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目的地

「……さて、そろそろ行くか真昼まひる

「…………あっ、うん!」



 それから、しばらくして。

 ふっと降りてきた柔らかな声に、ハッと我に返る僕。見ると、声音に違わぬ柔らかな微笑を浮かべる彩氷あやひがそこに立っていて。……しまった、なんかぼおっとして。えっと、眼前に瞬く星達に魅入られ、気が付いたらまるで夢の世界に……うん、何を言ってるんだろうね僕は。


 ともあれ、ゆっくりと立ち上がる。どのくらい経ってるんだろう? スマホがないから分からないけど……うん、なんだって良いや。


 それから、再び彩氷と共に歩き出す。未だ燦然と瞬く空の下を、しばし共に歩いていく。……遅くなっちゃったし、心配してるかな? 元輝げんきさん。今更ながら、なるべく早く帰らなければ……とは、思うのだけど――



「……あの、彩氷。今、どこに向かってるの?」



 そう、逡巡しつつ尋ねる。もう、幾度か口にした問いを。恐らく、こっちは元輝さんの家ではない……と言うか、ほぼ反対の方向だと思うんだけど。


 だけど、どうしてか返事は届かない。今、彩氷は僕の少し前を歩いているのだけど……どうしてか、あの丘を降りて以降話し掛けてくれないし、話し掛けても一応は返事はくれるけど、今のような問いには一向に答えてくれない。まるで、ただついてこいと背中で語っているような……うん、そう思うなら四の五の言わず黙ってついていけばいいのだろうけど……でも、心做しかさっきまでとは雰囲気が――



「――悪いな、真昼。到着だ」


「…………へっ?」



 すると、ふと足を止めそう口にする彩氷。彼の視線の先――左の方へ目を向けると、そこは――


「…………霊、園……?」


 そう、ポツリと呟く。すると、ようやくこちらを振り返る彩氷。そして、ふっと微笑み再び歩いていく。灯籠の灯りが仄かに照らす、何処か神秘的な雰囲気漂う霊園の中へと。


 ともあれ、少し戸惑いつつ引き続き彼の後をついていく。……えっと、誰かのお参り、だよね? ご家族? ご友人? それとも――



「――悪いな、真昼。さっき、到着と言ったが……正確には、ここだな。ここに、お前を連れてきたかった」

「……へっ?」


 そんな答えの出ない思考の最中、ふと振り返りそう口にする彩氷。その表情は、思わず息を呑むほどに穏やかで……そして、切なかった。徐に、彼の示す方へと視線を向ける。すると――



【――――羽山はやま彩氷あやひ霊位れいい



 ――そう、荘厳な筆致にて墓石に刻まれていて。しばし茫然とする僕に、彩氷は告げる。先ほどと同じ……いや、それ以上に穏やかな微笑で。



「――見ての通り、俺のお墓だよ。お前の――羽山真昼の兄である、羽山彩氷のな」



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