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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「ニオさんのクランって、もしかして──」

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第14話 「そのゲームで初めて」は、ゲーマーの誇り

 馬車とは比べ物にならない速度で、景色が流れていく。


 今度こそAIフィーの自動運転の補助を受けながら、俺は魔動バイクを操縦していた。


「斥候くん! きっとあたし達、アンリアルで最初に魔動バイクに乗ったプレイヤーよ!」


 背後。俺のお腹に腕を回してポニーテールを揺らすニオさんが、声を弾ませている。


 魔動バイクを作るためにはコロンが落とす「魔動機の破片D」を始め、まだ名も知らない素材を100個以上も必要とする。3時間かけて1個集まるかどうかというアイテムを、100個以上。通常のプレイヤーなら製作期間が2~3か月はかかりそうだ。そして、現在、ロクノシマが解禁されてから12時間ほど。魔動バイクを作った人は、絶対に居ないと断言できた。


「じゃあ俺たちは、アンリアル初のライダーってことだね」

「『初めて』……。良い響きね!」


 魔動バイクの自動運転は、進行方向をプレイヤーが示してあげれば、あとはAIが勝手に運転してくれる。障害物を避け、なるべく凹凸の少ない道を走る、みたいに。だから、わき見運転をしてもぜんぜん問題ない。周囲に気になる建物やモンスターが居ないかを確認しながら、広大な森を走り抜ける。


 フィーが変身した魔動バイクは、全長約2m、全幅約75㎝、全高約1mの大型バイクだ。ウタ姉に話すために、フィーに現実で似たようなものを調べてもらうと『ハヤブサ』っていうスポーツバイクが近い。


 ただ、魔動バイクというだけあって、動力はガソリンじゃなくてアンリアル内に存在する魔法系アイテム『魔石ませき』。魔石にはA~Dのランクがあって、使用することで対応する魔法系スキルのクールタイムを0にすることができる。主な入手手段は採掘。レア度自体は高くないから一番下のDランクの魔石で大体500Gくらい。


 そのDランクの魔石を使えば、魔動バイクは30㎞の距離を走破することが出来る。しかも最高時速60㎞という速さだ。


(これまでアンリアルにあった馬車が大体、時速15㎞くらい。100Gで目的地まで乗れるけど……)


 馬車が走るにはある程度整備され、道幅の街道が必要なため融通が利き辛い。その点、魔動バイクは移動コストこそかかるけど、圧倒的な融通が利く。


 まさに、移動手段の革命とも言えるだろう。少なくとも時間当たりの移動距離は向上するだろうし、攻略の幅はグッと広がりそうだ。こうやって、目に見えて“出来ること”が増えていくのが、ゲームの醍醐味かもしれなかった。


(……案外、攻略組の人たちも、似たような移動手段を持ってるのかも?)


 ゲーム開始から6時間後には公開されていた、ロクノシマのマップ。たとえ走り回ったとしても、人の力だけで直径20㎞もある島の全体像を把握するには、早すぎる。


 ロクノシマだけじゃない。これまで解放されてきた各エリアも、公開の数時間後には大まかなエリアマップが攻略サイトにあげられていた。


(移動に特化したサポートAIがいる……とか?)


 謎の集団“攻略組”の人たちの探索方法にも思いを馳せながら、快適なツーリングを楽しむこと、しばらく。


 俺たちは、ロクノシマの北西部にある岩山エリアに足を踏み入れた。同時に視界に現れたのは、山について紹介する公式からのメッセージボードだ。


 一度バイクを止めて、ニオさんと2人でロック火山の説明文に目を通していく。それによると、この山は『ロック火山』。ロクノシマはこの火山の噴火によってできた孤島らしい。山の標高は約2,000m。もう既に火山としては活動しておらず、山の頂には美しい火山湖カルデラがあるそうだった。


 俺がメッセージボード読み終えると、ほぼ同時に読み終えたらしいニオさんが俺の方を振り返る。


「……どうする、斥候くん?」


 口調や声色、何よりも好奇心で輝く金色の瞳。ニオさんがこの火山地帯に興味を示していることは疑いようがない。


 そして、悲しいことに。俺もこの人と似たような心持ちだと思う。これまでも山や岩山の地形はあったけど、火山なんて言う地形はアンリアルには無かった。大きな岩が転がる灰色の山肌には、きっと独自の生態系が見られることだろう。


(俺は斥候で、その役目は情報収集……)


 時刻を確認すれば、現在、朝6時前。日付が変わって今日は土曜日。ウタ姉が起きてくるのが8時過ぎだから、朝食の支度に向かうのは7時半くらいで良いかな。つまり、あと1時間半は遊べるわけで――。


「行くしかないでしょ!」

「よねっ! ということで……リュー!」

『キュルルゥッ!』


 バイクを下りたニオさんが、自身のサポートAIを呼び出す。すると、ポンッと可愛い音を立てて、深紅の鱗を持つ仔竜こりゅうが現れた。


 何をするのかと疑問に思いながらニオさん達のことを見ていると、


「リュー、〈竜化〉」


 ニオさんの指示に『キュルッ!』と頷いたリューの姿が光に包まれ、どんどん、どんどんと大きくなっていく。やがて光が収まった時、そこには4本の足と巨大な翼、深紅の鱗を持つ巨大なドラゴンが居た。


「お~……!」

「ん~……!」


 俺と、妖精の姿に戻ったフィー。2人並んで、ただ茫然とファンタジーの代名詞とも言えるドラゴンを見上げる。


 ストーリー上では確かにドラゴンの存在に触れられていたし、山岳マップの上空を飛び回るそれらしき生物はいた。ただ、どれだけ接近しても降りて来ることは無かったし、てっきりただの演出だと思ってたんだけど……。


(まさか、プレイヤーの騎獣だったなんて……)


 太い尻尾を含めた体長は15m、首をもたげた体高は5mほどだろうか。ちょっと立派な一軒家くらいのサイズ感を持つ巨大な生物の存在感には、ただただ圧倒されてしまうし、何より。


(かっこいい……!)


 ファンタジーの代名詞たるドラゴンが目の前にいる状況には、興奮せざるを得なかった。


 ――だから俺はこの時、空を飛べると言うことが何を示すのか。そのことについて考えることを、すっかりと失念してしまっていたのだった。


「ニオさん、これって……」

「ふふんっ! 配信でも見せない、あたしとリューの隠し玉よ!」


 腕を組み、足を肩幅に広げ、耳をピコピコ。ドヤァッと効果音つきそうな表情と態度で言い放つニオさん。この人ほど、ドヤ顔が似合うプレイヤーはいないと思う。


「この姿になったリューになら、最大4人まで乗ることができるわ。ただし、くらと〈操獣(そうじゅう)〉スキルが必要なんだけどね」


 言いながら、慣れた手つきでリューに鞍を装着していくニオさん。真剣な顔で作業すること1分ほど。


「よしっ! さぁ乗って、斥候くん!」


 リューの背中の上からニオさんが、俺に手を差し出す。


「隠し玉。見せちゃってよかったの?」

「良いのよ。別に斥候くんだけじゃなくて、クランの人たちも知ってるから。それよりも……早く!」


 待ちきれない。何なら俺たちを置いていきそうな勢いで、ニオさんが早くリューの背中乗るように促してくる。その勢いに押されるがまま、俺はニオさんの手を借りながらリューの背中に(またが)る。今回、フィーにはデータ化してもらうことにした。


「け、結構高いね……」

「ふふっ、これくらいの高さで何を言ってるのよ。今から空の旅よ、心の準備は良い?」


 リューも、乗り物と言えば乗り物。さっきみたいに俺が叫ばないか心配してくれてる――


「大丈夫そうね。行って、リュー!」

『グルァァァ!』


 ――わけでもなかったみたいだ。確認したくせに返事を待ってくれないニオさん。彼女の声に合わせて、リューが大きな翼をはばたかせる。


「おわっ!?」

「んっ!」


 不意に押し寄せる上下の激しい揺れと浮遊感を、俺は鞍の取っ手に掴まることでどうにか耐える。ただ、不思議と、バイクの時に感じた不安みたいなものは無い。リューがAIだから……かな? それとも“生物”だから? その理由は分からないけど1つだけ言えることがある。


 きっと、ゲームの中でなければ、ドラゴンに乗って空を飛ぶなんて経験、絶対に出来ない。


 もしかするとこの興奮が、俺から恐怖を奪っているのかもしれなかった。


「見て、斥候くん――」


 ニオさんに言われて目を開ければ、もうそこは空の世界。グッと気温が下がり、心なしか呼吸もしづらい。正面を見れば水平線。上を見上げれば、手が届きそうなほどに近い空。そして、足元にはロクノシマ。上空から見る孤島はマップの通りではあるんだけど、実際に目で見ると、スケールの大きさに圧倒される。


「――ようこそ、斥候くん。ここが空の世界。……限られたものしか立ち入れない(いただき)の景色よ」


 目の前。俺の方を振り返って微笑むニオさんの言葉には、なぜだろう。別の意味が含まれている気がした。

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