邂逅
「――綾香、みーつけた!」
それから、数十分経て。
少し遠くから、高く明るい声が届く。あの天真爛漫な男の子、太一くんの声だ。そして、綾香ちゃん――さっき、太一くんの隣にいた女の子が少し悔しそうに……それでもやっぱり楽しそうに円の中へと入っていく。そんな、何とも微笑ましい光景にこんな僕でもついつい頬が緩んでしまう。……おっと、あんまり見てたらバレるかな?
さて、目下行われているのは缶蹴り。子ども達と彩氷と僕の七人で、和気藹々と昔ながらの遊びに興じているわけで。
「――裕貴、みーつけた!」
それから、十数分経て。
今日幾度目かの、太一くんの無邪気な声。バレないよう身を潜めつつ見ると、子ども達の中で最後の一人だった男の子、裕貴くんが少し残念そうに……それでもやっぱり楽しそうな笑顔で円の中へと入っていって。……うん、なんかほのぼのするなぁ。
さて、残りは二人――彩氷と僕の二人だけなのだけども……さて、どうしよう。正直、残っちゃいけない二人が残っちゃった気もするけど……見つかっちゃった方が良いかな? ……いや、それは駄目か。わざと負けるなんて、よくよく考えなくても失礼この上ない。そう、やるからには全力で――
「…………あ」
そういうわけで、見つからぬよう全力で身を潜め進んでいくことしばらく。すると、見えてきたのは淡い青の花が一面に広がる光景。周囲の緑と優しく溶け合うようなその世界はまるで――
「…………え?」
そんな夢現の最中、微かな声が鼓膜を揺らす。その方向へ視線を移すと、そこには茫然とこちらを見る少女の姿があって。
しばし、沈黙が支配する。この景色に溶け合うような淡い青の髪を纏う綺麗な少女。歳は、恐らく太一くん達と同じくらい。ともあれ、そんな彼女が大きな樹に凭れ掛かりこちらを見つめ――
「……あっ、ごめんね邪魔しちゃって! それじゃ!」
ふと、そう伝え踵を返す僕。……いや、ぼおっとしている場合じゃない。せっかく心地好く休んでいたところに、邪魔をしてしまって申し訳――
「――あの!」
「……へっ?」
卒然、去ろうとした僕の背中に届いた声。驚きつつ振り返ると、そこには立ち上がりこちらを見つめる少女の姿。そして――
「…………少し、お話ししない?」