表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/134

第12話 エンディングは全ての伏線の終着点

 右手に杖を、左手に魔導書フィーを持った状態で、両手を高く掲げたトトリ。それは、裏ボス・ハザに挑む前に倒した、隠しボス・ソマリが使用してきた、最後の切り札――即死攻撃の仕様モーションだった。


 本来、命が無い“物”に即死攻撃が効くはずもない。しかし、ここはアステア教の神殿の地下墳墓で、ハザの歪んだ思想で満たされた場所だ。全ての物に、命が宿っている。


 ――ダメージが入らないから倒せない。なら、即死させれば良い。


 それが、俺とトトリの作戦だった。


「ど、どうしよう、斥候さん! この子、動かなくなっちゃった!」


 突然動きを止めたキャラクターに、焦った様子のトトリ。この子、とはゲーム内キャラ「トトリ」のことだろう。


「大丈夫、20秒経ったら、スキルが発動すると思うから」

「20秒!? う~……」


 ソマリと同じ攻撃をしてくれるのだとすれば、発動までの時間も同じだろう。


 そして、前回は全力で攻撃をする時間だったその20秒が、今回は、使用者――トトリを守り切らなければならない時間に変わる。


『なっ!? どこでそれを……!』


 杖と魔導書を掲げるトトリを見て、初めて焦った様子を見せたハザ。


『ゴーレムよ! あの小娘を狙いなさい!』


 ハザがスケルトンゴーレムに指示を出す。しかし、これまで従順にハザに従っていたゴーレムが突然、


『Gyaaaaaa……』


 悲鳴を上げながら膝をつき、頭を抱える動きを見せた。


(もしかして、本当に怨念だった……?)


 ハザによって無理矢理、“物”に魂を押し込められた人々。その怨念がゴーレムが纏うオーラの正体では? みたいなことを、トトリが言っていた。もしそれが真実ならば、これまでゴーレムが指示を受けるたびにあげていた咆哮ほうこうは、物に押し込められていた人々の魂の悲鳴だったということ。


 意に沿わない形でこの世にとどめられ、あまつさえ、ハザに利用される。そんな現状を打破してくれる人々――俺たちプレイヤーがここに来た。


 そして、今。その苦痛から解放されるチャンスが来た……。だからゴーレムは今、懸命に攻撃の手を緩めてくれている?


「……そっか! ソマリが願っていた安息は、自分だけじゃなくて、この人たちの魂もなのか!」


 囚われている人々の魂を助けて欲しい。彼らに安らかな眠りを届けて欲しい。それが、ソマリの願いだったんじゃ?!


 となると、ソマリは何度倒されても蘇る自分の身体を使って、ハザに勝てるプレイヤーを選定していたという設定と考えるのはどうかな。自分の遺志を成し遂げてくれる人を探していた。


(つまり、このユニークシナリオの発生条件は、複数回ソマリに勝利して、ソマリに実力を認められること……かな?)


 そして、シナリオの目的は、閉じ込められた魂に、安息を与えること。そう考えると、なんだかそれっぽい。


 散りばめられたピースを集めて、シナリオに込められた意味と想いを推測し、攻略法を見つけ出す。キャラを通してゲームに共感する。この時のために、俺はゲームの攻略をしていると言っても過言ではないと思う。


 動かなくなったゴーレムとハザのやり取りがあって、トトリが即死攻撃のモーションを取ってから、ちょうど5秒後。


『くっ……! この役立たずの背信者ども! ならば私自身の手でほふって差し上げましょう!』


 動かなくなったゴーレムを見てそう言ったハザが、〈豪炎ごうえん〉を使うモーションを見せる。


 ついさっき、〈豪炎〉を使用したばかりのハザ。クールタイムは90秒あるはずなのに、再びスキルを使おうとしている。恐らく、プレイヤーがギミックに気付いた時に、必ず取る行動だと思われた。


(ソマリのスキルモーションが20秒。〈豪炎〉のスキルモーションが15秒の意味も、ここで回収されるんだ!?)


 たとえ装備があっても、即死するレベルの攻撃力を持つ〈豪炎〉。その熱波が、スキルのモーションのせいで動けないトトリを襲おうとしている。しかも、モーションの時間の関係上、トトリのスキルが発動すると同時に〈豪炎〉のスキルが発動するという、いやらしい調整がされていた。


 で、知っての通り、ソマリの即死攻撃のエフェクトである黒い霧はゆっくりと進む。対する〈豪炎〉の熱波が押し寄せる速さはまさに一瞬で、こちらの攻撃が届く前にプレイヤーが殺される。


「な、なんかヤバそうだよ、斥候さん! どどど、どうしよう!?」


 トトリもヤバい攻撃が来ると察したらしく、めちゃくちゃ焦ってる。ついでに俺も、焦ってる。まさかあの〈豪炎〉が連発されるなんて、思ってなかった。


 ひとまず、試しにハザに近づいて狙いが俺に向くように仕向けてみるけど、


『アレを……あの攻撃をどうにかせねば……』


 ハザの血走った目が俺に向けられることはない。となると、盾か何かでトトリを守る以外の方法は無いんだけど、あいにく、頼れる相棒妖精はトトリの左手で魔導書の姿で握られている。


 フィーとにゃむさんの〈回復Ⅰ〉も使い切ったし、回復薬もない。有効な装備も、防具も、無い。そもそもここに至るまでに、いろんなアイテムを使い過ぎた。これは、俺のペース配分の甘さが招いたミスと言える。


「……うん、これ、あれだ。無理だ」


 俺はハザのもとを離れて、トトリの方へと駆け寄る。


「せ、斥候さん! どうするの!?」

「俺は攻略を諦める」

「えっ!? ままま、待って! わたし、動けない、よ!?」

「大丈夫。トトリはそのままジッとしてて。何があっても、絶対に動かないで」

「それじゃあわたし、殺されるんだけど!?」


 ひどいよ~! と、涙目のトトリの前に俺が立った頃。


「あっ、やっとスキルが――」

『〈豪炎〉!』


 トトリが掲げた杖と魔導書の間に美しい緑色の玉が発生し、そこから同じ色をした小さな霧たちが飛び出していく。特殊な演出だろうか。ソマリが使っていた時と違って、触れれば回復してくれそうな、そんな温かみのある色合いをしていた。


 でも、それと同時に、ハザによる攻撃で発生した熱波が、俺を襲った。


(だから、熱すぎるんだって……)


 本当に身体を焼かれたんじゃないかと思う激痛に見舞われた後、視界に600のダメージが表記され、すぐに『GAME OVER』の文字が躍る。


 でも、ブラックアウトしていく視界には、ゆっくりとだけど確実に、ハザの方へと向かって行く緑色の光が見えている。


「斥候さん!? 斥候さんっ!」


 続いて、トトリの声も聞こえた。つまり、トトリは無事だと言うこと。


 肉壁にくかべ。それはプレイヤー自身が盾となることを表す言葉。さんざんトトリに肉壁になってもらったんだし、最後くらいは俺が肉壁にならないと、帳尻が合わない。


 それに、初めて会った時、俺の忠告が遅れたせいでソマリに焼かれたトトリの姿が、どうしても頭から離れなかった。


(これでトトリは攻略できる。借りは返せたかな……?)


 俺自身が攻略できなかったことへの悔しさはある。けど、不思議と、後悔はない。むしろ晴れやかな気持ちだ。その理由を少し考えて、気付く。


(そっか。俺“たち”で攻略出来たから、なのかな)


 間違いなく、俺ひとりではハザに挑めなかっただろうし、攻略法も思いつかなかった。20秒も隙があるソマリの技を使って攻略するなんて、ソロプレイだと絶対に出来なかっただろうなぁ。


『ギャーーー!!!』


 ハザの絶叫が聞こえる。多分、無事に即死攻撃が効いた証だろう。部屋を駆け巡る淡い緑色の発光体がゴーレムたちにも当たって、無痛の死を与える。ゴーレムがまとっていたどす黒いオーラが、ソマリの遺志を継いだトトリの攻撃によって浄化され、天へと昇っていく。


(これこそが、トトリの導くエンディング……)


 魂が解放されていく、その美しい光景を最後まで見届けることができないまま。


 俺はセカンドの町の宿屋でリスポーンすることになった。


「ふー……」


 言いようのない達成感に包まれたまま、ベッドの上で横になる。ふと眠気を感じて時刻を見てみれば、もうすぐ深夜1時だ。夜の9時くらいからかれこれ4時間ほど、アンリアルにのめり込んでいたことになる。


(キリも良いし、ログアウトしようかな)


 パーティメンバーになったことでトトリに送れるようになったメッセージ。今頃エンディングの最中だろうトトリに後のことは任せて……。


『寝る』『おやすみ』


 トトリにログアウトすることを伝えた俺は、早々にアンリアルからログアウトする。




「ダンジョン『安息の地下』が、完全攻略されました」




 そんな不思議なメッセージが、全プレイヤーに通知されたことを知ったのは、この日の午後。学校で、鳥取ととりと昼食を食べることになった時のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ