表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「ニオさんのクランって、もしかして──」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/134

第8話 夫婦喧嘩は犬も食わぬ、だったかな

 ニオさんという光に、みんなが引き寄せられる。その様は確かに、宗教に近いように思う。もしくは、例えは悪くなるけど誘蛾灯ゆうがとう……ううん、ニオさんが熱すぎる気もするから、電気ストーブと蛾、かな。近づきすぎると、燃えそうだ。


「もうっ、じゃあ言い方を変えるわ。あたし達の所に来なさい、斥候くん」


 じれったくなったのだろう。勧誘ではなく命令口調で言ったニオさんが、さらに一歩、俺の方に踏み込んで来る。ここまで言ってくれるなら、仕方ない。


「ごめん。ニオさんのクランには入らない」

「良かった! それじゃあ早速……ってこの流れ、前にもやった!」


 意外とノリも良いんだよね。さすが、関西人。


「今、絶対に視聴者は確信してたはずよ。『あ、コイツ折れるな』って! 斥候くんは今、その期待を悪い意味で裏切ったの! 登録者数、1割は減ったわ!」

「うん。けど、改めてごめん。俺は、まだ、大勢の人と仲良くできるだけの能力が自分にあるとは思えない。だから、ニオさんのいるクランには入れない。けど――」

「『けど』何よ!?」


 ローブの奥にある耳と尻尾をピンと立て、半ば自棄(やけ)になって聞いてくるニオさん。


「ニオさんと一緒にゲームはしてみたい」

「……クランみたいな大勢の人たちとは仲良くできる自信が無い。だから、とりあえず手近な気の合う女で手を打つ。そう言うことね?」

「言い方がめっちゃ引っかかるけど、意味としてはその通りです」


 頷いた俺に対して、ニオさんは自身のあごに手を当てて考える姿勢を見せる。けど、迷っていたのは数秒だった。


「まぁ、良いわ。それで『斥候』というプレイヤーをキープできるなら、あたし達としても好都合よ」

「キープって。言い方、言い方」

「斥候くんもあたしをキープしてるじゃない」


 お相子よ。そう言って、ニオから俺の方にメッセージボードが飛んできた。「プレイヤー名:『ニオ』とフレンドになりますか?」というその文言は、もちろん、フレンド申請機能のそれだ。


「聞けばトトリとはフレンドになってないそうじゃない?」


 言われてみれば。パーティは組んだことあったけど、フレンドにはなってなかったっけ。


「斥候くん、コミュ障っぽいし、どうせあたしが初めてのフレンドでしょ? 大切にしてよね」

「さっきから言い方にとげありません、ニオさん? あと、フレンドは他にも7人居ます」

「嘘でしょ……!?」


 ガチで驚かれると、さすがに傷つくなぁ……。まぁ、トトリに同じようなことを考えてた俺が言えたものじゃないけど。


 ニオさんからのフレンド申請に『Yes』を返すと、フレンドリストに記念すべき8人目が登録される。


「ふふ、やっぱり斥候くんはあたしの想像を超えてくるのね!」

「フレンド8人で言われても、あおりにしか聞こえない」

「もちろん、あおってるの。あたし、やられっぱなしは嫌だから!」


 歯を見せて、ニシシッと楽しそうに笑うニオさん。


「どんだけ負けず嫌いなんだ……」

「当然じゃない。あたしの負けは、あたしだけのものじゃない。不甲斐ないあたしを、あの子には見せられないもの」


 そう言ってニオさんが目を向けるのは、半透明の状態で立ち尽くすトトリだ。現在、トトリは10分ほど休憩をしている。ニオさんと俺の関係を勘違いしたトトリは、涙と鼻水でグズグズだった。そのため、お色直しをしに行っていた。


 この後、トトリが帰って来たら深夜1時半ごろまでニオさん達は2人で探索をするらしい。


「ニオさんが負けたら、トトリが失望する……何なら生きる理由を失くすとか思ってる?」

「……トトリも言っていたけど、気持ち悪いくらいの察しの良さね」


 自分の身を抱いて、若干引き気味のニオさんだけど……。


 そうかな。何の情報も無かったらこんな推測できないけど、トトリがニオさんのことを「生きる意味」みたいに考えてることはパーティを組む時に知っていた。推しだとそう言って、月に数万円、数十万円をつぎ込む。バイトもしてない、ただの高校生が。それくらい、トトリにとってニオさんの存在は大きい。


 そして、ニオさんのトトリが鳥取に対して見せる、保護者のような責任感の強さ。そうした事情を考えれば、簡単に推測は出来ると思う。


「ニオさんがどれだけダメダメでも、トトリがニオさんにガッカリすることは無いと思うけど?」

「知ってる。トトリは優しいから。あたしに何も期待しないし、ありのままのあたしを好きでいてくれるでしょうね」

「なら、なんで……?」


 どうして、ニオさんは勝ちにこだわるのか。尋ねた時にニオさんが見せた“したり顔”で、俺は今の問いを投げかけさせられたことに気付く。なんて言うか、会話のペースを握るのが本当にうまい人だ。配信者って、みんながみんな、こういう話術? みたいなものが得意なんだろうか。それともニオさんが特別なだけ?


 俺が頭を悩ませる横で、ニオさんが語る勝利へのこだわりの理由は、


「言ったでしょ? 勝つって、気持ちが良いから!」


 めちゃくちゃ単純な理由だった。


「まぁ、それは半分。もう半分は、あたしを好きでいてくれる人に格好をつけたい。嫌われたくない。そんな、情けない理由だったりするんだけどね♪」

「お待たせ、ミャーちゃん!」


 ニオさんが片目を瞑ったところで、トトリが戻って来た。


 嬉しそうにニオさんに駆け寄ろうとして、しかし、


「あ、あれ……?」


 疑問の声を漏らしたかと思えば、足取りが緩やかになっていく。


「どうしたの、トトリ?」


 尻尾を「?」の形にして尋ねるニオさんの言葉にも応えることなく、トトリは俺とニオさんとで正三角形になりそうな場所で止まった。そして、ニオさんと、俺とを順に見たトトリ。


「……ニオちゃんと斥候さん、何かあった」


 疑問ではなく断定口調で、そんなことをのたまう。


「な、何かって?」

「雰囲気が違うの。距離が近いっていうか、仲良しさん……みたいな」


 距離だけで言えば、俺とニオさんの距離は3mくらい。けど、そういうことを言いたいんじゃないだろう。


「あー、もしかして。俺とニオさんがフレンドになったから、とか?」

「……え」


 俺が思い当たる節を言った瞬間、トトリが固まった。そして、壊れた機械みたいにゆっくりと、ニオさんの方に首を向ける。


「ニオちゃん。……どっちから?」


 幼馴染にそう尋ねるトトリの声は、びっくりするくらい平坦だ。横顔だから、トトリがどんな顔をしているのか正確には分からない。


「そ、斥候くんからよ!」


 焦ったようなニオさんの声を受けて、トトリが俺の方を向く。


「そうなの、斥候くん?」


 小首をかしげる。表情こそ笑顔なんだけど、目は虚ろだ。視界の端では、ニオさんが俺の方を見て、何度も頷いている。頷けってことなんだろう。


(あのニオさんをここまで動揺させるトトリって……)


 まぁ、トトリにとってニオさんが大切なように、ニオさんにとってもトトリは大切だってことなんだろう。相思相愛。良いことだよね。……でも、それはそれ、これはこれ。


「違うよ。フレンド申請はニオさんの方からだった。あとでフィーに聞けば、保証してもらえると思う」


 ありのままの事実を伝える。


「斥候くん! 裏切ったわね!」

「ごめん、ニオさん。でも俺の家ではなるべく嘘はつかないようにって教えられてるんだ」


 もしここで俺からフレンド申請したなんて言えば、トトリに何をされるか分からない。それくらい、今のトトリは不気味だった。


「……ニオちゃん?」

「ひぃっ」


 トトリが、首がもげそうなくらい素早い動作で、ニオさんを見る。ホラーじみたその光景に、俺は出会ってから初めて、ニオさんの悲鳴を聞いた。


「わ、わたし、ニオちゃんにフレンド申請、されたことないのに!」

「違うのよトトリ! 説明させて!」


 なんでも、トトリは公私を分けるためにニオさんとはフレンドに誘っていなかったらしい。それなら、性格的にニオさんの方からトトリにフレンド申請をしそうなものだったんだけど。


「だ、だって……。トトリから、誘って欲しかったのよ。……言わせないで」


 とのこと。積極性があるニオさんも、トトリの過去(トラウマ?)を知るから、踏み出せなかった。トトリを誰よりも大切に想っていたからこそ、トトリの出方を伺っていたということだろう。結果、お互いに“待ち”の姿勢を取ったために、“大親友なのにフレンドじゃない”なんていうちぐはぐな状態になっていたらしかった。


「ミャーちゃん……」

「柑奈……」


 俺の存在など無いとでも言うように、2人だけの空間を堪能している2人。


「……行こうか、フィー」

「(ん)」


 なんとなくこの場に居てはならない気がした俺は一足先に、夜のアンリアル探索を堪能させてもらうことにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ