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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第一幕……「信者になれって言われて、ついていくような人は居ない」

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第8話 与えるダメージが1桁増えると、気持ちが良い!

 シクスポートの海岸線近くの森。そこはシクスポートの公開と同時に実装された、名もなき新エリアだ。休日にはプレイヤーでごった返すその場所も、今日は平日と言うこともあって比較的空いている。


 そんな森で俺が探しているのは、中ボス『マンイーター』。中央につぼみのような巨大な口を持ち、そこから無数のツタが生えている。そのツタを触手のように使って攻撃を仕掛けてくる、食虫植物をモデルにしたモンスターだった。


 中央のつぼみが大きくなるほど、推奨レベルが高くなる。俺が知る限り最小が1.5mくらいで、最大が3mくらい。この辺りだと、35レベルくらいが最高推奨レベルだった。


「ツタで動物を捕まえて、中央の牙のついた蕾で食べるんだっけ?」


 これから戦う中ボスの情報を整理しながら、木漏れ日が照らす森を行く。そんな俺の声に反応したフィーが、


「ん」


 公式が発表している情報と、その他攻略情報、俺と集めた情報を整理したメッセージボードを出してくれる。


 植物と言うことで、グリズリーみたいに動き回るようなことは()()()()無いマンイーター。森にいくつかある湧き(リポップ)地点でとどまっていることが多い。しかもマンイーターには、日の光を確保するために周囲の木を切り倒すという設定がある。そのおかげで、ギャップ――周囲の木が無くて森にぽっかりと穴が開いたような場所――があればそこにマンイーターが居ることが多かった。


 ドロップするアイテムは衣服・建材・道具と色んな用途がある。倒しやすさはともかく、発見しやすさとドロップアイテムの需要から、アンリアルプレイヤーにはかなり人気のモンスターだ。だから競争率も高くて……。


 野生の雑魚モンスターを片付けながらひたすらに探し回ること1時間。


「ようやく見つけた~……」

「ん~……」


 俺もフィーも、喜びと疲れを同時に吐き出す。ボスを見つけるまでのこの“何もない時間”は本当に退屈だ。


「まぁでも。だからこそ、中ボス戦が楽しくなるんだけど……! 行こう、フィー!」

「んっ!」

『Shurrr!』


 俺が森のギャップに足を踏み入れたことで、マンイーターが地面からツタを出現させる。その合計は……6本! ツタ1本ごとに攻撃対象となるプレイヤーが決まってて、余ったツタはランダムなプレイヤーを狙う。もしくは、不規則に動いてプレイヤーの行動を阻害してくる。


 ただ、俺はソロプレイヤー。全てのツタが俺を狙い、行動の邪魔をしてくる。アンリアルが複数人での攻略を推奨している以上、仕方のないこととは言え、ソロ攻略にはあまり向いていないモンスターだと言えた。


「フィー! Aで!」

「ん!」


 俺の声で、フィーが刃渡り40㎝ほどの2本の短剣――『黒鉄くろがね双剣そうけん』に姿を変える。


 双剣カテゴリの大きな特徴としては、扱いやすさと、手数の多さがある。通常、武器で攻撃したら必ず後隙あとすきが発生する。けど双剣は1回目の攻撃をした後の隙が無い。だから、すぐに2回目の攻撃を行なったり、1回目の攻撃の後、あえて攻撃せずに敵から距離を取ったりも出来る。


 攻撃力こそ低いものの、プレイヤーとして動きやすいため、初心者にもお勧めしやすい。そんな武器だった。


 俺は伸びて来た4本のツタのうちの2本を、身をひねって回避。その後すぐに転身し、順手で持った真っ白な双剣でツタを斬り落とす。こうすることで10秒間の間、斬り落としたツタを機能不全にすることができる。また、ツタを攻撃することで本体にも一定のダメージが入る仕組みだ。


 今回で言えば、黒鉄の双剣の攻撃力が100。マンイーターには“斬る”武器が有効武器(ダメージが1.5倍)だから、攻撃力は150になる。ツタ自体には防御力も「Critical!」も無くて、150ダメージがそのままツタにダメージとして適用されて、その1割――15のダメージが本体に入る計算だ。


「フィー、B!」

「(ん!)」


 フィーを『滝鉄そうてつの双剣』に〈変身〉させて、双剣による攻撃後の隙(0.5秒)をキャンセル。黒鉄の双剣とは装飾が異なる真っ白な双剣で、残す2本のツタを斬り落とす。


 最後に、ランダムな動きを見せる2本のツタの動きを落ち着いて見切り、回避した後。


「ふぅっ!」


 本体である蕾に肉薄して、再び黒鉄の双剣で攻撃。厄介なツタをくぐり抜けてようやく手が届く本体は、どこを攻撃しても「Critical!」が発生する。だから――。


「A、B、A、B!」

「(ん、ん、ん……んっ!)」


 ツタを避け、ツタが再生するまでのおよそ4秒の間に、計8回の斬撃を叩きこんだ。


 マンイーター本体の防御力は20と低い。1回の攻撃で与えられるダメージは、クリティカルの倍率も計算して、Aの黒鉄の双剣で180、Bの滝鉄そうてつの双剣で169。合計ダメージはそれぞれを4倍して足した1396となる。


 ついでにさっきから言っている「A」や「B」は、事前にフィーにインプットしておいた武器の名前だ。合言葉と言っても良いかも。これまでの戦いだと「ナイフ」と言ったら、最も軽くて取り回しの良い『盗賊のナイフ』(攻撃力60)になってもらう、みたいな使い方があったかな。


 マンイーターとの戦いも、これまで数えきれない回数をこなしてきた。およそ情報は収集できているため、いつもみたいに色んな武器を使う必要が無い。だからこそ「A」と言ったらこの武器、「B」と言ったらこの武器、みたいに決めておくことが出来ていた。


 けど、いくつも合言葉を決めているとすぐに武器の名前を思い出せなくなったりする。だから、合言葉を使った戦闘は、必要最低限にしておきたかった。


『Shrrr!!!』


 痛みに悶えるように鳴いたマンイーターが、口にもなっている蕾をやや開き、よだれをまき散らす。実はあのよだれを浴びると、毒状態になるんだよね。欲をかいて攻撃を続け、回避が遅れた場合、継続的にダメージを負うことになるから注意が必要だ。


『Shraaa!』


 5秒間よだれをまき終えたマンイーターが再びツタを地面から生やせば、戦闘再開となる。


(それにしても、1396ダメージ……良いっ!)


 4桁の大台を超える大きなダメージに、思わず笑みがこぼれてしまう。この前までラスボス級のソマリやハザと戦ってたこともあって、ここまで大きいダメージが出なかった。


(いや、どこかの豪運さんは実質1,800のダメージを出してたっけ……)


 けどあれはごく限られた条件だもんね、うん。というか、およそ全てを運で解決するあの人(トトリ)のことを考えていると色々なことがあほらしく思えてしまう。これ以上考えるのはやめとこう。


 とにかく、通常は出せない4桁のダメージにはワクワクしてしまう。ゲームで与えるダメージの桁が1つ増えると、成長してるって実感できるから気持ち良いんだよね。


 でも、忘れてはいけない。こうやって大きいダメージが出るのは、後隙あとすきをキャンセル出来ているから。つまりは全て、フィーのおかげだ。……サポートAIとしてのポテンシャルは、にゃむさんにも負けてないはず!


「よっと……」


 俺が蕾から距離を取ると同時。再生したツタが再び、俺を襲う。


 正面からまっすぐ来るツタは身をひねって回避。脇を通り抜けていったツタを双剣による1回目の攻撃で斬り落とす。続いて、足払いをしてきたツタには、空中に跳んで回避。そのまま棒高跳びの要領で横方向に一回転。地面スレスレを通っていたツタを斬り落とす。これで2回目の攻撃。


 このまま着地すると0.5秒の硬直があって、他のツタによる薙ぎ払い攻撃に対処できない。というわけで、


「フィー、『白磁の大盾』」


 着地する前にフィーには〈変身〉してもらう。これで硬直無しで、防御態勢を取ることが出来るようになった。フィーを存分に使いこなすには、こうした冷静な状況判断と、ちょっとした身体能力が求められる。


 着地後、脇腹の高さを薙ぎ払っているツタを身の丈ほどもある巨大な盾で防御、跳ね返って力なく伸び切ったツタを、


「A!」

「(んっ)」


 黒鉄くろがねの双剣で斬り落とす。残すは3本、なんだけど、ランダムな動きと言うことであらぬ方向を攻撃している。この隙を逃す手は無い。


「もういっちょ連撃いこうか、フィー!」

「(ん!!!)」


 二振りの真っ白な短剣を手に、俺はマンイーターへと突貫する。


 この時、俺は戦闘に夢中で気づいていなかったんだけど。視界の端に、運営からのメッセージを知らせる通知が来ていた。


 マンイーターとの戦闘後、改めて確認したそのメッセージの内容は――、


「『アンリアル第1回ベントの告知』……!?」


 ――サービス開始以来、初めての大型ストーリーイベントの告知だった。

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