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マヨイループ  作者: 秋紅
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一ページ目 少年はただただ帰り道を歩く

 少年は友達に借りた本を持ちながら、七月の初めの蒸し暑さを感じる。額には汗が滲み、夜五時を知らせる音楽が地域全体を子供達に知らせるように音を奏でていく。





 少年はその音を聞き、焦燥感に駆られる。早く帰らなきゃという使命感と親に怒られてしまうという恐怖心が少年自身を急かしていく。





 辺りは住宅街であり、夕食の香ばしく良い匂いが少年の鼻を突く。それがより食欲をそそり、早く帰らなきゃと足速に歩き始める。





 整備されていないのだろうか。少年の真上の街灯の灯りがチカチカと切れかかっている。少年はその街灯に屯している蛾を凝視する。妙にうろちょろと灯りの周りを飛んでいるので、気持ち悪く感じる。





 手汗が滲み出てきたのか、少し本に汗が滲みてしまう。それに気づいた少年は急いで、友達から借りた本をショルダーバッグに仕舞い込む。





 琥珀色の空を少年は眺めながら、今日も一日が終わったんだと思ってしまう。明日の自分は何をしているのか、来年の自分は何が起こっているのか、十年後の自分はどんな人間になっているんだろうとそんな確証も無いような未来に思いを馳せていた。




 不意に犬の鳴き声が聞こえた。ワンワンと吠えている声が辺りに響く。それは少年の近所の家にいる犬であった。その近所の人とは仲良しであり、犬にも少年は懐かれていた。




 少年が近くまで来たのを、匂いなどで察知したのだろうか。少年の眼と犬の眼が合った。それを見て犬はより大きく吠える。どうやら撫でてほしいそうだった。




 少年は犬の側まで来て不器用に撫でる。犬は「クゥ〜ん」という鳴き声を出して、嬉しがっていた。少年は犬のその眼を瞑りながら、少年に身を任せているような表情を浮かべている。それが少年にとっても可愛いと感じてしまう。





 ただ少年はスマートフォンの時刻を確認すると、流石にヤバいと感じたのか犬の頭から手を離す。少年の手を愛おしそうに眺めて名残惜しそうに犬はしていた。少年もまだ犬と戯れたかったが、それ以上帰るのが遅くなると親から雷という名の怒りの鉄槌が落とされてしまう。それが怖くて犬に小さな声で、「ごめんね」と謝りながら帰り道をまた歩く。





 少年は犬と戯れた時間を巻き返すように、家まで走る事にした。息切れを起こしながら、すぐそこまで家が目の前に辿り着こうとしてた。





 しかし妙な違和感を感じる。少年は道を間違えてしまったのかと不安になる。自身の家だった場所の所にアパートがあった。少年の家は一軒家である筈なのに、何故別の建物が存在しているのかおかしかった。





 少年はただただ道を間違えたんだと考えて、歩き直す。自分の家だった場所というのはもしかしたら既視感という奴なんだと自分を納得させる。




 とりあえずここ周辺を歩き回れば、いつか辿り着くだろうと。近所の犬と触れ合ったという事は、ここ周辺に自身の家がある事が確定している筈だからだ。





 帰り道によく見かける近所の家の花壇が見える。ここに住んでいる老夫婦には、少年は良くしてもらっていた。よくお菓子を貰ったり、大阪のおばちゃん並みに飴ちゃんを貰ったりとしていた。老夫婦がよく花壇で朝から作業している中、少年が登校時間が被り、よく挨拶していた。まだまだ現役で、元気いい夫婦だなと少年は思っていた。





 そんな花壇を通り過ぎて歩き続けると、近所の公園が見えてきた。よく友達とブランコや滑り台、木材で作られたテーブルでカードゲームをしたり、携帯ゲームで遊んだりとしていた。ただ高学年になるにつれて、家で友達とネットゲームをするようになっている。そんな低学年の出来事が、妙に懐かしく感じてしまう。





 少年は疲れてしまったのか公園の中に入り、久々に公園の草花と土を踏み締める。時間帯も時間帯なのかもしれない。人は誰一人おらず、少年一人しかこの公園には存在しなかった。





 最近は低学年も公園で遊ぶというのが少なくなっている気がする。少年が下校途中によく公園を眺めたりしているが、子供がいるというのが一週間のうちに何回かしか見てない。やっぱり家にいるというのが、いいのだろうか。外で遊ぶより家で皆でゲームというのが主流になってきてる気がして、少年は少し寂しく感じる。





 と言っても少年も家で友達とゲームとかするようになってきているので、何も文句は言えなかった。こんな暑い中、外で遊ぶより家でエアコンとかで涼しくなっている部屋で遊ぶ方がいいよね。そんな風に自分を納得させて、インドア派な少年は、公園にある錆びれているベンチに腰掛ける。





 少年が何故公園に来たのかというと疲れている為に休むという目的と、母親に連絡して迎えに来て貰おうとする為である。緊急手段だが、道に迷ってしまったから近所の公園にいるから迎えに来てほしいと頼もうとしていた。おそらく何歳にもなってとかまだ道を覚えられないのかとか怒られそうであるし、恥ずかしさで死にそうになるが、帰れないよりマシである。






 少年はスマホを開き、電話しようとする。電話をしようとすると、スマホの表示で「電波の届かない場所におります」というのが表示される。





 少年は理解したくない事を理解する事だった。近所の公園という事だし、ここは住宅街である。電波が通じないというのはあり得ない事である。そんな現象など起こり得る筈もなかった。






 少年は途端に不安になってしまう。別の悍ましいような先程とは違う恐怖心に支配される。少年の恐怖心が限界に達したのだろう。眼から涙がとめどなく溢れてくる。





 しかしなんとか涙を拭い、勢いよく立ち上がり走り出す。そんな事あってたまるか、絶対あり得ない、きちんと帰れる筈だと、希望が少年をなんとか自我と恐怖心を和らげる。





 少年が覚えている限りの道のりを走る。足が千切れそうになるくらいに重くなり、息が最早肺になんとか酸素を取り込もうと、息が絶え絶えになりながら、全力でひたすら走る。走るしか少年にはなかった。





 帰れない筈ないのだと。そんなおかしい事無いのだと。そんなホラーじみた事なんて起こる筈ないんだと。そんなもんフィクションで充分だと。





 少年は遂に恐怖心のあまり、口を大きく開く。掠れた声を出しながら、血を吐きそうになりながら、辺りに聞こえるように叫び出す。その眼は涙のあまり、瞼が赤くなっており、擦りすぎて眼が痛くなって充血している。





「誰かーーー!? 返事してーーー!?」





 少年の渾身を込めた叫びだった。しかし一向に反応がなかった。住宅街である筈なのに、近所の人も、住民の優しいお兄さんの声もお姉さんの声も、老夫婦の声も、何もかも聞こえなかった。





 あり得ない。あり得る筈ないんだから。お願いだから。本当にお願いだからと心の中で懇願する。心の中で留められず、恐怖のあまり悲痛に声を出す。






「お願いだから………………返事してぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁーーーーーー!?」





 少年は高学年というのに、みっともない声を出す。それ程今の少年は恐怖に支配されているのだから。これで返事しない人間などいないだろう。何かあったと急いで駆け出すのが普通である。






 しかしそこにあったのは静寂である。静かであり、何の声も、音も発さなかった。





 少年という存在が出す音以外、そこには音がなかった。少年はようやく理解してしまう。眼を逸らしていた筈の事が、ようやく現実味を帯びてきた。





 そして一つだけ少年は確信を持ってしまう。それはシンプルでありながら、少年にとっては残酷な答えである。それが自分が家に帰れないのだと。

一ページ目、最後まで読んでくれてありがとうございます



シリーズ物を書きたいとふと思いまして、最初に思いついたジャンルがホラーでした。マヨイループという作品を宜しくお願いします。


ちなみにシリーズタイトルは、「ホラーは本の中に」です。友達から借りた本による奇々怪々な物語の数々をお楽しみください。



少しでも面白いと感じたら、いいねやブックマーク登録お願いします。また次の話もよければよろしくお願いします。

誤字、脱字などありましたら、報告お待ちしております。それと何か設定や諸々の違和感があれば、感想にてお待ちしております。

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