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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第14話 陰キャは陽の光に焼かれるらしい

 府立ふりつ六花りっかの校舎は、上から見ると『日』みたいな形をしている。その上下2つある空間の内うち、下側……正門と下足室がある方面に、ちいさな噴水がある中庭があった。噴水の周りには天然の芝生が植えられていて、昼休みになれば多くの生徒たちが憩いの場として利用する場所だった。


 今日は5月2日。春も深まり、夏へ向けてゆっくりと気温を上げていて、外で過ごすにはぴったりな気候だ。周囲を校舎に囲われているから風も気にならないし、昼食時は程よく日影も出来る。ベンチや芝生、噴水に腰掛けて昼食を取る生徒たちを眺めながら、俺は隣でお弁当箱を開ける人物へと問いかけた。


「今日、中庭でご飯食べれたら最高だと思うんですけど、どう思われますか、鳥取さん?」

「うっ……。お、おっしゃる通りで……」


 1時間目の休み時間の終了間際。鳥取から呼び出しを受けた俺は、ついに中庭デビューなんだ、とか思いながら中庭へと向かった。しかし、呼び出した本人である鳥取がどこにも居ない。


 3分くらい探し回ってたら、


『調子に乗ってごめん』『中庭は無理!』『陽しかいない!』『焼かれる~』『(眩しいのスタンプ)』


 とメッセージが来て……。


「結局、空き教室にしたんだ?」


 俺たちは、自由選択科目などで使う空き教室で昼食を取ることになったのだった。


「い、行けるって思ったんだけどなぁ~……」

「昨日もちょっと思ったけど、鳥取、意外とノリで行動しがちだよね」

「え、えへへ……」

「いや、褒めてないよ?」


 度胸があるという意味では褒めてるのかな。まぁ、どうでもいいや。話しながらも、お互いに食事の手は止めない。時間は、限られてる。


 鳥取からの話というのは、もちろん、昨日の攻略についてのことだった。むしろ俺にも鳥取にも、それ以外に共通点が無いから、話すことも無い。


「へ~。ソマリが出て来たんだ?」

「そう! そうなの! 予想通り、金髪碧眼の神官さんだった! 改めて自分のセンサーに間違いが無いって確信したよね!?」

「それは知らんけど」


 美少女(ソマリ)が出て来たらか知らないけど、妙にテンションが高い鳥取。この人の語ったシナリオの内容をまとめると、こうなる。


 もともとハザは、アステア教のまともな高位神官だったらしい。この内容は、実は本編のシナリオの方を探索していると分かる情報だったって言うのは後で知ったことだけど、今は置いておく。


 そんな敬虔けいけんな信者ハザのもとにやって来たのが、聖女として総本山(王都セントラルにある)からつかわされてきたのが、弱冠20歳のソマリだった。


 シナリオ名にあったように、ソマリは王族の血を引くお姫様だった。でも継承権も低くて、乳母うばの影響で幼少からアステア教徒だったらしい。成人(王都セントラルだと15歳だったかな?)を機に継承権を破棄して、聖女となるべく教えと純潔を守り抜いて来た存在だったという。


 万物を愛するアステア教の化身ともうたわれたソマリ。頭脳明晰、品行方正。しかも血筋もある。まさに絵にかいたような美少女・ソマリを目当てに、神殿に様々な人がやってくるようになった。……それこそ、アステア教の教えなどどうでもいいという人たちまで。


「それで信仰が歪んでしまうのを危惧したのが、ハザだった?」

「う、うん。あの人はあの人で、一生懸命、布教活動をしたんだけど……」

「『聖女様』ならともかく、ただのおっさんの言葉は、ね。鳥取自身が証明してたし」

「うぅ……。そ、それを言われると辛い……よ」


 ハザも真面目な人だったんだろう。純粋にアステア教の教義を信じていたし、広めようとしていた。でも、どれだけ民に問いかけても、人々は自分ではなく聖女様を見る。聖女様の言葉を聞く。自分の言葉は、アステア教の教えが、届かない。


(そうやって思い悩んで、精神的に追い詰められた末に、壊れた)


 ある日、耳を貸さない人を背信者として殺してしまったのが、始まりだったみたい。全ての存在を愛するアステア教において、殺人は最大の背信行為。元から敬虔なアステア教徒だったハザは、自分をどうにかして正当化しようとした。


「そんな感じで、苦悩の末に生まれたのが『永年を願う者ハザ』だったんだ?」

「う、うん。斥候さ……じゃなくて、小鳥遊(たかなし)くん。やっぱり察しが良すぎない?」

「これは察してるんじゃなくて、いろんなゲームのテンプレから予想してるだけ」


 俺がすごいわけじゃない。心の中で言いながら、ウタ姉お手製弁当を頂く。今日も卵焼きには愛情と砂糖が詰まっているような気がした。


 真面目で信心深いゆえに、狂ってしまったハザ。命無き“物”を愛せよ、と、教義を曲解して、命あるものたちを“物”へと変える……殺人をするようになった。


「ミイラになってからも含めると、1,000人以上の人を殺しちゃったんだって」

「そこまでいくともう、情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地はないよね」

「そもそもソマリちゃんを殺してる時点で許さないけどね?」


 笑顔で言う鳥取にも、ハザと同じくらいの狂気を感じるなぁ……。


 それにしても、1,000人以上……。部屋の中にあった物は400強だったから、あとはダンジョン内をうろついてたモンスター達って設定だろうな。


「そこで、大天使カッコ大聖女カッコトジソマリちゃんの登場! 『ハザの凶行を止めて~!』『物にとらわれてる魂を助けて~!』って願ったらしいの! 自分を殺した人にも慈悲をかけるソマリちゃん……神っ!」


 聖女なのか天使なのか神なのか。よく分からないけど、鳥取が今回のユニークシナリオ『夢見る姫の夢』について語った詳細は、以上だった。


「ありがとうって言ってみんなの魂が天に昇ってくあの光景……。小鳥遊くんにも見て欲しかったなぁ」


 その光景を思い浮かべるように、教室の天井を見つめた鳥取がしみじみと呟く。今この人が思い浮かべている光景はきっと、ユニークシナリオを引き当てる豪運と苦労の末にしか見ることのできない光景だ。


 今日は長い前髪がピンでとめられてないから目線とか表情とかは分かり辛いけど、涙ぐんでいるようにも見える鳥取。きちんと登場人物に共感と同情をして、物語に入り込める。そんな鳥取に物語のエンディングを見せられて、本当に良かったと思う。これも、俺の自己満足なだけなんだけど。


 ……とまぁ、これらシナリオの話は長い前座だ。今度は俺にとって大切な部分を聞いておかないと。昼休みも、ウタ姉が作ってくれたお弁当も、残り少ない。


「それで? 報酬とかあった?」


 今回挑んだシナリオは、レイド形式。本来であれば生き残ったプレイヤーに報酬のアイテムがランダムに配られるんだけど、今回は鳥取だけが生き残った。よって、鳥取がアイテムを総取りした形になる。


 当然、所有権は鳥取にあるから、俺がどうこう出来るものではない。でもせめて、どんな装備やアイテムが手に入ったのかだけは知っておきたかった。


「あっ! ほ、報酬! それをどうしようって思って、小鳥遊くんを呼んだんだった」


 言った鳥取が、脇に置いていた通学カバンからタブレットを取り出す。続いて、メモが書かれた画面を見せた。


「こ、これが報酬……だよ?」

「どれどれ……」


 そこに書かれていたのは、シナリオのクリア報酬だ。


 まずは称号『UT安息をつかさどる者たち』。『安息の○○』と名の付く装備の効果を1割増しにしてくれるらしい。攻撃力とか、防御力とか。これは、クリアした鳥取とパーティを組んでた俺も、きちんと受け取れたはず。


 アンリアルだと称号とレベルが装備できる武器に関わって来るから、称号は取っておくに越したことはない。ただ、1つだけ気になることがある。


「UT? “U”は“Unique(ユニーク)”だとして“T”は……」

「た、“Title(タイトル)”。称号じゃないかな?」

「なるほど」


 称号の名前からしても、ユニークシナリオをクリアした人だけが手にすることができる称号かな。俺も初めてユニークシナリオに遭遇したし、初めてクリアしたから、詳しいことは分からないけど。帰ったらとりあえず、フィーに聞いてみよう。


 そうやって称号について俺が考えてたら、水筒に入ったお味噌汁を飲んでいた鳥取が「あっ」と思い出したように声を上げた。


「そう言えば、ね。小鳥遊くんがログアウトした後、う、運営からアナウンスがあった……の」

「アナウンス?」

「そ、そう。確か『ダンジョン『安息の地下』が、完全攻略されました』だった……かな?」


 鳥取が語った運営からのアナウンスの内容は、俺がこれまでのアンリアルプレイ歴に置いて聞いたことのない無いものだった。

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