第101話 付与魔法と魔道具
今居るクラフトクラブのメンバーがそれぞれ自己紹介を終えると。
「んじゃ、皆各自で活動始めて~、ルルちゃんとラミナちゃんはこっちきて」
「「はい」」
ミミの後に続くと、ファラも付いてきた。
「ファラ先輩はいらないですよ」
「いいじゃねぇかよ」
結構仲が良いのかな?
ミミは近くの机を2つ近づけると。
「それじゃ、お二人はこちらに座ってください」
「「はい」」
促された場所に座った。
「二人はどのような物を作ってみたいとかありますか?」
ん~、私の中で何か作ってみたいとは思ったけど、具体的な物は無いかな、と思っていると、ルルがカバンから何か取り出した。
「あのっ、これで何か作ってみたいんですけど」
私の手より大きな牙?
『ほぉ~アークドラゴンの牙か』
「アークドラゴンの牙?」
グレンの発言に思わず返してしまった。
「ラミナさんは見ただけで分かるんですか!?」
「いや、精霊さんが……」
「へぇ、ドラゴンの牙と言われたら納得の大きさだけど、アークドラゴンとか天災級じゃなかったか?」
「そうですね、上位ドラゴンですものね……」
「昔族長がポートリタに居た時に狩ったんだそうです」
ポートリタ、久しくその名を聞いた気がする。
「だろうな、ドラゴン狩するなら、そこかダンジョンしかないからな」
「ん~ララさん、正直言うと今すぐその素材は使わない方が良いです。もっといろいろな物を作れるようになってからの方が良いですよ」
『同感やな』
『ですね』
何か理由があるのだろうか?
「なぜですか?」
「ドラゴンの素材なんかは作っている過程で特別な効果が付与されることがあるんです。なので、色々練習してベテランと言っても良いくらいになってから使うのをおすすめします」
『付与魔法のことですね』
『せやなぁ』
「付与魔法?」
初めて聞く言葉に問い返してしまった。
「私達もどういった原理で付与できるか分からないですが、ドラゴンの素材は比較的付与されやすいと言われていますね」
『そりゃそうですよ、ドラゴンなんて高い魔素を持っていますからね、付与魔法とは相性が良い素材ですから』
「へぇ、そうなんだ……」
「なぁラミナ、おまえこの前食堂でも精霊を出していたよな? あたしらにも精霊の声が聞こえるように出来ないのか?」
この前というのは生徒会の面々と話をしていたときだろうか?
というか、精霊から色々聞いているのが分かったのだろうか?
「だって」
『いいですよ』
アクアはそう言うと、私の手に触れて魔素を持って行く。
「これで私の声が聞こえますか?」
「あぁ聞こえるよ」
「可愛いですね、その声はもしかして歌っていた精霊さんですか?」
あの時ミミも食堂にいたんだ、そんなことを思っていると、各作業をしていたメンバーが机の周りに集まってきた。
「えぇ、そうです。それで付与魔法の事ですよね」
「あぁ、可能なら知っていることを教えてほしい」
「良いですよ、では付与魔法についてお話ししますね」
アクアが先生モードに入ったのが分かった。
「付与魔法とは、簡単に言えば思いを込めて物作りをすれば良いだけです」
それだったら誰もが出来そうだなんて思った。
「それ分かるんだが、素材に寄るって事だよな?」
「えぇ、その通りです。素材自体が魔素を持っている物ほど付与がしやすいです。ドラゴン素材はその代表的なものですね、鉱石で言えば、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンの3種が付与しやすいです」
「素材自体が魔素と言うことは、強い魔物の素材ほどって事か?」
「えぇ、その認識で間違いありませんよ。ただ、魔素を持たない動物の素材でも付与は可能です」
「強い想いであればってことだな」
「えぇ、その通りです。素材と付与魔法の関係についてはこの辺りでしょうか。続いてどのような付与が可能かについてお話しします」
「あぁ、頼む」
「皆さんが持つ一部のスキルに近い事は付与可能です。代表的な物で言えば鑑定ですね。一方スキルまでは行きませんが、近い事が出来るのが不老です」
「鑑定も出来るのか」
「えぇ、錬金科所属のあなたなら、使ったことがあるんじゃ無いでしょうか?」
「精霊顕微鏡……」
そう答えたのはミミだった。
「その通りです。あれは付与魔法と魔道具とを合わせた物になります」
「あれで見た物の正体が分かるのは鑑定効果だったのか」
「えぇ。ただし指輪に鑑定を付与しても意味がありません」
「レンズか」
「えぇ、鑑定は物を見る事で発動するので、指輪やネックレスに付与しても意味が無いのです」
「付与する物を考えろって事だな」
「えぇ、その通りです」
「一つ質問なんだが、私が火魔法を使えるようになるアクセサリーを作ることは可能か?」
「その問に関しては、イエスでありノーでもあります」
ん、出来るけど出来ない?
「というと?」
「付与で“火魔法使用可”というような物は出来ないんです」
ファラは明らかにがっかりしていた。
「さっきの“イエスであり”って言っていたのは?」
アクアに質問したのはミミだった。
「実際に見て貰った方が早いでしょう」
『ラミナ、アクアヒールが出来るリングと念じてカバンから取り出してください』
「ん」
アクアに言われたとおり、アクアヒールの出来るリングと念じてカバンに手を入れると、小さな何かが手のひらに触れそのまま取り出した。
「これでいい?」
手を広げてみると、銀色に輝くリングだった。
「えぇ、構いません。それをファラに」
「ファラ先輩」
「あぁ」
ファラは私からリングを受け取った。
「握りしめて魔素を流してみてください」
「あぁ」
ファラはそう言うと、リングを握りしめて目を閉じた。そして次の瞬間淡く光った。
「この感触はアクアヒールか?」
アクアヒールに感触があるのだろうか? ヒールとは違う感触と言うことだろうか?
「えぇ、その通りです」
「なぜそんなことが……」
「リングの内側をよく見てみてください」
「あぁ」
アクアがそう言うと、ファラはリングを近づけたり遠ざけたりしてリングの内側をチェックしていた。
「ん~何か彫ってあるのが分かるが……」
「先輩、私にも見せてください」
「あぁ」
ファラからミミへリングが渡った。
今度はミミが先ほどのファラと同じように観察していた。
「魔法陣が2つですか?」
「正解です。一つはアクアヒールの魔法陣です。そしてもう一つは何の魔法陣でしょうか?」
周囲の皆が考え始めた。
アクアから以前魔法講義を受けていて思ったことがある。
人はそれぞれ魔素の属性があり、その属性の魔法が使えると、そうなると……。
「ねね、アクア、魔素の属性を変えるとか?」
「えぇ、その通りです。もう一つの魔法陣は使い手の魔素を水属性に変換する魔法陣です」
「は!? そんな話聞いたこと無いぞ」
「その研究はあまりされてないようですからね、魔道具で使われる魔法陣の応用になります。火属性全部が使えることは出来ませんが、1つや2つなら使えるんですよ」
「はぁ……、一つ良いか?」
「えぇ、なんでしょうか?」
「先のリングを使ってアクアヒールを受けてみたが、普段受けるアクアヒールより効果が弱い感じがしたんだが気のせいか?」
「気のせいじゃありませんよ。実際出力が抑えられているので、通常のアクアヒールよりはかなり弱いですよ。ですが、無詠唱で使えるのは大きいですよね?」
「まぁそうだな、その魔法陣を教えて貰うことは……」
「出来ませんね。そちらを生業にしている方がいらっしゃるので、自分で研究してみると良いですよ」
「はぁ……、もう就職決めているのになぁ……」
ファラは明らかにがっかりしていた。
「辞退して私と魔法陣研究しません?」
ファラと逆にミミは生き生きとしている。
「嫌だよ」
「ぇ~、ゴールが見えているんですから良いじゃ無いですか~」
そりゃ、出来るか出来ないかが分からない研究よりは、出来ると分かっていて、ゴールを目指してその過程を研究する方がやる気が出来るのが分かるけど。
「私からの講義は以上ですが何か質問ありますか?」
「「「はい!」」」
その後、集まっていたメンバーからいろいろな質問を投げられ、アクアは一つ一つ丁寧に返していた。
「全員聞き終わったか? 時間も大分過ぎているからこれで終りにするぞ~」
ファラの言葉に時計を見てみると既に17時を回っていた。午後の終業が16時だから1時間もオーバーしていた。
その後しばらくして皆帰り支度が出来たところで解散となった。
私は急いでハンゾーとミラが待つ北部海岸に向けて走った。
到着すると、既に二人は居たが、初回は大幅に時間が過ぎることはよくあることと言って笑って居た。
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