幻想的な夜空
「――悪いな、真昼。こんな時間に、わざわざ付き合ってもらって」
「ううん、気にしないで。彩氷と出かけるの、すっごく楽しいし」
「……そっか、ありがとな」
それから、数時間ほど経て。
真っ直ぐに続く畷にて、隣から穏やかに微笑みそう口にする美青年。だけども、当然のこと謝る必要なんて何処にもない。こうして彩氷といるだけで、僕はとても楽しいのだし。
徐に、空を見上げる。そこには、果てしなく広がる黒のカーテン――そして、燦々と瞬く数多の星。そんな美しい夜空の下を、彩氷と二人並んで歩いているわけで。
「……それにしても、本当に優しいよね、元輝さん。見ず知らずの僕にまでここまでしてもらって、本当に申し訳ないし……本当に、すごくありがたい」
「……まあ、あの人はそういう人だからな。それに、そんなに気にすんなよ。あの様子だと、随分と気に入ったみたいだしな、真昼のこと」
「…………そう、なの?」
「ああ、俺が保証する」
澄み切った空気の中、心地好い風に包まれつつそんな会話を交わす。既に説明した通り、元輝さんには大変良くしていただいた。本当、僕なんかには勿体ないくらいに。
だけど、実は森から戻った後もなんと夕食――三人で収穫したトマトをメインとした、栄養満点の美味しい夕食まで用意してくださり、のみならず泊まっていけば良いとまで仰ってくださり……本当に、何から何まで申し訳なさと感謝しかない。いつか、僕もあんな人に……うん、なれるかな?
「……ねえ、彩氷。さっきも言ったかもだけど、本当にありがとう。今日一日、ほんとに楽しかったから」
「まあ、本当にさっきも聞いたけどな。でも、そう言ってもらえると嬉しいよ、真昼」
その後も、歩みを進めつつそう伝えてみる。まあ、もう言ったのだけど……それでも、僕としては何度伝えても足りないくらいで。すると、彼は辟易する様子もなく穏やかに微笑み答えてくれて。
その後も、しばし閑談に花を咲かせつつ歩いていく僕ら。そして、到着したのは小高い丘の上。……えっと、ここは――
「…………ふぅ」
「……あの、彩氷?」
「お前も寝転がってみろよ、真昼」
「……へっ? あっ、うん……」
すると、ふとバタリと仰向けになる彩氷。少し困惑しつつ声を掛けると、彩氷は何処か悪戯っぽく微笑み答える。まだ少し戸惑いつつも、彼の言葉に応じ徐に草の上へ仰向けになる。すると――
「………………あ」
思わず、言葉を失う。と言うのも――茫然とする僕の視界に映ったのは、今にも降ってきそうな星の煌めく幻想的な夜空だったから。
「……綺麗だろ、真昼」
「……へっ? あっ、うん、すごく……」
ふと響いた柔らかな声に、ハッと我に返る僕。視線を移すと、穏やかに微笑み僕を見つめる彩氷。……綺麗な顔だなぁと、改めて思う。まあ、言わないけど。言ったら気持ちがられるだけだろうし。
「……ここが好きなんだよ、俺。夜空を近くに感じれるこの丘が。この世界が――お前のいるこの世界が、わりと近くに感じれるから」
「……彩氷」
すると、僕の心中を知ってか知らずかそう口にする彩氷。……いや、まあ知らないだろうけど、それはともあれ……心做しか、少し言い方には違和感が――
「――おっ、あれはへびつかい座かな。それから、あれは――」
そんな思考の最中、夜空を指差し滔々と話す彩氷。そんな、少年のように目を輝かせる彼の話を微笑ましく聞いていた。