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第5話 家族団欒

「ロザリア、目を覚ましてくれてよかった。本当に心配したぞ」

 笑いながら父はそう言った。それを聞いて母もホホホと笑う。

「お父様、心配をおかけしてすみませんでした。今はこのように元気ですからご安心ください」

「謝る必要なんてない、元気な姿が見れて俺は嬉しいよ」

 夕食が始まる前の歓談。私はアイナに父と母にどのような態度で接していたか聞いたので、まあなんとか取り繕えている。

「ロザリア、あなたの私似の綺麗な顔に傷がつかなくて良かったわ。コブも見えないところにあるようだし」

「はい、幸いにも大した怪我ではありませんでした」

 この怪我でロザリアの魂は‥…どこか行っちゃったけど。アーメン。

 父はブラッドレイン家を象徴する赤髪をした麗しき中年ーー今で言うイケオジである。ゲームでは出てきていないので初めて見たが、私的にはかなり『あり』だ。キミパスの攻略対象は主人公と同年代のため、オジサンキャラはいない。私は枯れ専というわけではないけれども、イケオジは『くる』ものがある。性格もロザリアのように歪んではいない。ブレッドレイン家当主としての自信と品格に満ちあふれている。

 母はというと、金髪のおだやかな顔のブロンド美人である。ブラッドレイン家ではないので赤髪ではない。たしか、アイナから聞いたところ金の魔法を使うのだとか。金を生み出すことはできないものの、物体の金の構成比を調べたり、金加工を施したりできるらしい。家業が宝石商であるブラッドレイン家が、現在は金にも造詣が深いのは母が嫁いだからだろう。

 もちろん彼女からも陰湿そうなオーラは感じられず、ではロザリアは一体どうしてこんなに歪んでしまったのか。幼少期になにかあったのか、あるいは突然変異なのか。身体の持ち主なだけで記憶の継いでない私には何もわからない。ゲームの設定でそうなっている、と言われればどうしようもないけど。

 料理が来て夕食が始まり、歓談が一時止まる。

 テーブルマナーがうろ覚えでかなりまずかったけれども、家族の所作をチラ見してなんとか凌ぐ。一度か二度は転生前、家族でディナーをした時にテーブルマナーの経験はあるはずなのだけど、完全に記憶から抜け落ちている。

 時折、母から「ちょっとあなた大丈夫?」と言いたいかのような訝しげな視線が来たが、固い作り笑いで乗り越える。父は特に気にしていなさそうなので助かった。弟はあまり会話に入らない。父や母が弟に質問する時だけ答える、というような感じだ。

「ところで、もうそろそろ学校が始まるね、ロザリア」

「はい、ええと……いつからでしたっけ」

「おお、ロザリア、頭の怪我は深刻だな!」

 先ほどの優しい口調とは打って変わって、父は演劇の俳優のような大げさな喋りをした。

「あなた。それは先程からのロザリアの酷い食事の所作からもわかっているでしょうに」

 母はため息混じりに言った。ため息混じりと言っても、本気で嘆いているようではなさそうだ。

「そうだったのか? それは気づかなかったな。まあ、それはあとでアッシュにでも教えてもらうといい。大したことじゃない。俺だって子供の頃は手づかみ食っていたものさ」

 笑いながら父は言う。母も笑う。私は新たな父に対して好感を抱き始めていた。

「学校は明後日から新学期が始まります。」

 アッシュが口を開いた。どうやら今は春休みらしい。

「ロザリア、あなたは二年生なのだから、もっとしっかりしてもらわないと。頭を打って随分ポンコツになっていますよ。そして、アッシュ、一年生で緊張していると思うけれども、ルルド魔法学園の生徒だという自覚と誇りを持って頑張りなさい」

「はい、お母様」

 弟がそう答える。

「はい、お母様」

 私も遅れて弟に続いた。

 夕食が終わると弟が一番先に出ていき、次に私が自室に戻る。

「はぁ、よかった〜〜〜!!」

 なんとか終わらせることができた、という安堵感から大きく息を吐いた。私がロザリアじゃないということがバレるはずはないけれども、やっぱり怖い。まあ、バレたとしても元のロザリアに戻ることはできないのだけど。

 ベッドに横になると、自分が思っていたより疲れていたのか、瞼がずんと重くなった。

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