第103話 親友の手術本番
イリーナとマリベルが更衣室に消えると。
「それでは私達もここを出ましょうか」
「あぁ」
ヴィッシュと一家が内扉から外に出た。
見た感じ、学長と公爵、ヴィッシュはガラス壁越しに見学するようだったが、夫人とプリムは手術室の外に出て行った。
私はカバンから、まん丸用のミスリルの砂と、ミント用の木製人形やナイフ等の必要な道具を出していった。
「グレンお願い」
『あぁ、任せろ』
グレンがそう言うと、少し焦げ臭い匂いが漂った。
空気中の埃やゴミを燃やしたためだろう。
「アクアはどうする?」
『そうですね、新しい方が居るので魔素を貰っても良いですか?』
「うん」
私は返事をすると、アクアに向かって手を差し伸べた。
アクアは私の手のひらに腰掛けると、私から魔素を受け取っていた。
「これで十分です」
「うん」
まん丸とミントが、私が出した道具たちをミスリルの台車に綺麗に並べ、準備を進めていった。
こちらの準備が終わろうとしている頃、ミアン、ツキ、イリーナ、マリベルが更衣室から出てきた。
ツキはそのまま内扉から外に出て、手術室から離れていった。
「私達の方は準備できたけど、ラミナさんはどうかな?」
「私の方も大丈夫です」
「それじゃあ始めましょうか。マリベルは私の横でいいかな?」
多分今回はヴィッシュが居ないので、私の正面にイリーナという配置になるだろうと思った。
「良いと思います」
「それではそれぞれ配置につきましょうか。ミアンさん、台の上に横になって貰って良いですか?」
「はい」
ミアンはベッドサイドに置かれている台を踏み台にして、ベッドの上に横になった。
そしてイリーナ、マリベル、ミント、アクア、まん丸がそれぞれの持ち場についた。
「ラミナ、おねがいします」
少し不安そうな面持ちのミアンがいた。そりゃそうだろう。これから自分の体が切られるのだ。不安に思わない人なんていないはずだ。
「うん、任せて。必ず助けるから」
私がそう返すと、ミアンは頷いた。
私は大きく息を吸ってから。
「それじゃあ、ミアンの肺から魔石化した部分を取り出します。皆さんよろしくお願いします」
「「『『『『よろしくお願いします』』』』」
『ほなら、カブリトいくで』
ミントがそう言うと、台車の上にあったカブリトの麻痺薬をガーゼに染み込ませてミアンの口に当てた。
「ミアンさん、これから頭がボーッとしてきますが正常な反応なので、不安にならないでくださいね」
そう説明したのはイリーナだった。
私の中ではアクアがやるかな、と思っていた。
イリーナの声かけに対して、ミアンは軽く頷いた。
しばらく待っていると。
「そろそろ意識が落ちます」
『オッケ~』
アクアの発言にミントが返すと、呼吸器の準備を進めていく。
「ミント、魔素は大丈夫?」
いつもエリシュを発芽させてツタを伸ばすときに私の魔素を使っていたが、大丈夫なのだろうか?
『大丈夫やで。少なくなったら貰いにいくで』
「うん」
本人がそう言うなら、大丈夫なのだろう。
「カウントダウン、3、2、1、今」
アクアの“今”というタイミングに合わせて、ミントはエリシュのツタをミアンの口内に伸ばして呼吸器を起動させた。
アクアの方を見ると、アクアが軽く頷いた。
「それじゃあ始めます」
ここからは、本人の負担が大きくならないように時間との勝負になってくる。
ミアンのお腹に手を当てて、切る場所を確認してからナイフを入れた。
何度も何度も練習したが、練習時は私自身の分身だったためか、誤差の範囲とはいえ僅かな違いを感じた。
開腹すると、いつものようにワイヤーとフックを使って左右に固定し、いよいよ患部である肺の外膜の切除に入る。
ミアンの肺を見ると、明らかに黒ずんでいる部分があった。
「アクア、この黒いのだよね?」
「えぇ、そうです」
私が思っていたよりも広範囲だった。小指の爪ほどかと思っていたけれど、親指の爪二枚分くらいはある気がする。
まん丸からピンセットを受け取り、患部をつかみ、肺の内側や心臓などの他の臓器を傷つけないように丁寧に切り取っていく。
大部分は一度で切り取り、切り残し部分を何回かに分けて取り除いていった。少しでも黒い部分を残さないように。
「大丈夫かな?」
「えぇ、取り残しや他の臓器に傷はありません。ポーションに移行して大丈夫でしょう」
ここまで来れば、あとは切除箇所の回復と、お腹の閉腹作業だ。
ピンセットとナイフをまん丸に返し、代わりにハイポーションを受け取って切除箇所に垂らしていく。
すると、切除した部分が少しずつ修復されて元通りになった。
「裏側も大丈夫だよね」
「えぇ、問題ありません」
ワイヤーフックで固定していた器具を外し、お腹の傷口にハイポーションを垂らして修復してから、穴の空いた針をミアンのお腹に刺した。
アクアはそれを確認すると、アクアクリーンを発動させて一度淡く光らせた。それに合わせてミントが呼吸器を抜いた。
私が針を抜くと、アクアが再び淡く光って針を刺した痕跡を消していった。
「これでおしまいです。お疲れ様でした」
「「『『『おつかれさまでした』』』」
マリベルだけ返事がなかったけど、まぁいいか。
「ミアン、大丈夫?」
「……」
「あれ?」
自発呼吸はしているし、意識も戻っていると思ったけれど?
「大丈夫ですよ。今は寝ているのと同様の状態です。じきに目を覚まします」
「そっか」
「それじゃあ、私達が病室に連れて行きますね」
達?
疑問に思っていると、イリーナがミアンを抱き上げた。
「マリベル、扉を開けて貰って良いですか?」
「あっ、はい」
ミアンを抱いているイリーナと、サポートするマリベルが手術室から出て行った。それに合わせて公爵も後に続いて出ていった。
「んじゃ片付けようか」
『せやな』
使用した器具をアクアに綺麗にして貰った後、鞄にしまっていった。
「面白い」「続きが気になる」「応援する!」と思っていただけたら、
『☆☆☆☆☆』より評価.ブックマークをよろしくお願いします。
作者の励みになります!