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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第一幕……「信者になれって言われて、ついていくような人は居ない」

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第10話 『ニオの信者になってよ!』

「俺が、入鳥さんのクランに?」

「ええ、そう。柑奈かんなの話を聞いて、動画を見て。あたし、あなたに興味湧いちゃった」


 少しだけ吊り上がった目をスッと細めて、俺のことを見るポニテ女子の入鳥にお黒猫くろねさん。


 今この人が言った『クラン』は、様々な目的(大抵は1つ)を掲げるリーダーを中心として集まる、不特定多数のプレイヤーの集団だ。同一クラン内であれば、共有ボックスを使ったアイテムの授受や、クラン内で共有されるメッセージボードでのやり取りができる。


 繋がりの強さ(≒信頼性)はフレンド機能やパーティ機能に劣るけど、その他大勢の助力を得たり、大規模なレイドボスに挑んだりするときに便利な機能だ。


 言わずもがな、今までソロプレイをしてきた俺には縁のない言葉だったんだけど――。


「っていうか、ちょっと待って入鳥さん。動画って?」


 さっき入鳥さんは、動画で俺の動きを見たような口ぶりだった。しかし、アンリアルの録画機能は、フレンドやパーティメンバー以外のプレイヤーについては表示されない「ステルス機能」が常備されているはず。


 実際、鳥取によって公開された動画を俺はウタ姉と見ている。その時は、俺の姿は映ってなかったけど――。


「そっか、俺、鳥取とパーティ組んじゃったんだった……」

「正解。だから柑奈が公開前に見せてくれたソマリ・ハザ攻略動画だと、斥候くんのステルス機能がオフになったってわけ」


 多分、鳥取は動画配信者の先輩として、動画公開前に入鳥さんに相談したんだろう。


「意気揚々とノーカット、ノーステルスモザイク動画を公開しようとしてた柑奈を止めたこと。感謝してくれても良いけど?」

「ありがとうございます、入鳥様」


 俺が頭を下げると、入鳥さんも「ええ、苦しゅうないわ?」と満足そうに頷いた。


「で、こうやって裏情報を明かすことで、その恩に付け込もうってあたしは考えたわけ!」

「……なるほど。それで、クランの話」


 キレイな花には、なんてよく言うように、入鳥さんはしたたかだ。ただ、素直に恩を利用していることを明かすところなんかは、個人的には好感を持てる。それすらも、入鳥さんにとっては計算なのかもしれないけど。


「だから、あたしから改めてのお誘い。……ねぇ、斥候くん――」


 一瞬、声に切実さをにじませた入鳥さんは、それでも。すぐに表情を取りつくろうと、


「『ニオの信者になってよ!』」


 まるでキャラクターのように。俺に手を差し伸べる。


 再び下足室を駆け抜けた春の強い風が、俺と入鳥さんの間を通り過ぎた。印象的な入鳥さんのポニーテールが猫の尻尾のように揺れて、俺を誘う。


 どうして、顔見知りでしかないはずの『斥候』に興味を持ったのか。そこは少し気になるけど、聞く必要はない。だって――。


「ごめんなさい」


 俺はハナから、入鳥さんの誘いに乗るつもりが無いから。


 そうして俺が突きつけた「ノー」の回答に、きょとんとした顔で俺を見た入鳥さんだったけど、「そう」と短く言って、案外あっさりと身を引いてくれた。


「断る理由を聞いても良い?」

「うんと……。理由は2つ。まずは鳥取から聞いてるかもだけど、俺は基本、アンリアルだとソロプレイしてるんだ」

「うん、知ってるわ。だから柑奈と同じように、小鳥遊くんには動画の件……もっと言うとフィーちゃんの件で恩を売ったんだけど」


 フィーという俺の弱みを交渉材料に“お願い”をした。そう明け透けに告白する入鳥さん。けど、それなら俺の切り返し方も同じになる。


「俺、入鳥さんが『ニオ』名義でVtuberしてること、知ってるんだけど……」

「それも知ってる。さっきも『ニオ』として誘ったのはそれが理由なんだけど、それがどうしたの……って、なるほどね」


 自分で言いながら、お互いに弱みを知り合っている状態なのだと気づいた様子の入鳥さん。


「そうそう。そっちがその気なら、こっちもバラすかもって話。そうやって痛み分けした時、ダメージが大きいのは多分、入鳥さんの方だと思う。現実(こっち)にも影響があるから」

「言う通りね……。むしろ、あたし達は小鳥遊くんに、黙っててくれてること。感謝しないといけない立場だわ。ありがとう」


 そう言って、拍子抜けするくらい素直に、入鳥さんは俺に頭を下げた。けど、すぐに顔を上げると、


「フィーちゃんは弱みにならない……。なら、どうして小鳥遊くんは柑奈に協力したの?」


 小首を傾げる。けど、すぐに何か思い当たる節があったらしい。


「……はっ!? まさか、アタシの可愛い柑奈を――」

「鳥取に協力したのは、家族のためだよ。鳥取を助けたら、家族が笑顔になってくれる。ついでに俺にもちょっとだけ利があった。だから協力した」


 俺への利益は、単純にお金。それから、ゲーマーとして、トトリというキャラクターを使ってボス攻略をするのが面白そうだったから。けど、やっぱり何よりも、ウタ姉が「トトリ」の動画を気に入っていたことが大きい。


 トトリの最新の動画――俺とのハザ・ソマリ攻略戦――が更新されるとすぐ、嬉しそうに報告してきたくらいだ。鳥取とのボス攻略における最高の報酬は、きっと、ウタ姉のあの笑顔だと思う。


「……あたしに協力すると、利は無い。そんな感じ?」

「まぁ、現状は」


 正確には、ソロプレイを上回るメリットが無いってだけ。遊ぶだけならまだしも、俺には生活費がかかってるから。


「……これでもあたし、登録者数1万人は居るの。動画に出れば、小鳥遊くんもバズるかも?」


 ちょっとだけ口を尖らせた入鳥さんが、メリットを提示してくる。


 確かに。流行っている本の広告なんかだと、人気美少女配信者の動画にうっかり映り込んだ主人公がバズって無双する、みたいなあらすじも見たことがある。現実で言えば、広告収入だったり、俺の顧客が増えてくれる可能性はあるのかもしれない。


 けど前提として、俺は動画に出るつもりが無い。俺が動画に出るとなると、どこかで恐らくフィーの〈変身〉を使うことになる。それはつまり、フィーがサポートAIだと露見することを意味する。


 現状、レア装飾品を装備しているプレイヤーとして通しているフィーが、サポートAIであると周知されるのは、まだ、避けたい。前にも思ったことだけど、俺にとっては妹みたいなフィーの情報が知らないところで売り買いされることに、どうしても嫌悪感があった。


 それに……。


「動画にはあんまり詳しくないけど、入鳥さんの……女性Vtuberの動画見てる人って半数以上が男でしょ? そんな動画に男が出たら、それこそ別の意味で炎上し(バズら)ない?」


 厄介なファンが俺の家を特定するようなことになれば、ウタ姉に迷惑が掛かる。動画に出ることについては、俺にとってデメリットの方がようにしか感じられなかった。


 俺の反論に、ぐぬぬっと黙り込んでしまう入鳥さん。何か言いたげに俺を睨んでいたけど、やがて大きく息を吐く。


「はぁ~……。分かった。残念だけど、諦めることにするわ」


 足元にあった自分の通学カバンを拾い上げた入鳥さんが、足早に俺の横を通り過ぎ、下足室を出ていく――直前で。


「あっ」


 何かを思い出したように声を漏らした。そして、ポニーテールを揺らして、俺の方を振り返る。


「そうそう、小鳥遊くん。私のクランに入らない理由は2つあるって言ってたじゃない? もう1つの方を聞いても良い?」


 言われてみれば、確かに。2つ目の理由を言って無かったっけ。話があっちこっちに脱線したせいで、完全に忘れてた。


 俺が入鳥さんのクランに入らないもう1つの理由。それは、シンプルに、入鳥さんがヤバそうだったから。勧誘の時に信者になって、なんていう人は、絶対にロクな人じゃない。最初はそう思って警戒してたけど、話してみたら普通に話が分かるタイプの人に思える。


 むしろあれこれと明け透けに話してくれるところには好感すら覚えてしまう。どこまでが演技・計算で、どこまでが本音なのかは分からない。けど、もう俺の中に、入鳥さんへの警戒心は無くなってしまっていた。


(これが代表挨拶の時にも感じた、カリスマ性ってやつなのかな……?)


「もう1つの理由については、解決したから大丈夫」

「ふふっ、何それ。……けど、それなら良かったわ!」


 風に髪を揺らしながら無邪気に笑うその姿は、やはり絵になる。


「それじゃあ、またね、小鳥遊くん。『ばいにゃろ~』!」


 後頭部で揺れる尻尾が、遠ざかって行く。


 出会いから別れまで。そのほとんどの時間、自由気ままな入鳥さんのペースに翻弄されていた気がした。

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