番の龍が迎えに来たけれど、世界観を間違えていると思います
小説ではありがちな話だが、私には前世の記憶がある。
とはいえ転生してから早十八年。幼い頃ははっきり思い出せた記憶は、年を経るごとにどんどん朧げになっていき、今はもう前世の名前やどうして死んだのかさえ思い出せなくなってしまった。時折どうでも良い情報をふと思い出すぐらいだ。
私が転生したこの西洋風の世界には、龍とその番というものが存在していた。龍にとっての運命の相手、それが番だ。番には生まれた時から顔に美しい痣があり、龍紋と呼ばれている。要は虫除けだ。彼女はもう予約済みだから、手を出さないようにと。
また龍紋は番が危険な目にあった時に、助けてくれるものでもあった。実際私が石段から転げ落ちて死を覚悟した時に、龍紋が私の命を救ってくれた。
そうだ、私も顔に龍紋をもっている。龍と結ばれれば龍紋は消えてしまうらしいのだが、あいにく私はまだ迎えに来てもらえていない。ついこの間十八歳の誕生日を迎えて成人したので、そろそろ迎えに来る頃合いだとは思うのだが。
幸運なことにとある貴族の娘として生まれた私は、迎えを待つ間悠々自適な時間を過ごさせてもらえている。どうせ今日も来ないだろうし、午後は優雅なティータイムとか思っていると、迎えは突然現れた。
急に窓の外から来るのかと思いきや、そんなことはなく、龍は屋敷の玄関から私を訪ねてきた。龍には応接室で待っていてもらい、私は急いで身支度を整える。
そして速足でたどり着いた応接室の扉の前で、はやる気持ちを抑えて一旦呼吸を落ち着けた。ずっと会いたかった存在が、この扉の向こうにいる。私は意を決して扉を開いた。
応接室のソファに座っていたのは、緑色の髪、黄金の瞳、たれ目で優しそうな青年だった。彼の頭には龍の角があり、一目で私の番なのだと分かった。身に纏った騎士服は、龍としての正装なのだろう。
待ちわびた相手に逢えた喜びがこみ上げてくる。相手がイケメンなのでなお嬉しい。それは向こうも同じだったようで、柔和な笑みで私を出迎えてくれた。
向かい合わせに座った私と彼は、互いに自己紹介をした。
彼の話では今日は自己紹介と両親への挨拶だけで、一緒に暮らせるまでには少し時間がかかるらしい。一緒に暮らすには色々と準備が必要なので仕方がない。
私としてはもっと彼とゆっくり話したかったのだが、そうもいかないとのこと。彼の私の両親への挨拶は先程済ませたが、これから私達は彼の両親の元に行かなければならないからだ。
私と彼は屋敷の外に出た。
「変身しますから、少し離れていてくださいね」
彼の甘い笑顔と、とろける様な声が、私の心を震わせる。物心ついた時からずっと、彼の姿を思い描いていた。今はもう忘れてしまった前世の記憶が、なおさら私をそうさせた。
イケメンな彼のことだ。龍になった姿もかっこいいに決まっている。翼の生えた勇ましい姿で、どう私を運んでくれるのだろうか。背中に乗せてくれるのか、手の上に乗せてくれるのか。彼と触れ合えるだけで私は嬉しいので、どちらであろうとウェルカムだ。
変身する彼から眩い光が発せられる。私はドキドキしながら、一度閉じた目をゆっくりと開いた。龍の名に相応しい巨体が目の前にいた。
龍となった彼の姿を見て、私の中で湧き上がってくるものがあった。これは前世の記憶だ。
彼の姿は、七つのボールを集めて呼び出すと、願いをかなえてくれそうなタイプの龍だった。または手に宝玉を持っていそうなタイプの龍である。あるいはにょろにょろっとしていて、十二支に含まれているタイプの。
私は思わず叫んでいた。
「辰かよ!?」
西洋風の世界観ぶち壊しである。
辰が何なのかよく分かっていない彼は、突然叫び声をあげた私を見て心配しているようだった。優しい彼を心配させてしまうとは、何たる不覚だ。
「すみません、前世の記憶のせいなので、お気になさらずに」
こういうことはたぶんこれからもあるので、慣れてもらいたいと力説し納得してもらった。彼が理解のある辰……ではなかった龍で良かった。鎮まれ! 私の前世の記憶!
気を取り直して、私は彼の背に乗せてもらった。とりあえず背と表現したものの、彼の頭の後ろ辺りなので、より正確に表現するなら首の方が正しいかもしれない。
風を切って空を飛ぶ中で、ふと私の意思に反して、沸き上がってくる前世の知識。
私は叫ばずにはいられなかった。
「日本昔ば●しかよ!?」
若い方は日本昔ば●しのopを知っているのでしょうか??




