それでも、僕らは――
――ところで、それはそれとして。
「……ねえ、真昼。さっきは随分と楽しそうに話してたね、あの綺麗なお客さんと。……全く、デレデレして情けない」
「……いや、別にデレデレはしてないけども」
それから、数時間経た夕さり頃。
閉店作業の最中、ジトッとこちらを見つめ告げるのは淡い青の髪を纏う清麗な少女。唯一、当店にてアルバイトとして働いてくれている高校生の女の子で。
ところで、当店は基本アルバイトを募集していない。なので、彼女が直接――驚いたことに、店主たる父さんに直接ここで働きたい旨を伝えた際、やはり最初は申し訳なくも断るつもりだったみたいで。
だけど、思った以上の彼女の熱量に感銘を受け例外的に採用する方向に……うん、僕も傍から見ててびっくりした。だけど、それ以上にありがたく、心が震えるほど嬉しかった。
ただ、それはそれとして……きっと、あのお客さまのことだよね? ラストオーダーの少し前にいらっしゃった、あの女性のことだよね? うん、確かに綺麗な人だとは思うけど……別に、デレデレはしてないよ?
……ただ、それにしても……偶然、だよね? さながら、あの子がそのまま育ったように見えるのも、名前が今永祈里というのも……うん、偶然……だよね?
「…………どうか、安らかに」
それから、一時間ほど経て。
黄昏に染まる空の下、一基の墓石の前にてそっと目を瞑り手を合わせる。そして、一心に祈る。……どうか、どうか安らかに。
どうですか? 元気にしていますか? 向こうで楽しく過ごしていますか? 幸せですか? ……なんて、そろそろしつこいかな? なにせ、ほぼ毎日ここに来ては同じことを尋ねてるわけだし。
ちなみに、僕は元気です。生活は少し大変かもしれないけど、それでもみんな元気に……そして、幸せに過ごしています。なにせ、ここには誰も――少なくとも、あんな理不尽な非難を言う人なんてただの一人もいないから。まあ、ちょっと面ど……いや、ちょっと変わったお客さまもいるけど。
きっと、これからもあると思う。楽しいこと、嬉しいことだけじゃなく――悲しいことも、辛いことも、きっと幾度もあると思う。どうにもならない現実に、心が挫けてしまうことも、きっと。
それでも、僕らは生きていく。生きていかなきゃいけない。……だって、もう知ってしまったから。生きたくても生きられない生命があることを、知ってしまったから。
だから、僕らは懸命に生きていく。これから何があっても、どんな苦難に見舞われても、前を向いて力強く生きていく。
――――そうだよね、兄さん?