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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第一幕……「信者になれって言われて、ついていくような人は居ない」

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第16話 ギルドとクランと決闘と

 イベントの詳細が発表されて、再び活気づき始めたアンリアル。中でも顕著になったのは、クランを結成する動きだ。


 というのも、今回のイベントにはクランと個人とで、それぞれ報酬が用意されているからだ。採取や生産、戦闘など、いくつかの部門が用意され、イベント期間内でのスコアを競うことになる。しかも、発表されたその報酬の額が、めっちゃ魅力的だった。


 例えば『建築部門/建築額』。ロクノシマにてもっとも価値がある建物を建てたクランに対して支払われる報酬は、100万(ゴールド)。そう、100万円だ。クラン内で山分けされるとはいえ、それなりのお小遣いになることだろう。


 ただし、家を建てるためには〈建築〉スキルが必要になる。けど、建材を作るためには〈鍛冶かじ〉スキルが必要になって、建材を作るには、まず素材が必要だ。素材を取って来るにはモンスターと戦うのが主になるから、戦闘系スキルも求められて……。


 もちろん、そんなにたくさんのスキルを1人のプレイヤーが持つことなんてできない。かと言って、アイテムを市場で買ったりすればお金がかかるし、時間もかかる。だったら、内々でアイテムのやり取りができるクランを組んだ方が、何かと便利。


 ということで……。




 現在、最も多くの人が集まっているだろうシクスポート。ひとたび大通りを歩けば、


「生産系スキルを持つプレイヤーさん、歓迎で~す! 一緒にイベント参加しませんか~?」

「レベル35以上のプレイヤーさん、俺たちと一緒にクラン組みませんか~? モンスター部門で優勝、狙ってま~す!」

「みんな笑顔で楽しいクランだよ! まったりイベントしたい人、歓迎で~す!」


 と、こんな感じで勧誘の嵐だ。


(この、誰彼構わず声をかける感じ。六花高校の部活紹介を思い出すなぁ……)


 なんて考え事をしていたら、またもクランの勧誘を受ける。丁重にお断りさせてもらうんだけど、もうこれで何度目か分からない。ちょっと歩けば声を掛けられる現状はアンリアルの盛り上がりが実感できてうれしい反面、ちょっとだけ、面倒でもあった。


(クラン、か……)


 思い出すのは、先日の入鳥さんによるクランへの勧誘だ。


 アンリアルには、クランとギルドの両方がある。単語としても似たような意味だったと思うし、不特定多数の人が集まるという点も同じ。けど、もちろん違いもある。最も分かりやすい違いと言えば、目標があるか無いか。それから、信頼度かな。


 クランは基本的に1つ以上の目的を掲げて、人々が集まる。例えばボス攻略だったり、それこそ、イベントの攻略だったり。多くの場合は一時的に結成されるクランが多くて、目的を果たせば解散になることが多いって聞く。


(そう言えば、攻略組の人たちも、クランを組んでるって言われているんだっけ?)


 こんな言い方をするしかないのは、攻略組がどんな人たちなのか、実はよく分かっていないからだ。


 何人なのか。男性、女性。どんな種族で、どんな見た目をしているのか。何一つ、分かっていない。複数人だろうという推測も、提供する情報の質と量がソロプレイの域を超えているからだと言うほかに根拠がない。


 それでも、事実として。攻略サイトに無償でアンリアルの情報を提供し、人々のプレイングを支えている。正体不明のまま、人々に情報というお宝をばらまいて回る。その姿は、さながら、義賊のようだった。


 それら、何かしらの目的(主に戦闘や攻略面)があるクランとは違って、互助組織的役割を持つ集まりが『ギルド』だ。


 特徴としては、その多くがアンリアル運営によって運営されていること。ギルドに入ることで、メンバー同士はアイテムをデータでやり取りできるようになったり、ギルド掲示板でメッセージのやり取りをしたりすることができる。


 もっとも有名なギルドと言えば、やっぱり、ファンタジーの定番『冒険者ギルド』かな?


(噂をすれば……)


 町の入り口から、終着点である港を望むことができる、ひたすらに真っ直ぐな目抜き通り。そこには沢山の建物があるんだけど、ひときわ目を引く大きな建物がある。それこそが、冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドは、プレイヤー同士の需要と供給をマッチングさせる役割を持っている。例えば「Aの素材が欲しい」という生産系のプレイヤーの依頼を、モンスター討伐が得意なプレイヤーに紹介・斡旋あっせんする。あるいは、パーティを組みたいプレイヤー同士をマッチングする、などなど。


 それら仲介業を始め、様々な面でプレイヤー達をサポートしてくれる。アンリアルプレイヤーであれば、誰もが切っても切れない縁を持つことになるだろう。


 ただ、こうやってクランやギルドについて改めて考えてみると漠然としていて、あんまり違いは無いように感じる。もうちょっと身近に、具体例を持って考えたいところ。


(例えば、学校で考えてみようか……)


 まず『アンリアル』という学校がある。その中で『クラン』は個人的な集まり……部活やサークルに近いんだろうか。部長なんかの個人を中心とした集団って考えると、しっくりくる。対する『ギルド』は……クラス、かな? 先生(運営)って言う第三者を中心として、とりあえず形成された集団と考えられると思う。ついでに『パーティ』が活動班。『フレンド』が友達同士の輪。


 まぁこれなら、信頼度だったり、繋がりの強さだったりの小さな違いも分かりやすい気がした。


 と、そうやってシクスポートを森方面――南を目指して歩きながら、クランとギルドの違いについて自分の中で整理していた時だった。


「おにーさん! あたしのクランに入らない?」


 背後から、声を掛けられる。またしても、クランの勧誘のようだ。声色からして、女性プレイヤーだろうか。幸いと言うか、なんと言うか。現実(リアル)と違って、アンリアルではパーティメンバーでもない限り相手に触れることができない。だから、強引な勧誘は少ないし、運営も目を光らせている。


(だから、無視することもできるんだけど……)


 なんとなく気が引けるから、俺は毎回、丁重にお断りさせてもらっている。けど、こうも何度も断るとなると、さすがに疲れる。内心、ため息を吐きながら、


「すみません。俺、ソロでプレイしたいんで」


 決まり文句を言って振り返ると、そこには見覚えのあるフード付きローブ姿の女性プレイヤーが立っていた。


 俺よりやや低い身長。フードを押し上げる三角形の耳。整った顔形の中でもひときわ目を引く、金色の瞳。


「あなたは……」

「ニシシッ! 驚きと呆れが入り混じったその顔、良いわね!」


 驚いた俺を見て、フードの奥にある金色の瞳を細めたそのプレイヤーは――。


「ニオさん」


 入鳥黒猫さんのアバター『ニオ』だった。


「こんにちは、斥候くん?」


 フードという闇の中で、妖しく目を細めるニオさん。なんで俺の居所を知っているのか。聞きたいところではあるけど、ここはスルー。この人と「会話」をすると、絶対に相手のペースに飲まれてしまう。だから、ここは伝えるべきことを手短に伝えて、おさらばするしかない。


「ニオさん。この前も言ったけど、クランには入れない。それじゃ」

「待って、待って! 斥候くん!」


 きびすを返した俺の前に、ニオさんが立ちはだかる。


「あたし、考えたの! 斥候くんがこの前言ってた“利”になるもの」


 この前、というと、下足室で話した時か。確かにあの時、鳥取とパーティを組んだ理由についてメリットがあったからだと、俺は入鳥さんに言った。逆に、入鳥さんと組むにあたってのメリットは無い。だから組まないとも言った。


 ただ、今回、ニオさんはそのメリットを用意したらしい。


 立ち止まったら、ニオさんと話すことになる。そうなれば、経験上、負けは濃厚だ。けど、真っ先に俺が思いつくメリットと言えばお金。お金の話であれば、小鳥遊家の家計のためにも立ち止まらざるを得ない。


「……メリット?」


 断腸の思いで立ち止まった俺に、ニオさんがほっと胸をなでおろす。そして、俺を金色の瞳で見据えて、話を始める。


「そう。ここ2週間くらい、ずっと斥候さんにあたしが与えられるメリットが無いか、考えてたの。柑奈から、あなたの話も聞きながら、ね。……トトリと随分よろしくやってくれたようじゃない?」


 勧誘をしてる立場のはずなのに、なんでこの人は喧嘩腰なんだろう? まぁ、良いか。


「うん。交渉するうえで、情報収集は大切だもんね。……それで?」


 俺へのメリットとして、何を提示してくるのか。少しワクワクしながら尋ねた俺に対して、なぜか「ズビシッ」と効果音が付きそうな勢いで指を突きつけて来たニオさんは、


「斥候くん――」


 不敵で、獰猛どうもうな笑みを浮かべて、こう言ったのだった。


「――あたしと勝負しましょう!」

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