魔法科を目指す子たちは、むしろ"実技試験"のほうが重要になるかな」
ボッシュさんの説明を聞きながら、私は自分の進路を思い出す。
「私は、錬金科を志望するつもりです」
「それなら大丈夫。ただし、錬金科や商業科の子でも、実技で良い成績を残せば、より良いクラスに入れる可能性がある」
「良いクラス、ですか?」
「ああ。アカデミーでは入学後、クラス分けがあるんだ。授業の質や進度も大きく違ってくる。だから、入試での成績が将来にも影響してくるんだよ」
「そうなんですね……。ちなみに、実技試験ってどんな内容なんですか?」
「魔法試験と、戦闘形式の実技試験だね」
戦闘……つまり、誰かと"戦う"ということ?
「実技って、戦うんですか?」
「そう。相手は、去年の学内武道大会で上位に入った在校生たちだ」
『まだあの形式、残ってるんやなぁ』
『懐かしいですね』
ミントとアクアの反応からすると、彼女たちはこの試験形式をよく知っているらしい。
「勝てないとダメなんですか?」
「いや、勝つ必要はない。重要なのは"立ち回り"や"判断力"。どう動くか、どう考えるかを試験官が見ているんだ」
少しホッとした——が。
「あとは、おまけみたいなものだけどね。試験担当に勝てば、次は二対一。そこでも勝てば、四人以上のパーティーが相手になるよ」
「……え、去年の武道大会の上位者に勝ったら、次は二人同時に相手するんですか? そんな……勝てる人、いるんですか?」
「いるよ。一人だけだけど、過去に3回とも勝ち抜いた人がいるんだ!」
イアンが目を輝かせ、興奮気味に話してくれた。
「え……一人だけ……?」
誰がそんなこと……。
『『リタやな(ですね)』』
ミントとアクアの声が重なった。
「ああ、ラミナ君のご先祖、リタさんだよ。たった一人、三回とも試験に勝ち抜いた伝説の新入生さ」
「へぇ……一体どうやって……?」
私がそうつぶやくと、ボッシュさんがうなずき、静かに語り始めた。
「当時のことは、俺も詳しくは聞きかじった程度だけどな——」
その後、ボッシュが昔に聞いたというリタの入学試験の話を語ってくれた。ミントとアクアも懐かしむように頷きながら、「実はあのとき……」と、細かな状況や裏話を楽しそうに補ってくれた。
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植物の大精霊ミドリ(ミント)視点
目の前では、新入生相手に試験官役の上級生が実技試験を行っていたが——どう見ても稽古ではなく、イジメまがいの立ち回りだった。
『あの相手、去年の個人戦優勝者や。リタが大っ嫌いやって言うてた、貴族のボンボンやで』
「ふ〜ん……おもしろそうじゃん」
『……勝つつもりなんですか?』
「まぁね。ああいう連中見てると、どうにもイライラしてくるのよ。ちょっと、顔に泥を塗ってあげましょ」
『なにか策でもあるん?』
「最初はミドリに任せるよ」
『おお? 何すんねん?』
リタに尋ねると、念話でこっそり面白そうな依頼が飛んできた。
私はすぐににやりと笑う。
『ええなあ、それ。めっちゃおもろいやん』
「とりあえず、お願いね」
そうこうしているうちに、リタの番がやってきた。
「八十四番、リタです。よろしくお願いします」
「では準備を」
審判役が声をかけた瞬間——リタは何を思ったのか、すとんとその場に座り込んだ。
「えっ……準備を……?」
「いつでもどうぞ?」
完全に戦う気がなさそうに見えるその姿に、周囲も戸惑っている。
「てめぇ、やる気ねぇなら帰れ!」
試験官役の上級生が怒鳴った。
「あなたごとき、座ったままで十分です。さぁ、いつでもどうぞ」
『煽るなぁ〜……』
『煽りますね……ほんとに……』
試験官役の顔がみるみる赤くなっていく。
「ぶっ殺してやる!!」
「できるものなら、どうぞ〜」
「……試験、始めッ!」
審判役の声とともに、試験官役の上級生が勢いよく踏み出した——その瞬間。
「ミドリ」
『OKや!』
私の呼びかけに応じて、地面からツタがぬるりと伸び出す。
足元に絡んだツタがタイミングよく引っかかり、上級生はバランスを崩して——盛大にすっころんだ。
その隙に、ウチはすかさずツタを操り、全身をぐるぐると巻きつけて拘束した。
「試験官が挑発にのるなんて、言語道断。出直してらっしゃいな」
「それまで〜」
『ほんま、うまくいくんかいなって思っとったけど……おもろいくらい綺麗に引っかかったなぁ』
引っかけた時点で私はもう笑いをこらえるのに必死やった。
試験官役の上級生は、地面に縛られたまま怒鳴り散らす。
「卑怯者! やる前から仕掛けてたな!」
「そんなことするわけないでしょ? 審判に聞いてみたら?」
リタが無邪気に言うと、審判役が頷いた。
「ウォル、彼女は確かに"はじめ"の合図のあとに、ツタを出したよ。見間違いじゃない」
「天狗になってるやつほど、扱いやすいのよねぇ」
「くっ……!」
リタはツタで転がっている試験官役の目の前にしゃがみ込んだ。
「ねぇねぇ、どんな気持ち? 年下の女の子に負けたってどんな気持ち? ねぇ」
『終わってからも煽るって、どうなん……』
『リタ、さすがに性格悪いですよ……』
「これに懲りたら、次は冷静に対処することね」
試験官役の上級生は納得出来ずにものすごく悔しそうな表情を浮かべていた。
「リタ君、下がってください。次の試験に移ります」
「はーい」
リタは、まだ少し名残惜しそうにしながらも、しぶしぶ元の場所へ戻ってきた。
『さて、次は二人組やけど……どうする?』
『今度はアオイにお願いしようかな~』
『何をすればいいんですか?』
『ん~とね……こうして、こうして、こんな感じで……』
リタの念話に、アクアも小さく笑う。
またひとつ、面白い作戦が動き出そうとしていた——。
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