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本当の願い

「………………なにを、いって……」



 彩氷あやひの言葉に、掠れた声でどうにか呟く僕。……いやいや、なにをいってるの? だって、今日一日ずっと一緒に過ごして、今だって僕の目の前に――



 ……なのに、どうしてだろう。突拍子もない彩氷の言葉に、驚きつつも何処か腑に落ちる感覚が生じているのは。

 もちろん、さっきの言葉は今日一日の――そして、今も眼前にいる彼の存在と全く以て矛盾する。だけど、その矛盾をいったん措いて今日のことを勘案すれば、むしろ辻褄が合うような気さえして。……だとしたら、目の前の彼は――



「――さしずめ、幽霊といったところかな。可愛い弟にどうしても会いたかった、若干ブラコン気味の痛い兄のな」



 そう、悪戯っぽく微笑み告げる彩氷。……いや、痛くはないと思うけど。なんで僕なんかに、とは思うけど、ちっとも痛くなんてない。幽霊になってまで会いに来てくれて、僕は本当に嬉しい。……だけど、きっと本当の理由は……彩氷の、本当の願いは――



「……なあ、真昼まひる。今日、一人でもいたか? お前のことを悪くいう人間が、一人でも」


 そう、柔和に微笑み尋ねる彩氷。そんな彼に対し、僕は――


「……ううん、一人もいなかった。みんな、ほんとに優しくて、暖かった」


 そう、微笑み返し答える。この旅に――ひと夏の逃避行に出かける前、スマホは家に置いていくように彩氷に言われ、その時はどうしてかと疑問に思ったけど……うん、流石にもう分かる。今日のあれ以降――橋の上で彩氷に見せるために開いて以降、僕は一度もあの画面を見ていない。つまりは――あれ以降、視覚にも聴覚にも僕を非難する言葉は一切入ってこなかった。つまりは――


「……なあ、真昼」


 すると、再び僕の名を呟く彩氷。そして――



「……世の中には、確かに辛い世界がある。理不尽な苦痛に苛まれる、酷く辛い世界が。

 だけど、それ以上に優しい世界はいくらでもある。だから、勇気を出して目を開け。そうすれば、お前を待っているのは優しく、暖かく――そして、希望に満ち溢れた世界だから」


 そう、真っ直ぐに告げる。これ以上もなく優しい微笑えみで、僕の目を真っ直ぐに見つめて。そんな彼に対し、僕は――



「……うん、ありがとう……ありがとう、彩氷……」



 ――そう、震える声で……潤んだ声で口にした。





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