生きてる価値
「………………ひどい」
それから、数分経て。
そう、ポツリと呟く祈里ちゃん。そんな彼女の目は、自身のスマホ画面にじっと注がれていて。僕には見えてないけど、どんな画面なのかは容易に察せられて。
「……真昼は、何もしてないんだよね。なのに、こんなの……こんなの、酷すぎる」
そう、僕に視線を移し口にする祈里ちゃん。その透き通る瞳には、ありありと――もしかすると、当の僕以上の苦痛が揺れていて。……やっぱり優しいね、祈里ちゃん。この短い時間でも……そして、僕なんかでも十分に分かるくらいに。
だけど、これを伝えたのは怒ってほしいからでも同情してほしいからでもない。その理由は、たったの一つだけで――
「……それで、祈里ちゃん。君は、まだ自分が生きてる価値がないなんて思ってる?」
「…………へっ?」
すると、ポカンと目を丸くする祈里ちゃん。この短い時間だけで、もう幾度も目にした表情。不謹慎とは思いつつも、そんな彼女を何処か微笑ましく思ってしまう。ともあれ、続けて口を開いて――
「……さっき、君は言ったよね? 自分は、生きてる価値がないのかなって。……でも、君は言ってくれた。人ひとりの命を奪った重罪人の僕に対してさえ、死んだ方が良いわけないって」
「…………うん」
「……それって、生きてて良いってことだよね? 生きてる価値があるってことだよね? だったら、君が生きてる価値がないなんてことがあり得るのかな? 殺人犯の僕にさえ、生きてる価値があると言ってくれたのに」
「…………真昼」
そう、真っ直ぐに告げる。まあ、実際には僕に対し生きてる価値があるとは――少なくとも、言葉でそう言ってくれたわけじゃないけれど、この際そこは問題じゃない。ここで重要なのは、彼女の中で生じうる反論材料をつぶしてしまうこと。僕の言ったことは、ある種の詭弁なのだろう。そして、今から言うことは酷く身勝手なのだろう。だけど、それでも良い。それでも――
「……ねえ、祈里ちゃん。君も、生きているのが辛いんだと思う。それでも……僕は、君に生きてほしいんだ」