相談
「…………あれ?」
ふと、ポツリと零す。霞んだ視界には、一面に広がる見慣れた天井。……ひょっとして、夢? ……そっか。まあ、そうだよね。だって……彩氷は、本来この世にいないのだから。
寝惚け眼を擦り、徐に身体を起こす。そして、数歩移動し机の上のスマホを手に取る。それから、ささっと例の画面へ移動し確認すると、果たしてそこには僕に対する夥しい数の誹謗中傷……うん、どうせならこっちも夢であれば良かったのに、なんて。
「…………ふぅ」
それから、二時間ほど経て。
一度、深く呼吸を整える。……いや、そこまで緊張することもないんだけどね。他ならぬ自分の両親に会いに来ただけなんだし。
さて、今いるのは地元の総合病院――例の被害にて、酷く神経が衰弱し入院を余儀なくされている両親のいる病院の前で。……よし、それでは――
「――ねえ、今日のテスト自信ある?」
「いや、全然。正直、もうほぼ諦めてるわ」
「だよねー、あたしも。はぁ、早く終わってほし――」
すると、ふと後方から届いた声。見ると、制服を纏った一対の男女生徒が腕を絡ませ歩いて行って。そう、今日は平日――なので、普通に学校のある日のはずで。本日は、創立記念日にてお休み――なんて事情はなく、僕の通う学校も普通に……恐らく、先ほどのお二人と同じくテストのはずで。
……いや、正確には通っていた学校、かな。まあ、いずれにせよ何の心配もない。もう、今の僕には何も。
「――久しぶり、父さん、母さん。……いや、久しぶりでもないか。……どう? 体調は」
「…………真昼。ああ、心配ないよ。ありがとう。それより、お前はどうだ?」
「ええ、私も大丈夫。それより、あんたはどうなの? 私達は、あんたの方が心配なのよ」
「……父さん、母さん……うん、僕も大丈夫だよ、ありがとう」
それから、10分ほど経て。
三階の病室にて、なるべく笑顔で話し掛ける僕。すると、二人は驚いたような――そして、甚く申し訳なさそうな表情で僕を見つめ答える。でも、当然ながら二人は何も悪くない。と言うか、僕の巻き沿いで多大なる被害を受けたというのに……全く、優しいなぁ。
ところで、ここは二人部屋で、ここの患者は父さんと母さんの二人のみ。なので、誰に会話を聞かれる心配もない。まあ、聞かれたところで何がどうというわけでもないんだけど、ともあれ……うん、もう言っちゃった方が良いか。生憎、雑談が盛り上がりそうな雰囲気でもないし。そういうわけで――
「……ねえ、父さん、母さん。突然なんだけど……二人に、相談があるんだ」