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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第16話 結論:コミュ障はオタクとパーティを組むべきじゃない

 バイトを終え、帰宅後すぐにウタ姉と遅い夕食を食べて、お風呂に入れば、時刻は11時を少し回った頃。俺はずっと……ずっっっとお預け状態を食らっていたアンリアルへのログインを、ついに果たすことが出来た。


 前回、トトリの肉盾となって死亡した俺。目覚めた場所は、セカンドの町の宿だ。とは言っても、基本的に宿の造りはファーストの町にあるそれと同じ。見慣れない天井と言うことはない。


「ふぅ……」

「ん」


 ベッドの上で身を起こした俺の頭上に、フィーが現れた。俺の股の間に収まった妖精さんは


「んー……」


 青い目で俺をじっとり見て来て、ご立腹だということを示してくる。多分、ハザとの戦いで色々、無理を言ったからかな。けど、最終的には協力してくれたし、フィーが居なかったらクリアできなかったのは間違いない。


「ハザの時はありがとう、フィー。助かった」

「ん。……んん?」

「うん! 今日は徹夜で新エリア、探索しよう!」

「んっ!」


 案外、気にしてなかったのかな。すぐに機嫌を戻してくれた。


 聞き分けの良い妖精さんの頭を撫でてあげながら、俺はちょっとした違和感がある視界の左上へと意識を向ける。


 普段、そこには俺のプレイヤー名とHPを示すバーしか存在しない。しかし、今は俺のHPバーの下に「トトリ」の名前がある。前回、パーティを組んだままログアウトしたから、その状態が保持されているらしかった。


(なんか、慣れない……)


 ずっと何もなかった場所に、誰かの名前がある。この違和感、どこかで……なんて考えて、思い出す。


 あれだ。俺が初めて小鳥遊家に来た時の、あの感覚だ。家に帰ると他人から「お帰り」の声がある。誰かが待っていて、温かいご飯がある。そんな“非日常”に足を踏み入れた時の違和感に近い気がした。


 差し当たってトトリのログイン状況を見てみると、どうやら10分ほど前からログインしているらしい。しかも、よくよく通知を確認してみれば、トトリから『インしたら教えて!』と言うメッセージまで届いていた。


 今日の昼に行なったじゃんけんの結果を清算しようということだろう。それが終われば、多分、このパーティは解散だ。


『入った』


 と、メッセージを送るとすぐに返信が届く。


『いつものところで!』


 いつものところって言うと、ファーストの噴水広場かな。了承の文面を返した俺はフィーを指輪に〈変身〉させて、セカンドの町にある転移のクリスタルから、ファーストの町へと転移する。と、そこはもう、噴水広場だ。


 そして、さっきの今で、もう水色の髪が待っていた。


「トトリ」

「せ、斥候さん!」


 俺の姿を認めたトトリが、にゃむさんを抱えてトテトテとやって来る。


「ごめん、バイトで遅くなった。入鳥さん……ニオちゃんの配信は?」

「あ、う、えっと、9時から11時までで、だから」


 なんでも、今日はあくまでも新エリアのお散歩くらいのものだったらしい。本格的な配信をするには、それなりに準備の時間が必要なのだと、トトリは入鳥さんから聞いていたみたいだった。


「そ、それに。アップデート直後はみんなアンリアルの方にインしてるから、同接どうせつが少ない……らしいよ?」

「ふーん、そうなんだ」


 “どうせつ”が何かは知らないけど、とりあえず頷いておく。配信者も、ただ配信すれば良いというわけではないみたい。詳しいことは、今度ウタ姉にでも聞いてみようかな。


「それじゃ、トトリ。昼の清算、しよっか」

「お昼? ……あっ、う、うん。えっと、ドロップ、ドロップ……あっ」


 手元を操作していたトトリが、ふと、何かに気付いたように声を上げた。


「そ、そっか。そう言えばわたしと斥候さん、パーティだった」

「うん。だからこの距離なら、わざわざドロップしなくてもインベントリ同士でアイテムのやり取りができると思う」


 むしろ、こんな人目の多い場所で、情報価値が高いアイテムたちを落とさないで欲しい。ただでさえアップデート後の今は、みんなの目がギラついてるだろうから。


 昼間のじゃんけんの結果に従って、俺のもとに安息の鎧と、アイテム6種類すべてが送られてくる。


「うぅ……。け、結局、わたしの全負け……」


 項垂れたトトリが言うように、じゃんけんは全て俺の勝ちに終わった。


「トトリ。ノリで言った『あと1回やれば勝てる』は、大抵勝てないから」

「わ、分かってるよ!? け、けど! けど……」


 でも、止まれなかった。そう言いたげに口ごもるトトリのその気持ちには、しっかりと共感できそう。


 そう。理屈では分かってる。でも、なんでか知らないけど「次へ」「もう1回」のボタンを押しちゃうんだよね。で、対策とか、敗因の研究とかもしてないからもちろん負ける。


 けど、なんとなくまた勝てる気がして、挑んで、負けて……。メンタルがズタズタになるまで、その繰り返しをしてようやく、諦めが付く。俺はそれを、ある種の“悟り”だと思っていた。


「頭では何が正解か、分かってるのに~……」

「うんうん。そのまま頑張って悟りの境地に来ると良いよ、トトリ。その頃には負けを冷静に受け止められるようになるから」

「……で、でも結局『もう1回』だよね?」

「それは、もちろん」


 冷静に負けを受け止めて、でも悔しいから対策を立ててもう1回。いや、もう1回だけとは言わず、勝つ(クリアする)まで何度でも挑戦する。そのための、ゲーマー的悟りである気がした。


 そうして俺がトトリから受け取ったアイテムを整理・確認していると、


「じゃ、じゃあ次は、斥候さんが約束、守る番……だよ?」


 トトリがそんなことを言ってきた。


「約束?」

「うん!」


 俺が目を向けると、それはもう良い笑顔を浮かべたトトリが、


「わたしが肉盾になる代わりにした約束。『フィーたんをお触りさせてもらう』っていう約束!」


 いつになくスラスラと言葉を発する。……やばい。完全に、忘れてた。


「……さて。じゃあ、トトリ。パーティを解散しようか」

「何を言ってるのかちょっと分からないよ、斥候さん? パーティの解散は、双方の合意か、運営の介入でしか出来ないはずだよね?」


 え、急にアンリアルについて詳しくなるじゃん、この人。……って思ったけど、違う。思えばこれも、トトリの狙いだったのかも。


 だってトトリは最初から……出会った時から、フィーに狙いをつけていた。そして、どうにかして俺とパーティを組むことが出来れば、フィーにお触り出来る。


 攻略したい。入鳥さんに頑張っている姿を見せたいというのは、嘘じゃないと思う。でも、その目的を果たしたうえで、トトリはフィーに触れるチャンスをうかがっていた。そう考えれば、パーティについてだけはやけに詳しい理由にも説明がつく。


 いや、そもそもの話。アイテムの受け渡しを言い訳に、わざわざしに俺と会うこと自体、この約束を果たさせるためだったのかも。


「イェス美少女ノータッチは?」

「……? フィーたんは、少女じゃなくて幼女だよ?」


 何を当たり前のことを。そう言いたげに首を傾げたトトリが、1歩、また1歩と距離を詰めてくる。


「ねぇ、斥候さん。フィーたんが今、斥候さんの指に居るの、わたしのセンサーで分かってるよ? とりあえず、まずは妖精の姿にして? じゃないと、フィーたんの情報、わたしがバラしちゃうかも?」

「待って。落ち着いて、トトリ」

「何言ってるの、斥候さん。わたしは至って、冷静だよ」


 冷静に、狂ってる。そっちの方が、たちが悪い。


 いつのまにか俺は、忘れていたのかもしれない。トトリがヤバい奴だってこと。そして、目的のためなら法を犯すこともいとわない、度胸と言う名の狂気を持っていることも。


「大丈夫、怖くないよ~、怖くない。だから出ておいで、フィーたん……あ、よだれ」

「(んーーー!!!)」


 よだれを垂らして近づいてくるトトリに、悲鳴を上げるフィー。俺に死守を命じてくる。


 フィーを差し出さなければ、フィーの情報が明るみに出る。かといってフィーを差し出せば、今度こそ、信頼を失った俺にフィーが協力してくれることはないだろう。


(こういう面倒事があるから人間関係は苦手だし、パーティを組むのも嫌だったんだ……!)


 まぁ、うん。為人ひととなりからしてトトリがフィーの情報を明かすことはないだろうし、最悪、トトリが口を滑らした「Vtuberニオちゃんの中身」についての情報を、こちらも持っている。だから俺もトトリもお互いに口を割ることはない。


 けど、このままだとトトリが嫌がるフィーに触れて、垢バンされる可能性が高い。冷静になってもらう時間を稼ぐためにも。


「よし、逃げよう」

「(んっ、ん!)」


 トトリとパーティを組んで、俺は「他人とゲームをすること」の面白さを知った。いつかウタ姉と一緒にアンリアルをプレイするって言う目標も出来た。


 けど、パーティを組む相手は選んだほうが良い。少なくとも、俺みたいなタイプのコミュ障は、トトリみたいに狂気を持ったオタクとパーティを組むべきじゃないんだと思う。


 だって、メリット(面白さ、攻略における幅の広がり)以上のデメリット(面倒くささ)を感じてしまうから。……今みたいに。

 

「あっ、に、逃がさないよっ! にゃむさん、バフ頂戴!」

『ナゴォ♪』

「良し! それじゃあ……待って、フィーたん~!」


 すぐにコントローラー操作に切り替えたらしいトトリが、俺たちを追って来る。どうにかして、あの変態とパーティを解散する方法が無いか考えながら。


 俺は、まだ見ぬ新エリアへと向かうのだった。

※ここまでご覧頂いて、本当にありがとうございました!作成したプロットの関係上、本作の本編はここまでとなります。


 もしご意見や感想、★評価等ありましたら、申して頂けると幸いです!


 なお、本作の今後の展開については活動報告(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1576273/blogkey/3285981/)の『チート妖精』の欄をご覧頂ければ幸いです。内容を簡単に申し上げるなら「ひとまず完結扱いにしますが、状況次第で、近い内に続きを書こうと思っています」です。


 次話は、書籍化する際、次章以降の構想・物語の広がりがあることを出版社の方々に知ってもらうためのプロローグになります。

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