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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「ニオさんのクランって、もしかして──」

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第16話 もしかしてニオさんのクランって――

「ん~……にゃっと! それで、話って何かしら、斥候くん?」


 俺の目の前。ローブ姿のまま、伸びをしながら尻尾を揺らしているのはニオさんだ。


 日付にして6月2日。深夜0時過ぎ。場所は、シクスポートの転移クリスタルがある、円形の芝生広場。少し前、俺とニオさんの関係を勘違いしたトトリを慰めた場所だった。


 数時間前、おねぇ系イケメンであるところのぬいさんによって明かされた、ウタ姉の過労。俺が思っていた以上に、ウタ姉は頑張ろうとしているらしい。それはひとえに、俺がウタ姉を安心させられていないからだと思う。主に、収入の面で。


 けど、喫茶店バイトのシフトはもう決まってるし、すぐには増やせない。それでも、幸いと言うかなんと言うか。現在アンリアルでは、賞金が出るイベントが開催中だ。


 俺は小さく息を吐いた後、尻尾を「?」の形にするニオさんに頭を下げる。


「単刀直入に。俺をニオさんが居るクランに入れて下さい!」

「……急ね。どういう心境の変化?」


 顔を上げると、訝しげに俺を見る金色の瞳と目が合う。俺は、一度ならず二度までも、ニオさんのクランへの誘いを断っている。なのに、ここにきて俺の方からクランに入れて欲しいと頼んでいる。ニオさんの疑念も、もっともだった。


 多分、ニオさんなら、事情を話さなくてもクランに入れてくれる気がする。けど、ここは頼む側として、最低限の誠意は見せるべき……だと思う。それに、何度もニオさんには無駄足を踏ませてしまった。そのお詫びも兼ねて、俺は最大限、伝えるべき情報を明かすことにした。


「ニオさんにも言ったよね。今回、俺はイベントで報酬が目当てだって」

「うん、そうね。ソロ部門のモンスター討伐数での受賞を目指すんでしょう?」


 確認するようなニオさんの言葉に、俺は首を縦に振る。


「そう。実はちょっと今お金が必要なんだ。……けど、正直な話。ニオさんは『上の下』でしかない俺が個人別の賞を受賞できるって思う?」

「ええ」


 即答だった。しかも、意外な返事だ。てっきり「無理だ」と言われるものだと思ってたんだけど……。


「……買い被り過ぎでは?」

「そう? 斥候くんより強い人たちは大体クランに入ってるだろうし、個人部門にはエントリー出来ない。その点、フィーちゃんと斥候くんなら十分受賞の可能性はあると思うけど」


 ゲームに関して、ニオさんがお世辞を言うとも思えない。つまり、この人は本気で俺なら受賞の可能性があると言ってくれている。


「ただし。金賞は取れないでしょうね」


 そんな補足についても、本心なんだろう。


「そう思う理由を聞いても?」

「斥候くんよりも出来るプレイヤーが居て欲しいっていうあたしの希望が半分。もう半分は、数千万人のプレイヤーが居るんだもの。斥候くんより、レベルも実力も上のプレイヤーが居ないって考える方が不自然でしょ?」

「……おっしゃる通りで」


 さすがに俺も、自分が数千万のプレイヤーの頂点にいるとは思っていない。事実、目の前に1人、負けるかもって思えるすごいプレイヤーがいるわけだし。……負けるつもりは、ないけど。


「そうなると、俺は銀賞以下……10万G以下しか手に入らない。しかも、個人部門だから該当者はたった1人しか居ない。けど――」

「団体部門。あたし達のクランなら、金賞の最大100万Gが手に入るかもしれない。……なるほど。斥候くんは、あたし達に賭けた方が、より賞金を得られる可能性が高いって考えたわけね?」


 言葉を先取りしてくれたニオさん。けど、俺は首を横に振る。


「あれ、違った? けっこう自信、あったんだけど」

「ちょっとだけ違う。俺はニオさん“達”に賭けたんじゃなくて、あくまでもニオさん個人に賭けただけ」


 俺は、見ず知らずの他人を信じたわけじゃない。あくまでも、俺がこの目で見て、実際に戦ってみて、すごいって思えたプレイヤー「ニオ」を信じただけ。そんなニオさんだから、俺は彼女が所属するクランの人たちも信じることができた。


 そんな俺の言葉に、しばし目を見開いたまま固まっていたニオさん。けど、それも数秒だけだ。すぐに咳払いをすると、会話を続ける。


「コホン……。確認するまでもないけど、賞金はクランメンバーで山分けよ? 個人部門で銀賞を取るよりも手に入る額が少なくなる可能性もある」

「どうだろ。ニオさんに限って言えば、それは無いんじゃない? だって……」


 2回目の勧誘をしてくれた時、イベントの賞金について詳細が明かされていた。そのうえで俺をクランに誘ってくれたってことは、ニオさん自身も、『斥候』にメリットを提示できる……つまりは俺の取り分が個人部門銀賞の10万G以上あるって踏んで、誘ってくれたんじゃないだろうか。


 そんな推測をかいつまんで説明した俺に、ニオさんがフードの奥で金色の目をきらりと光らせる。


「……そうだとして。あたしが2回目の勧誘の時に賞金っていうメリットを提示しなかった理由は? 賞金について明かせば、斥候くんは食いつくって。あたしなら考えそうだけど?」


 言われてみると、確かに。口ぶりからして、あえてそうしなかった理由があるって考えた方が良いかな。


(じゃあ、その理由は?)


 ニオさんの性格からして、2回断られたからもう誘わないでおこう、みたいな遠慮はしそうにないように思う。いや、本気でノーって言ったらさすがに辞めるだろうけど、ニオさんはフレンドになった時に俺を「キープする」って言ってた。つまり、きちんと“その次”……クランに入れることを考えていたはず。


 その後、お弁当を食べながら賞金とどの部門を狙うかにについて話し合ったわけだけど、その時にはあえて誘ってこなかった。


「……ニオさんは『賞金って言う餌を利用しなかった』んじゃない。『利用できなかった』んじゃない? 」


 その理由は、ニオさんのクランが秘密主義だからだと考えてみるのはどうだろう? というのも、そもそもニオさん。勧誘するわりには、クランの方針も、所属人数も、何もかも教えてくれていなかった。基本的に重要なことはきちんと明け透けに話してくれるあのニオさんが、だ。


「俺は、ニオさんは傲岸(ごうがん)不遜(ふそん)で唯我独尊、天衣(てんい)無縫(むほう)。だけど、義理堅いキャラって思ってる」

「……一応、褒め言葉と受け取っとくわね?」

「けど、クラン勧誘についてだけは俺に隠し事をしてる。不義理を働いてる。その理由は、クランの方に義理を通してるからじゃない?」


 尋ねた俺に、ニオさんは答えない。けど、この場合、沈黙は肯定のはずだ。


「学校で報酬の話をした時に俺を誘わなかったのは、さっきの推測が成り立つってニオさんが考えたから」


 つまり、報酬の面に踏み込んで考えてしまえば、山分けの話になった時にニオさんのクランのメンバーの数が大まかに分かってしまう。


(ってことは、やっぱり。ニオさんのクランのメンバー数は最大でも9人以下って考えて良い。しかも全員、ニオさんが実力を認めるプレイヤー)


 クランの加入方法は、メンバーの勧誘のみ。縫さんが経営する会員制のバーみたいに、選ばれた者しか入ることができない。しかも超秘密主義で、クランの人数が露見することにすら気を遣い、その存在は知る人ぞ知るのみ。そのありようはまるで、ファンタジーゲームにもよく登場する『闇ギルド』みたいだ。


(ゲームだと裏ボスになったり、逆にプレイヤーを助けてくれたりするんだけど――)


 と、そこまで考えてようやく。俺はとある可能性に思い至る。妄想の域を出ない、言いがかりにも似た可能性。けど、もしそうだとするなら。こと情報面においてチート級の強さを誇るフィーと、契約者である俺にニオさんが固執する理由にも合点がいく。


 また、こじつけるだけのヒントだって複数ある。特にニオさんが空を飛べたことは、俺がかねてから抱いていたとある疑問の答えになる。


「……もしかしてニオさんのクランって――むぐっ!?」

「そこまでよ、斥候くん」


 考え事をしてる間に、いつの間にか目の前にいたニオさんの小さな手が俺の口を塞いできた。息がかかりそうなほどの、至近距離で猫みたいな目と見つめ合う。


「それ以上は、ここでは秘密♪ ……分かった?」


 片目を閉じ、自身の唇に指を立てて「シーッ」をするニオさんに何度も頷いて見せると、ようやく身を離してくれた。


「はぁ……。これだから察しの良い子は嫌いだわ」

「なんか、ごめん」

「褒めてるの。だからそこは『ありがとう』よ。まぁ、とにかく……行くわよ!」


 軽やかに身を翻したニオさんが、ローブと尻尾を揺らして歩き始める。


「行くって、どこに?」

「決まってるじゃない。あたし達の家……クランハウスよ。格好をつけた言い方をするなら――」


 隠れ家ね。そう言って、ニオさんは片目をつぶってみせた。

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