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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第一幕……「信者になれって言われて、ついていくような人は居ない」

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第6話 勉強会!

 ゴールデンウィークが明けて数日。5月11日、土曜日。府立六花高校は、中間テスト1週間前になっていた。


 現在、時刻は午前10時過ぎ。場所は、小鳥遊(たかなし)家。


「ヤバい、さっぱりわからん! ……どうしよう、コウ! 助けてくれ!」


 俺の正面。泣きついて来たのは、ケンスケこと権田ごんだ健介けんすけだ。普段は部活に時間(ポイント)を極振りしているこの人も、ままならない現実に四苦八苦してるみたい。今、ケンスケが嘆いているのは、今週習ったばかりの因習分解の問題だった。


「うーんと、どれどれ……?」

「これだよ、これ! ここ!」

「あー、えっと。これは確か、たすき掛けってやつで……」


 俺は、たすき掛けを基にした因数分解の方法を、タブレットの端末上で説明する。その横では、


法月ほうづきくん、この英語の訳なんだけど……」

「…………。合ってるっちゃ合ってるな。けど、国治くにはるはちょっと訳が硬いと思う。もうちょっとこう、文の意を組んであげれば……」


 国語や英語などの文系を苦手とする南雲が、ケンスケと同じバスケ部の男子・法月(ほうづき)理人りひとに教えをうている。法月は、髪を明るい色に染めた高身長イケメン。チャラい印象を受けるけど面倒見も良くて、人当たりの良い性格をしていた。


 全般的に勉強が得意な俺と、全般的に苦手なケンスケ。理系が得意な南雲と、文系が得意な法月。それぞれがそれぞれの欠点を補う形で、俺たちは勉強会をしていた。さっきも言ったように、俺の自宅で。


 というのも、火曜日の爆睡がウタ姉にバレた俺は、かなり勉強面で心配をされてしまった。そんな折、ウタ姉から提案という名の任務が与えられた。


『そうだ! コウくん。良い頃合いだと思うし、うちでお勉強会でもしたら? お友達誘って』

『え、でも、ウタ姉。休日はアンリアルを――』

『もしかして、コーくん。……お友達、居ないの?』


 ウタ姉に心配そうに言われてしまっては、俺としても実行せざるを得ない。というわけで翌日、南雲たちを誘ってみたのだった。


 正直、断られると思ってたよね。だってまだ、1月ちょっとの付き合い。それなりに親しくなったとはいえ、それでも友人を呼ぶには時期尚早。距離の詰め方がバグってる。俺がヤバい奴と思われてお終い――。


「そう思ってた時期が、俺にもありました」


 結果は、見ての通り。なぜかみんな快く了承してくれて、晴れて小鳥遊家お勉強会が開かれたのだった。


「おー、解けた! って、コウ、何か言ったか?」

「ん? えっと、誘っといてなんだけど、みんなノリが良いなと思って。よく勉強会来てくれたよね」

「まぁな! 勉強会とか。学生っぽいイベント1位だろ」


 ……そうかな? 文化祭とか体育祭とか、他にも1位候補は沢山あると思うけど。なんて思っていたら、案の定。


「って言うのは建前」


 ケンスケが、勉強会に乗ってくれた理由を教えてくれる。


「せっかく誘ってくれたし、コウと仲良くなりたかった。リヒトもクニも、多分、そうだろ?」


 ケンスケの隣にいる法月が優しい顔で、南雲がそれはもうブンブンと首を縦に振る。続いて苦笑まじりに口を開いたのは法月だ。


「なんていうんだろう。ちょっと距離置かれてるのかなって思ってたから、意外だった」


 距離を置いてしまう。……それはまぁ、事実なんだけど。それでも、こうして誘って、勇気を出して誘いに乗ってくれたケンスケたちには、感謝しかない。


 そして、きっかけが無いと、なかなか自発的に他人に働きかけられない。そんな俺に、動き出す理由をくれるウタ姉にも、やっぱり感謝しかなかった。


「それにしても――」


 9時から始まった勉強会から1時間。まるで勉強は一区切りだとでも言いたげに頭の後ろで手を組んだケンスケが、俺を見る。


「コウって意外とハイスペックだよな」

「ハイスペック? 俺が?」


 思わずオウム返ししてしまった俺に、ケンスケが頷く。


「いまオレが教えてもらったところ、お前が爆睡してた日の単元だろ? なのになんでオレより分かってるんだよ……」

「いや、それはケンスケがちょっとアホなだけ――」

「やめてあげなよ、コウ」


 俺の言葉を遮った法月。


「真実は、時に人を傷つけるんだ」


 やや芝居がかった口調で、ケンスケのことをフォローする。見た目(ルックス)も相まって、本当にドラマの一幕みたいだ。


「コウもリヒトも。好き勝手言いやがってー……」


 俺と法月の口撃(こうげき)を受けて、食卓に倒れ伏したケンスケ。そんな親友に構わず、法月は話を続ける。


「体育の時もそうだけど。コウって運動もそれなりに出来るもんね?」

「あっ、それは僕も思った。体力測定の時に裏切られたもん」


 ここに来てようやく、英語の意訳に励んでいた南雲が会話に加わった。


「寝てるのに勉強出来て、帰宅部なのに運動もできる。そう思うと、ケンスケが言うようにハイスペックだよなー。……それこそ、嫌味なくらいに、ね」


 俺を見て、片目をつるむ法月。


「なんか、ごめん……?」

「あはは。そう思うなら、コウは余計な印象を持たせるようなことはするべきじゃないかもね? 授業中に寝たり、とか。友達として忠告させてもらおうかな?」


 友達として、のところを強調して、クスッと笑う法月。それにならったのは南雲だ。


「そうそう。帰宅部は帰宅部らしく。僕と一緒で、運動できない方が良いよね」


 腕を組んで頷いてるけど、これに関しては俺に落ち度はないはず。だから冗談で返すのが正解かな。


「運動出来てごめんね、南雲」

「うざっ!? 小鳥遊くん、うっざっ!?」


 なんて適度に休憩を挟みながら、勉強会は進んでいく。


 1人で勉強した方が効率的なのは、間違いないと思う。けど、時々会話を交えながら、ただの知識ではなく生きた知識……思い出として知識を定着させることができるのが、勉強会の強みなのかも。


 きっと、この先、テストや受験で“たすき掛け”が出るたびに、俺は机に倒れ伏すケンスケのことを思い出すことになるんだろうな。


 そうしてみっちり3時間。時刻は正午を過ぎて、そろそろ勉強会を切り上げようかという時。


「ただいま~」


 外出していたウタ姉の帰宅を告げる声が聞こえた。


「おい、コウ。今の声、ひょっとして……」


 なぜか声を潜めて聞いてくるケンスケ。南雲、法月の視線も俺に向けられる。


「うん、ウタ姉。学校で写真見せたよね?」

「まじか!? じゃあもうすぐ本物が――」


 なんてケンスケが言っているうちに、リビングの扉が開かれる。


「ただいま、コーくん」

「お帰り、ウタ姉」


 帰って来たウタ姉の手には、どっさりと食材が入ったエコバッグが提げられていた。


 俺との挨拶を済ませたウタ姉が、続いて、ケンスケ達へと目を向けて微笑む。


「こんにちは。小鳥遊好の姉、小鳥遊(うたう)です。いつもコーくんがお世話になってます」


 そうしてペコリと腰を折ったウタ姉は、続いて。


「今からお昼ごはんだよね? いつもコーくんと仲良くしてくれてるお礼も兼ねて、お料理を振舞いたいんだけど……どうかな?」


 遠慮がちに聞いたウタ姉に対して、南雲と法月が顔を見合わせる。ウタ姉からの厚意を受け取るべきか悩んでいることは想像に難くない。


(ウタ姉。ありがたいけど、さすがにそれは距離詰め過ぎなんじゃ?)


 ありがた迷惑ってやつになるかも。そう思って、俺が拒否しようとした、寸前で。


「あ、ありがとうございます! 頂きます!」


 挙手をしたケンスケが、威勢よく答えた。やや赤くなったその顔には、ウタ姉の料理に対する期待と緊張とが見て取れる。そう言えば、ケンスケ。前にウタ姉の写真を見せた時、結構食いつきが良かったような? 少なくとも外見は、ケンスケの好みに近いんだと思う。


 そんなケンスケの前向きな返事に気を良くしてしまったウタ姉。


「良かった! それじゃあ早速作るわね! みんな、苦手なものとか無い?」


 足早にキッチンへと向かうと、髪をゴムで1つにまとめ、手を洗い始める。そして素早くエプロンを着ると、手際よく調理を始めてしまった。こうなったら、ノリノリのウタ姉を止めるのも忍びない。


「ごめん、みんな。けど、ウタ姉の料理、美味しいから」


 一応、遠慮を見せてくれていた南雲たちにお詫びをしつつも、食べて欲しいとお願いする。


「う、ううん。じゃあせっかくのご厚意だし、頂こうかな」

「そうだね。それに、唄さんの料理が美味しいだろうってことは、コウのお弁当見てれば分かるから」


 南雲、法月両名も、快く了承してくれる。ただし、もう既にウタ姉に心奪われたケンスケだけは、


くわえゴム、からのポニテ。エプロン……。エロい」


 新妻感あふれるウタ姉の魅力に、やられてしまっていた。その感想には激しく同意できるけど……ケンスケ。友達の義姉をそういう目で見ないで欲しいな。

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