彩氷の願い
「――いやー楽しかったな、真昼!」
「うん、そうだね彩氷。缶蹴りなんて久しぶりにやったよ」
「ははっ、昔から缶蹴り好きだったもんな、お前」
「……へっ? あっ、まあ……」
それから、しばらくして。
茜に染まる空の下を、充実した疲れと共に歩いていく僕ら。……うん、本当に楽しかった。まるで童心に戻ったように、ただただ子ども達と遊ぶのがこんなに楽しいなんて思わなかった。
ただ、それはそれとして……なんで、僕が缶蹴りを好きなことを知って……いや、まあ良いか。彩氷が謎だらけなことなんて、今に始まったことじゃないし。
「ただ、それにしてもこのタイミングで真昼に彼女ができるとは思わなかったな。流石に俺も予想外だったわ」
「…………へっ? ……あっ、いや彼女じゃなくて! そもそも、そんなの祈里ちゃんに失礼だから!」
「そっか、祈里ちゃんっていうのかあの子。いやお似合いに見えたけどなぁ。お前のこと好きそうだったし、あの子」
「いやいやそれはないよ! だって僕だよ? 好かれるわけないじゃん!」
「……ったく、そんな悲しいこと言うなよ」
その後、そんなやり取りをしつつ歩いていく。実はあの缶蹴りの最中、祈里ちゃんと僕がいたところに偶然にも彩氷が現れて……うん、ほんとに偶然だよね?
まあ、いずれにせよ……うん、あのタイミングでまだ良かった。あの深刻な会話が一段落した後の、他愛もない話に花を咲かせていたあのタイミングで。流石に恥ずかしいからね、あの科白を聞かれてたら。
……まあ、それはそれとして――
「……その、ありがとね、彩氷」
「……何の話だ?」
「……僕を、ここに連れてきてくれたこと。あの子達との缶蹴りもそうだし、元輝さんとのことも。まあ、なんでここまでしてくれるのかは未だにさっぱり分からないんだけど……それでも、ありがとう」
そう、彩氷の目を見つめ感謝を告げる。少し恥ずかしいけど、伝えるべきことだと思うから。尤も、今言ったようにその理由はまるで……と言うか、彼がどんな人なのかもさっぱり分からないけど、そんなことはもはやどうでも――
「……別に、気にすることねえよ。と言うか、感謝するのは俺の方だしな」
「…………? ……どういう、こと?」
すると、不意に届いた思い掛けない言葉に首を傾げる僕。……えっと、なんで彩氷が感謝を――
「……これは、そもそも俺の願いだからだよ。ただ、お前とこんなふうに楽しく過ごしたかった――そんな、俺の勝手な願いだからだよ」