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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「ニオさんのクランって、もしかして──」

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第5話 『ここからが本気よ!』は負けフラグ

「……ごめん、ニオさ――」

「あたしもフィーちゃんが欲しい!」

「――ん。……うん?」


 気のせいかな。いま、ニオさんがトトリみたいなこと言ったような?


「あれ? ニオさん、悔しくって泣いてるんじゃ?」

「そうよ! 負けて悔しい! けど、それ以上に、そんな有能なサポートAIを持ってる斥候くんが、うらやましくて、ねたましい!」


 子供みたいに地団太を踏むその姿は、怒っているというよりは、心の底から悔しがっているように見える。


「確認だけど、フィーのチートさに怒っては……」

「は? そんなわけないでしょ。サポートAIも、プレイヤーの一部だもの。斥候くんが本当にチートをしてフィーちゃんを手に入れたのならともかく、正規の手順で召喚したんでしょ?」


 俺が頷くと、


「なら、斥候くんには何の非もないわ」


 あっさりと、フィーのズルさを受け入れる。


「それに、フィーちゃんの能力を見誤っていたのはあたし。怒るとしたら、フィーちゃんと……斥候くんのPSを過小評価したあたし自身に対して、でしょうね」


 自嘲するみたいに笑って、ニオさんは大きなため息を吐く。ついでにニオさんの言ったPSは、プレイヤースキルの略だと思う。プレイヤー自身の、ゲームの腕・技術のことだ。


「あたし、斥候くんを侮っていたわ。帰宅部だし、パッとしない。だからフルダイブ操作のアンリアルの腕もそこそこの、ただのゲーマーだって思っていたの」


 真正面から俺を見て、そんなことを口にするニオさん。確かに下に見られてる感覚は合ったけど、まさか正直に、面と向かって言われるとは思っていなかった。


(本当に、明け透けな物言いをする人だなぁ)


 素直で、正直で、真面目なところは、トトリと似ていなくもない。


「けど、実際は違った。斥候くんはあたしの想像の倍以上動けたし、フィーちゃんも想像の100倍有能だった。だから、あなた達を侮ってしまって、ごめんなさい」


 耳と尻尾をしおれさせ、ぺこりと腰を折ったニオさん。自身の非を認め、謝罪する。なかなか簡単なことじゃないと思うし、まして謝っている相手――俺――は、ニオさんをだましたようになってしまった。だと言うのに、


「……あ゛ぁぁぁ~、情けない! これじゃあ、あたし。粋がってるだけの笑い物じゃない……!」


 一切俺のことを非難せず、反省する。


(こんなに“できた人間”、本当に居たんだ……)


 俺にとって、今のところ、この人を嫌う要素が1つも無い。むしろ、好感しか覚えない。たとえ言動の端々がどこか芝居がかっていたとしても、“演じること”は誰もがしていることだ。警戒するのも馬鹿らしいと、そう思えてしまう。


 気づけば引き込まれる人となり。まさに入学式の時に現実の「入鳥さん」に感じたカリスマ性を、俺は再び感じることになった。


「ごめんねついでに、もう1つごめんねをしても良いかしら、斥候くん」


 なんだろうとニオさんに目を向けてみると、


「このままじゃあなたにメリットを提示できない。だからあたしも、リューと一緒に戦いたいの。本来は、そうやって戦ってるから」


 肩に乗せた、深紅のドラゴン系サポートAIリューを使ってもいいかと聞いてくる。


 もちろん俺もフィーと一緒に戦ってるわけだし、Noと言えるはずもない。言うつもりもない。


「良いよ。じゃあここからがニオさんの本気、なんだ?」

「ふふ、そうね。けど『ここからが本気よ』なんて言えば、それこそ負けフラグになるもの。だから、絶対に言ってあげない!」


 なんて話をしていたら、もう準備時間が終わろうとしていた。ニオさんも気づいたらしくて、相棒AIリューを肩に乗せたまま、俺から距離を取る。そして、お互いの距離が、前回対峙した時よりもやや遠い距離……7mくらいになったところで振り返る。


 同時に、準備時間が終了して、強制的にファイブカウントが始まった。


 と、ニオさんがリュー何やら話しかけると、頷いたリューの身体が光り出す。徐々にその光は大きく縦長になっていって、3秒ほどで人型を成した。


 一見すると、二足歩行する翼のついたトカゲ。体高は2mくらいで、全身は硬そうな深紅の鱗に包まれている。その右手には剣が、左手には大きな盾が握られており、印象としてはファンタジー世界ではおなじみ『リザードマン』に近い姿をしていた。


(典型的な重戦士型……。多分、リューが前衛で盾役(タンク)として俺の攻撃を受けて、軽戦士型のニオさんが隙を見て攻撃、かな)


 気になるのは、リューの固有スキルが〈人化じんか〉だけなのかってところ。わざわざドラゴンって言うんだから、〈ブレス〉とか吐いてきても全然不思議じゃない。


(開幕、遠距離攻撃を警戒。リューを攻撃しつつ、でも、意識はニオさんの方に向ける感じで)


 俺が内心で、基本的な戦い方の方針を固めたところで、


『ファイッ!』


 斥候対ニオの2回戦が始まった。まずは遠距離攻撃を警戒――。


『グルァッ!』


 案の定、大きく口を開いたリューの口から、炎の波が放たれる。ただ、幸いなことに、俺は先日、ハザとの戦いで似たような攻撃――〈豪炎ごうえん〉を見ていた。ここは慌てずに……。


「『赤鉄せきてつの大盾』」


 フィーには防御力150、魔法耐性60の大盾に〈変身〉してもらって、完全防御に徹する。押し寄せる熱波を防ぎつつ、表示されたダメージを見ると……24。赤鉄の大盾で60%のダメージカット。さらに、装備している安息の鎧で40%のダメージカットが入る。仮にリューの攻撃を〈ブレス〉と呼称するなら、〈ブレス〉の攻撃力は100。サポートAIと言うだけあって、さすがに攻撃力は控えめだ。


 気になるのは〈ブレス〉の再使用時間(クールタイム)と、ニオさんの動き。多分、盾で防ぐことは向こうも想定してるはず。じゃあどんな仕掛けをしてくるのか。


(大盾は視界がほぼ0になるのが欠点。さっき確認したニオさんの武器は変わらずに黒鉄の双剣だった。だから、狙いは防御力が無い俺の頭部で間違いないはず)


 ならニオさんは、俺の頭を攻撃できる位置に回り込んで来ることが予想される。盾の左右か、あるいは、頭上か。意表をついて、背後に回ってる可能性もある。あのしなやかな身のこなしで、どうやって俺とフィーを攻略するのか。少しだけワクワクしながら大盾を構えていると、尋常じゃない衝撃が俺を襲った。


 例えるなら、盾に爆弾を叩きつけられたような。そんな爆音と衝撃が、俺を襲う。ただし、表示されたダメージは54。恐らくスキルで威力強化された〈火球かきゅう〉だろうけど、攻撃力は150。それほど大きくない。……なんて冷静に、裏を返せば余裕を持って対処してしまったことが、悪かった。


 俺は、爆音に耳をやられ、すぐそばでキュゥッと空気が収束する音――〈爆散ばくさん〉の前兆を聞き逃していた。そして、収束する光に気付いた時には、もう遅い。


「くっ!?」


 強烈な爆風をもろに受け、地面を転がる。視界に浮かび上がった数字は、120。今回は大盾で防げなかったから、安息の鎧だけで防いだ形。当然、ダメージもそれなりのものになっていた。


 そうして、武器を手放したまま地面を転がる俺は、自身を追尾する雷の球体の存在に気付く。雷系統魔法スキル〈雷球らいきゅう〉だ。歩くような速さでプレイヤーを自動追尾する雷の球体を発生させる、ちょっと面倒な魔法。当たると、3秒ほど行動不能になる「硬直」の状態異常になる。


 1回戦目。ニオさんが見せた0.5秒の硬直ですら、勝敗を決定づけた。3秒棒立ちすればどうなるかなんて、考えるまでもない。


(〈雷球〉の対処法は、一定時間逃げ切るか、別の物体に当てる……っ)


 すぐに起き上がってフィーをA……黒鉄の双剣に変えて、雷球に対処しようとしていたら、


「〈雷撃らいげき〉♪」


 楽しそうなニオさんの声と共に、ジグザグと軌道を描いた雷が俺の方へ飛んできた。〈雷撃〉を食らえば「硬直」になる。そうして動けなくなれば〈雷球〉も食らうから、さらに「硬直」になる。これがいわゆる、CCチェイン。行動不能になる技を連続で使用することを指すゲーム用語だ。


 そして、〈雷撃〉は前兆を見逃せば回避不能なくらいに、攻撃速度が速い。今から回避しても身体をかすめてしまう。


(もうこうなったら、イチかバチか!)


 俺は2本ある黒鉄の双剣の片方を〈雷撃〉へ。もう片方を〈雷球〉へと投げて魔法の無力化を図る。ゆっくりと迫る〈雷球〉はともかく、〈雷撃〉を狙った剣の投てきはプレイヤースキルなんて関係ない、完全に、運頼みの対処法だ。


 ただし、悪あがきって言うのは、ゲームでも結構大切な要素になって来る。


 〈雷球〉の方は狙い通り。〈雷撃〉の方はまぐれで。それぞれ俺が投げた剣に当たって、どうにか効力を失ってくれたのだった。

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