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ひと夏の逃避行

「……さて、何処から話そうかな……うん、まずはこれを見てもらった方が早いかな」

「…………これは」


 それからややあって、僕が差し出したのは幾つかの操作を終えたスマホ。そして、受け取った彼の目には――



【――死んで償えよ、人殺し】

【――そもそも、人殺しといてのうのうと生きてるとか神経疑うんだけど】

【――殺された被害者と遺族に代わって、俺がお前をズタズタに切り裂いてやるから覚悟しとけよ人殺し】

【殺す。正義の名の下にお前を殺す。犯罪者に生きる価値なし】

【あっ、その時はあたしも呼んでよ。いっしょにりに行こ♪ この社会のクズを】



 そんな類の文言が、うんざりするほど絶えず映っていることだろう。スクロールしてもスクロールしても最終地点が見えてこない、僕に対する数多の言葉――地元で起こった殺人事件の犯人らしい、羽山はやま真昼まひるに対する非難の言葉の数々で。




『………………え?』



 一ヶ月ほど前のこと。

 ある日、僕の目に飛び込んできたのは目を疑うようなメッセージ。何処の誰かも――そして、その内容にも全く覚えのないメッセージで。半ば停止した思考の中、そのメッセージに添付されていたリンクへと震える指でクリックする。

 すると、目に映ったのは僕の顔写真――およそ二週間前の殺人事件の犯人と紹介されている16歳の男子、羽山真昼の顔写真が。


 そして、それは名前と写真のみならず出身高校、家の住所、電話番号、メールアドレス――更には、両親の情報までも事細かく記載されていて。何処の誰かも、どんな経路で情報を仕入れたのかも全く以て分からない。それでも、この情報を元に不特定多数の人達から嫌がらせが絶えなくて……いや、嫌がらせでもないのかな。その人達にとっては、人ひとりの命を奪っておいてのうのうと生きているという許されざる人間ぼくに鉄槌を下すための正義の行いなのだろうし。


 ――だから、僕一人ならまだ良かった。無論、歓迎する事態ではないけれど……それでも、僕一人ならまだどうにか耐えられた……と、思う。

 だけど、被害は両親にまで及んだ。両親は共働きなのだけど、例の書き込みには二人の職場の情報まで記されていて。なので、二人の職場にまで嫌がらせの電話などがひっきりなしに続いて……それで、両親は精神を病み今は病院に。だったら、せめて僕が……もちろん、それで全てが解決するわけじゃないけど……それでも、僕が死ねば少しは二人への被害は収ま――



「――でも、お前はやってないんだろ?」

「……へっ? あっ、もちろん」


 そんな思考の最中さなか、ふと届いた声に顔を上げる。何故か安心するような、柔らかな声。もちろん、やっていない。そもそも、どうして何処の誰かも知らない人を……いや、知ってても殺しなんてするわけがない。



「……さて、それじゃ行こうか真昼」

「……へっ? 行くって、どこに……?」


 卒然の思わぬ言葉に、茫然と尋ねる僕。すると、彩氷あやひさんはニコッと微笑み言葉を紡ぐ。



「……そうだな、質問の答えにはなってないけど、強いて言うなら――ひと夏の逃避行、かな?」

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