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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第二幕・前編……「ニオさんのクランって、もしかして──」

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第4話 その意見には激しく同意

 シクスポート南西にある森。そのやや開けた場所で、俺とニオさんの対人戦が始まった。


 俺の装備はクリーム色を基調として、青の意匠がこらされた安息の鎧。防御力110、魔法耐性40の防具だ。


 対する入鳥さんは、黒色に塗装された白金しろがねの鎧。防御力は100で魔法耐性は30。一見すると、胸や腰、膝しか守られていないような、何とも心もとない防具だ。けど、そこはゲーム。鎧で守られていないお腹を攻撃したとしても、しっかりと防御力は計算される。


 ただし、唯一、鎧装備だけだと防御力が計算されない場所がある。それが、頭部。頭だけは、かぶとを始めとする頭の専用装備を装着する必要がある。ただ、現状、アンリアルで公開されている頭防具の全てが、視界を狭めてしまう。


 頭部クリティカルのリスクと、視界の確保。人によってどっちを取るかは変わって来るけど、俺も、そして双剣を構える入鳥さんも、フットワークを重要視する軽戦士スタイルだ。だから、お互いに頭部の防具は無い。


(つまり、俺もニオさんも、狙う場所は同じ……頭部!)


 俺は、頭部を狙ったニオさんの双剣の1撃目、右手による振り下ろしを左手に持った双剣で迎え撃つことにする。もちろん、この双剣もフィーが〈変身〉したものだ。


 ニオさんが今使っている武器は、刃渡り40㎝ほどの真っ黒な双剣――黒鉄くろがねの双剣だ。攻撃力100では、鎧に守られた俺の身体のどこを攻撃しても1ダメージしか入らない。武器関連のスキルが使われたことを示す光のエフェクトもないことから、ニオさんは俺の頭部を狙うしかない。その点、攻撃の軌道は読みやすい。


「ん、にゃっ!」

「ふぅっ!」


 ニオさんと俺、それぞれ吐息が漏れた後、金属同士がぶつかり合う甲高い音が森に響く。


 ここから、お互いに取って初めての“読み”の場面だ。


 もし双剣で2撃目を放てば、0.5秒の後隙が生じてしまう。そして、2撃目を避けられるようなことがあれば、その後隙の間に攻撃されてしまうことになる。かと言って、相手の動きを見てから刹那の間に反応……なんていうフィクションめいた動きは出来ない。ゲームの中だと言っても、キャラを操作する俺たちは、人間だ。


 じゃあそんな読み合いに応じず、退いて距離を取れば良い、ってほど単純な話でもない。後退するには足に力を溜めないといけないし、それはそれで大きな隙になる。もし相手が攻撃してくるようなことがあれば反応が遅れることも必至だ。


 一瞬、至近距離にある、ニオさんの金色の目と視線を交わす。


 俺が選んだ選択肢は……攻撃だ。


 それも、頭部にじゃない。鎧でがっちりと固められたニオさんの胴に向けて、順手に持った双剣のもう一方を突き出す。だって、俺がフィーに変身してもらっている武器は『斬鉄の双剣』だから。プレイヤーを攻撃しても、一切、ダメージが発生しない。


 なのに斬鉄の双剣を使っているのは、俺の狙いがニオさんの武器・防具破壊だからだ。1回勝負ならまだしも、今回は3回戦(BO3)。中期的な戦闘の目標を見据える必要があった。


 だから俺はこの初戦で、ニオさん動きの癖や考え方を把握することに努める。まずは可能な限り様子を見つつ、文字通りニオさんの武器を破壊していくことにしていた。


 対するニオさんはと言えば、


「おっ?」


 小さく声を漏らして、俺が突き出した双剣を、器用にもう一方の双剣でさばいて見せた。


「なっ!?」


 思わず、そんな声が漏れてしまう。だって、俺が選ばない……選べないだろうと思っていた選択肢「見てから対処する」を実践して見せられたから。


(反射神経、めちゃくちゃだ!)


 キャラを操作するプレイヤー「入鳥さん」の、人としてのスペックの高さが伺える。


 とはいえ、ニオさんは双剣の2撃目を使った。ここから0.5秒間、俺とニオさんは硬直状態になる。……普通なら。


「フィー、A」

「(ん!)」


 俺の手の中にあった斬鉄の双剣が、今まさにニオさんが使っている黒鉄の双剣と同じ、だけど色が真っ白な剣に姿を変える。すると、攻撃の後隙で動かないはずの「斥候」が、動くようになった。


 手首を返してニオさんの双剣をいなすと、


「うそっ!?」


 俺と剣で結びあうことで均衡を保っていたニオさんの身体が前方、俺の方へとつんのめる。例えばこれが現実リアルなら、ニオさんの反射神経を持って対処されたのかもしれない。けど、良くも悪くもここはゲームの世界。あらゆる現象は、数値によって管理されている。


 時間にして、0.5秒。だけど、それだけで十分。


 様子を見るって言う短期的な目的は達成されないけど、そもそも、この戦いの最終的な目標は入鳥さんに勝つことだ。


「ふっ!」


 隙だらけのニオさんの頭に向けて、ほぼ同時に2回。クロス状に黒鉄の双剣を振り下ろす。「Critical!」の表記のもと、表示されたダメージは150が2回。だけど、ニオさんは死なない。俺と同じで、スキルポイントをある程度使って、HPを向上させるスキルを取っているみたいだ。


「フィー、B」


 フィーを滝鉄そうてつの双剣(攻撃力95)に〈変身〉させて、さらにクロス状に2回――。


「くっ」


 攻撃しようとしたところで、ニオさんの後隙が解除される。同時に、人間とは思えない柔らかさで背を逸らして俺の攻撃を避けた後、背面状態で手足を突く「ブリッジ」の姿勢になって、バク転。瞬時に俺から距離を取ってみせた。


 体操でも習ってたのかな? とにかく、さっきから人としてのスペックの高さに驚かされてばかりだけど、もちろん俺も、攻撃の手は緩めない。


「フィー、バトルスピア」


 俺の声で、円錐と棒を組み合わせたような、奇妙な槍が手元に現れる。ソマリとの戦いでも使用した、投てき可能な槍だ。それを、バク転直後のニオさんに向けて投げつける。さらに、


「〈火球かきゅう〉」


 数少ない魔法系スキルでもって、追い打ちをかける。その結果……。


『You Win!』


 どっちがとどめになったのか分からないけど、とりあえず1勝をもぎ取ったのだった。


 続いて現れた「準備完了」のボタン。これをお互いに押せば、第2回戦が始まる。用意された準備時間は90秒。この時間内であれば、装備の換装も休憩も、自由だ。


「んっ!」


 ポンッ、と姿を見せたフィーが、勝ち誇った顔で俺に向けて万歳をしている。抱っこ……なわけがないから、


「お疲れ、フィー!」


 ハイタッチをしてみせると、はねをパタパタさせて「んっ」と喜んでくれる。しかも、勝ったことが相当うれしかったんだろう。ハイタッチし終えると、俺の腰に抱き着いてくるのだった。


 そんな、あざと可愛くプレイヤーの俺を持ち上げるフィーの頭を撫でていると、


「チートじゃない!」


 ややお怒り気味のニオさんの声が飛んできた。視線を上げれば、案の定、眉を逆立てるニオさんの姿がある。


「モーションキャンセル、即時武器換装、しかも理論上、武器の耐久力無し……チートよ、チート!」


 漫画なら「ずびしっ」とでも効果音が振られそうな勢いで俺……では無くてフィーを指さすニオさん。尻尾もピンッと立っていて、気のせいか、髪の毛や耳の毛も逆立っているように見える。間違いなく、怒っておいでだった。


「うん、俺もそう思う。……でもニオさん、フィーのスキルのこと知ってたんでしょ?」

「ええ。倉庫やインベントリから指定した武器を出すんだと思ってたわ。……けど!」


 言いながら、俺たちの方に歩いて来る。人見知りしたのか、それとも雰囲気に気圧されたのか。フィーが逃げるようにデータ化したその直後。ニオさんが息のかかりそうな距離まで詰め寄って来て、俺を上目遣いに睨んでくる。


「まさかあの子自身が武器に変身して……いいえそれ自体は良いの! 問題は武器を変えることで付随する効果! 後隙を消すなんて思わないじゃない!」


 よく見ればニオさん、ちょっと泣いてる。もし俺に負けたことで泣いているのだとしたら、ニオさんは相当な負けず嫌いだ。


「うん。俺も、そう思う。フィーって、破格の性能だよね?」

「もちろん! トトリのにゃむさんも相当だけど、フィーちゃんは別格! まさに戦うためだけのサポートAIじゃないっ」


 ズルいわ。そう最後に言って、悔しそうに唇をかみしめるニオさん。


 この時ようやく、俺はニオさんが泣いている本当の理由に気付く。


(負けたからじゃなくて、俺にズルされたから泣いてたのか……)


 それはそうだ。対等だと思った勝負に挑んでみれば、相手はチートを使っていたんだ。ゲーマーとしての矜持が傷つけられたから、泣いてるんだろう。そう推測して、


「……ごめん、ニオさ――」

「あたしもフィーちゃんが欲しい!」


 謝ろうとした俺の言葉と、ニオさんの心の叫びが重なった。

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