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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第一幕……「信者になれって言われて、ついていくような人は居ない」

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第1話 『赤槍一閃、五芒星』

 5月3日、金曜日。待ちに待ったアンリアルの大型アップデートが行なわれた。


 時刻はもうすぐ、午前5時。俺――プレイヤー名『斥候せっこう』こと小鳥遊たかなしこう――は、現在、アンリアル唯一のソロコンテンツであるストーリー攻略に挑んでいた。


 場所は、魔物によって侵略され、破壊されたという設定の港町。その波止場だ。赤黒く染まった空の下、俺は今回のストーリーのラスボス『デーモンジェネラル』と対峙する。


 デーモンジェネラルの見た目は、頭から2本の角を生やした身長2mくらいの人型モンスターといったところ。目は赤く光っていて、全身は黒い甲冑(かっちゅう)のようなものに覆われている。


ゼロ――〈爆散ばくさん〉』


 ボスの言葉と同時に、俺の近くで空気がキュゥッと圧縮されるような、甲高い音が鳴り始める。


 今回のアップデートで追加された魔法系スキルの1つ〈爆散ばくさん〉。空間のとある地点に、小規模の爆発を起こすスキルだ。目に見えるエフェクトとしては、指定した場所に光が収束し始め、その3秒後に爆発する。射程は多分、使用者の視界内ならどこでも。効果周囲は目測で3mくらい。このボスの場合、再使用までの時間は30秒。威力は200だった。


(収束するときに音がするから隠密性は低いけど、奇襲性能は高そう……)


 他にも、フルダイブ操作とコントローラー操作。それぞれにおける爆発する場所の指定の方法とか、ちょっと気になる。なんてことを考えてたから、俺の脇腹辺りで光を収束させていた〈爆散〉への対処が遅れた。


 急いで飛び退いたけど、時すでに遅し。爆風で吹き飛ばされた俺の視界に表示されたダメージは120。トトリとの熱い死闘(じゃんけん)を経て手に入れた、クリーム色の鎧『安息の鎧』のおかげで、致命傷にはならなかった。


「とりあえず、回復薬っと――」

「ん!」


 エナドリ味の回復薬を飲んでいると、かたわらにフィーが現れる。


 所々にフリルをあしらった白いワンピースに、腰まで届く長い銀髪。肌も白いから全体的に白っぽい印象の中で、唯一色を持つ青い瞳。普段は眠そうに半分閉じられ散るその目に、今は抗議の色が宿っていた。


「ごめん、フィー。考え事してた。……好奇心って怖いよね」

「『他人事ひとごと』『違う』『注意!』」

「了解です……っとと」


 黒い槍を手に俺へ突撃してくるボスの姿が見えたから、休憩は終わり。フィーを大盾に〈変身〉させて攻撃を弾いてから、すぐに反撃。


(さっきは大斧を使ったから、今度は手斧とナイフ系の武器で攻撃してみようかな)


 それぞれの武器を使って、対応する弱点を探っていく。


 ストーリー自体は2度と挑戦できないから、『デーモンジェネラル』と戦うことは、もうないかもしれない。けど、ストーリー上のボスが体色や大きさを変えてダンジョンのボスとして登場したり、今後のストーリーでしたり。そんな感じでモンスターが使い回されることも、ゲームでは珍しくない。


 斥候として、ゲーマーとして。可能な限りの情報は、集めておきたかった。


 フィーには全長40㎝ほどの手斧『ハンドアックス』に〈変身〉してもらい、それをボスに振り下ろす。けど、デーモンジェネラルの外皮に阻まれ、返って来たのは軽い手ごたえだった。


『無駄なことを』

「……手斧とナイフは有効武器じゃない感じか」


 ボスが突き出してくる槍を半身になって避け、続いて繰り出される2回目の突きはフィーが〈変身〉した剣を使って軌道を逸らす。こうして2回突きを行なうとボスに生まれる3秒の隙を使って、俺はボスに向けて大剣クレイモアを振り下ろした。


「Critical!」こそ表示されないものの、しっかりとしたダメージがボスに入る。


(大剣は有効武器。まぁ、取り回しづらい武器だから優遇されるべきだよね)


『クッ……。フンッ!』

「ちょっ、至近距離の〈氷槍ひょうそう〉はズルいって!」


 ボスの肩口に現れた4つの槍が、俺を刺し殺そうと迫る。さすがにボスから距離を取って回避に専念するけど、1本だけ氷の槍がかすってしまった。そして、現実ではないゲームの世界だからこそ、掠っただけでも直撃と同じダメージが発生する。


 視界に表示された90の数字を確認しつつ、俺は再び回復薬を飲む。


 30秒をかけて回復を行なう回復薬が再び効果を持つようになったということは、再使用までの時間が30秒ある〈爆散〉が使えるようになっているわけで。


『食ラエ』


 再び俺のすぐそばで空気が凝縮されていくような音がする。ただ、幸いなのは、ボスがきちんと〈爆散〉を使うことをセリフで教えてくれるところだろう。


 〈爆散〉は理論上、発動された瞬間にその場から3m以上移動すれば簡単に避けられる。わざわざ爆発の起点を確認する必要もない。とりあえず、音がした方向とは逆向きに逃げれば避けられるスキルだ。


 俺もその対処法に従って、音がした方とは反対方向へと転がる。その数秒後、背後で爆発音がした。


(これも多分、使い方次第、なんだろうな)


 魔法系スキルは使い勝手が良く、手軽にダメージを出せるぶん、簡単に対処されてしまう物ばかりだ。それに武器による攻撃と違って割合でダメージが軽減されるから、思ったよりもダメージ効率が良くない。モンスターならともかく、こと対人戦においては使い手を選ぶスキルと言える。


 しかも、最近のストーリーボスはきちんとプレイヤーの攻撃に対処してくる。序盤は可能だった魔法系スキルだけで押し切る戦闘スタイルも、最近ではほとんど通用しないというのはよく聞く話だった。


(けど、本当の意味で魔法系スキルが生きるのも、モンスター戦じゃなくて対人戦なんだよなぁ……)


 相手との駆け引きが重要になってくる対人戦でこそ魔法系スキルは輝く。たまにウタ姉と一緒に見るアンリアルの対人戦動画なんかだと、その重要性がよく分かるんだけど――。


「んーーーっ!」


 考え事をしていた俺の視界に、またしても眉を逆立てるフィーが現れる。声と仕草からして、怒ってるっぽい? タイミング的に、フィーの言葉の意味は「集中しろー!」ってところかな。


 ひとまず、槍を手に向かってくるボスが見えてるから、フィーには『戦場いくさばの長剣』に変身してもらっておいて……。


「そうは言うけど、フィーさんや。今の時刻見て欲しいなぁ?」


 現在の時刻は朝の5時過ぎ。昨日、昼間は学校で夜はバイト。11時過ぎからログインして、ぶっ通しで6時間くらい。さすがの俺も疲れてる。けど、そんな言い訳は、このスパルタな妖精さんには関係ないらしい。


「『攻略』『集中』『攻略』『集中』『攻略』『集中』……『戦う!』」


 次々とネット記事の切り抜きを貼り付けたメッセージボードを、視界に提示してくる。さながらスタンプ攻撃だ。


「ちょ、メッセージボード邪魔! 前、見えづらいから!」


 叫びながら、俺はボスが繰り出す槍をどうにか避ける。メッセージボードが半透明だからボスの動きはかろうじて見えてるけど、見づらいことには変わりない。


「(……んっ!)」


 フンッ、とでも言いたげな声で、会話を打ち切るフィー。ただ、視界一杯にあったメッセージボードを消してくれた辺り、やはりプレイヤーの利を最優先するサポートAIといったところだった。


「仕方ない、か……」


 俺は情報収集を打ち切り、ボスを倒してしまうことにする。前の章に続いて人型のモンスターで、ちょっとしたブラフなんかも織り交ぜてきていた今回のボス。とは言っても、言い方は悪くなるけど、所詮はストーリーのボスだ。


 全プレイヤーが挑むことになるため、アンリアルのメインストーリーは誰でもクリアできるように難易度設定がされている。敵の攻撃力が抑えられていたり、モーションが分かりやすくなっていたり。他にも、回復薬の回復量が2倍になっていたりと、可能な限りプレイヤー側に配慮がされている。


「だから、余裕があるストーリーでデーモンジェネラルの行動パターンを把握しておきたかったんだけどなぁ? ……ちらっ?」


 本格的にボスに攻撃を加えながら、俺は手元のフィーに目を向ける。が、


「(んっ)」

「はい、何でもありません」


 早く、みたいに取り付く島もない様子で返されては、引き下がるしかなかった。


 今日のフィーさんはすこぶるご機嫌斜め。最初は俺もそう思ってたんだけど、実は違うんじゃないかなと疑っている。だって……。


「(んっんん~、んっんん~!)」


 はっやく~、はっやく~! とでも言いたげに声を弾ませているその様子は、ご褒美を待つ子供のようだ。


(多分だけど、フィーも俺と一緒で――)


 俺がAIフィーの思考アルゴリズムを解析していた、まさにその時。


赤槍せきそう一閃いっせん五芒星ごぼうせい!』


 ボスが、最後の切り札を使用したのだった。

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