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彩氷と真昼

「……あのさ、彩氷あやひ。その、随分と今更なんだけど、どうしても聞きたいことがあって」

「おっ、なんだ死後の世界のことか? そうだな、何と言うか――」

「い、いやそれは遠慮しとく」



 それから、数分経て。

 話が一段落し、少し改まりそう言うと悪戯っぽく笑い答える彩氷。……いや、それはちょっと。出来ればまだ知りたくない……と言うか、正直行きたくない。


 まあ、それはともあれ――仕切り直しとばかりに、再び彼のをじっと見つめる。そして――



「……あの、彩氷。その、僕の勘違いだったら本当に、本当に申し訳ないんだけど……僕に、お兄さんはいないと思うんだけど……」



 そう、躊躇いつつ尋ねる。……正直、相当迷った。それはもう、今の今まで相当……そして、今もまだ。だって、勘違いだったらそれはもう取り返しのつかないことだから。こんなにも、今日一日僕のために……いや、例えそうでなくとも、大切な家族を忘れるなんてあってはならないことで。


 ……それでも、聞かずにはいられなかった。と言うのも……両親と僕以外に家族がいた痕跡が、家の何処にもまるで残っていないから。

 彩氷が、いつ生命いのちを――その尊い生涯に幕を閉じたのかは分からない。だけど、僕の記憶にないことを鑑みるに、相当に幼い頃だったと思われる。それこそ、生まれて間もない頃だった可能性も悲しいけれど否めない。

 そして、そう思えば両親から兄のことを聞いたことが無いのも腑に落ちる。僕が覚えていないのなら、兄の死という酷く悲しい事実を僕に――少なくとも、今はまだ伝えまいと気を遣ってくれていたと思えば十分に合点のいく話で。


 ただ……だとしても、やはり痕跡がなさすぎる。例えば、昔の写真――僕も以前、何度か見せてもらったことがあるけれど……そこに映るは、両親と僕の三人だけ。一人で、二人で、三人みんなで映る写真はそれぞれあれど――その何処にも、もう一人の家族は映っていない。今、目の前にいる端整な青年を思わせる幼子は何処にも映っていない。例え、その生命が酷く儚いものだったとしても、数枚……それこそ、せめて一枚くらいは――



「……悪い、少し嘘を言ったかもな。なあ、真昼まひる。もう一度、じっくり見てみろよ」

「…………へっ?」


 沈思黙考の最中さなか、不意に届いた彩氷の言葉。そんな彼が示したのは、自身のお墓――正確には、墓石に刻まれた彼の名前で。……えっと、どういうことだろう? どこか、おかしなところでも――


「……まあ、無理もないか。じゃあ、他の墓石ところを見てみたらどうだ? もちろん、名前のところを」

「……え? あ、うん……」


 すると、戸惑う僕にそう促す彩氷。そんな彼の言葉に従い、失礼ながら他のお名前を拝見。一つ、二つとお墓の巡るも、やっぱり何も分から…………あれ? よく見たら、名前の後が少し――



「――たぶん、その辺りにはないんじゃないか? 之霊位、なんて書いてる墓石は」


 すると、僕の心中を見透かしたように尋ねる彩氷。そう、彼の言うように、そのような墓石は今拝見した中に一つもなかった。と言うより、よくよく考えると今まで見たこともなくて。……じゃあ、之霊位とは――



「――水子みずこ供養くよう、って聞いたことあるか?」

「……へっ? あっ、ううん……」

「水子供養ってのはな、何らかの理由で、この世に生を享けられなかった子どもの冥福を祈る供養のことだ」

「……この世に、生を享けられなかった……?」


 そんな思考の最中さなか、僕の疑問に答えるように淡く微笑み告げる彩氷。……この世に、生を享けられなかった? それって、どういう…………まさかっ!?



「……何を想像したのか、断定までは出来ないが……まあ、おおかたお察しの通りだろうな。俺は、流産により生まれてこれなかった、お前の兄になるはずだった男だよ」







 

 


 

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