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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第11話 シナリオで登場した武器がラスボス特攻

 数分前、最後の寝袋を使ってリスポーンしたトトリ。あの人には、ひとつ前の部屋……ソマリが居た部屋に戻ってもらっていた。


 そもそも、今回、なぜかソマリはドロップアイテムを落とさなかった。しかし、1つだけ彼女がのこした物がある。それは、骨だ。いつもならポリゴンになって消えるはずの骨が、今回だけ、なぜかその場に残っていた。それこそ、まるでソレを使えって言っているかのように。


(ボスとか、そのシナリオで落ちるアイテムから作る武器がボスの特攻武器になる。これも、定番!)


 あとは武器を作るための生産系のスキルが必要だったわけだけど、ここには、滝鉄そうてつの鎧を手ずから作り上げたトトリが居る。


(生産系スキルを持ってる人で、こうやって攻略する人はあんまり居ないんだけど……)


 不遇な扱いをされやすい生産系スキルの人々が活躍する場を用意する。運営の救済措置のような意図が見え隠れしている気がした。


 とにかく、こうしてトトリが希少なスキルを駆使して作ったのが『安息の杖』だった。


「ナイス! そのまま部屋の外で待機――」

「えいっ!」


 いつの間にかボス部屋に入って来ていたトトリが、掛け声とともにハザに〈火球〉を飛ばす。……けど、ダメージは無い。


「……あれ?」

「ちょ、馬鹿……」


 本当は、ハザが〈豪炎ごうえん〉を使ったすぐ後に部屋に入ってきて欲しかったんだけど。


 折角、俺の中で評価を上げていたのに、すぐに下げてくる辺りが本当にトトリだと思う。


「ど、どうしよう斥候さん!? とっこうぶき? なのにダメージ入らないよ!?」


 確かにトトリには、ソマリの死骸から作った武器がハザの弱点になるって言った。けど、俺が言いたかったのは〈火球〉の攻撃でも、杖を振り下ろしての攻撃でもない。ソマリが使う、最も強い攻撃のことだ。


(こうなったら、一か八か……!)


 俺はトトリにとあるメッセージボードを送り付ける。一方で、たった今、〈豪炎〉の準備を始めたハザへ向けて走る。今から15秒後には、ハザの前方にいるプレイヤーが消し炭になるわけだ。


 途中、スケルトンゴーレムが振り下ろすハンマーが俺に向けて振り下ろされる。ここは立ち止まらずにあえて前方向に加速したことで、ハンマーを避けることに成功した。


 しかし、巨大なハンマーが俺の背後の地面をえぐる。その衝撃でシャンデリアが大きく揺れて、天井から小さな瓦礫が落ち始めた。結構、ギリギリかもしれない。


「せ、斥候さん!? こ、これ……」

「トトリ、文句は後で聞くから承認して!」

「う、うん!」


 トトリが手元を操作すると、俺の視界の左端に「トトリ」のプレイヤー名とHPゲージが表示される。この視界の変化が示すものは、ただ1つ。


 ――俺がトトリとパーティを組めた証だ。


「あと、にゃむさんに俺を回復させて欲しい!」


 パーティを組めば、一部例外を除いて、サポートAIのスキルを共有することができる。


「わ、分かった! にゃむさん、お願い!」


 トトリが言えば、トトリの頭の上に現れたにゃむさんが『ナゴォ♪』と上機嫌に鳴く。すると、俺の体力が200から175回復して、満タンの350になった。


 同じころ、システムを通して、パーティが組まれたことを認識したのだろう。


「んーーー!!!」


 俺の目の前に現れたフィーが、猛抗議の声を上げてくる。言うまでもなく、お怒りモードだ。


「ごめん、フィー。でも攻略には必要なんだ。だから、お願い!」

「んん!」

「それに俺、今、にゃむさんに助けてもらった。トトリじゃなくて良い。にゃむさんに恩を返して欲しいんだ」


 ハザが〈豪炎〉を使うまで、残り10秒。じっとりとした青い目で俺を見上げる妖精さんに、俺は手を合わせる。


「お願い、フィー。俺たちにこのボス、倒させて!」

「…………」

「俺は、フィーと一緒にボス攻略したいんだ。だから、お願い」


 俺と、フィーの思考アルゴリズムの共通点はただ1つ。強い敵……ボスを一緒に倒すこと。一緒に攻略したい。一緒にモンスターを倒したい。ただその1点については、俺とフィーは共感できるはず。


 そんな俺の切実な頼み事は、


「…………。ん」


 めちゃくちゃ渋々。かつ、聞き逃してしまいそうなほど小さい声で呟いたフィーによって受け入れられた。


「ありがとう、フィー! 頼りにしてる!」

「(ぷいっ)」


 これで、ハザ攻略の最期のピースが揃った……はず。むしろこれでダメなら、今回の攻略はもう無理だ。


『今度こそ焼き尽くしてやりましょう!』


 ハザが〈豪炎〉を使用する最後のモーション――両手を大きく掲げ、続いて地面に着こうとする動き――に入った。狙いは、最もハザに近い位置にいる俺だ。


 慎重に位置取りを調整して、俺は熱波がトトリの居るに方に向かわないように注意する。


 何度目とも分からない、極限の集中。視界が、スローモーションに見える。


「フィー、赤鉄の大盾!」

「ん」


 にゃむさんのおかげで、再びハザの〈豪炎〉を耐えられるHPを手に入れた。そんな俺が、1.5mもある巨大な白い盾を構えた直後。


『〈豪炎〉!』


 ハザが一撃必殺の広範囲攻撃を使用する。


 けど、巻き込まれたのは俺だけだ。240のダメージ表記がされて、残りHPが110になる。


「熱すぎ!」

『くっ、またしても仕留め損ねましたか……! ですが、次こそは!』


 四肢を付いて俺を見上げるハザを置き去りにして、俺は攻撃のターゲットにされるために、スケルトンゴーレムが居る方へと駆ける。可能なら、ゴーレムをトトリから遠ざけたかった。


 ゴーレムが振り回す巨大な腕をかいくぐりながら、ボス攻略最後の一手について考える。


(ソマリが落とす素材から作れる武器は杖だけじゃない……)


 『安息の魔導書』。それもまた、ソマリの遺志を継ぐ武器だ。俺の予想では、魔導書もまた、攻略に必要な武器なんだと思う。


 けど、トトリの口ぶりからして、このシナリオで倒したソマリの骨からは杖しか作れなかったんだろう。だからこそ、何度かソマリに挑んだ後に、このユニークシナリオは発生したのかもしれない。


(魔導書か、杖か。あらかじめどっちかを作っておいて、シナリオでは持ってない方を作れる、とかかな)


 いずれにしても、ソマリが使う最大の攻撃を使用するには、杖と魔導書の両方が必要になると俺は予想している。


 残念ながら、今、俺の手元にソマリが落とす素材は無いし、素材があったとしても、トトリがこのボス部屋内でアイテムを作れるとは思えない。


 けどこの場には、千変万化の妖精さんが居る。


「フィー、安息の魔導書」

「(んっ)」


 俺はフィーを安息の魔導書に〈変身〉させる。手元に現れたのは、小学校の頃に使う練習をさせられた辞書くらいの大きさと分厚さを持った本だ。フィーが〈変身〉した武器だから装丁そうていは白。もちろん模様なんかも白だから薄っすらとしか見えないけど……。


(『Astaeanism』……。アステア教の教本がモデルなのか)


 そう言えばソマリは、敬虔けいけんなアステア教徒だったってハザが言ってたような? あれがヒントだとしたら、さすがに難しすぎる気もするけど、とにかく。


 ここはいびつなアステア教の教えに満ちた場所。死体や食器など“物”に“命”が宿るのだとしたら――。


「それじゃ……あとはよろしく、フィー! トトリ!」


 俺は魔導書に変身したフィーを、遠く、通路の入り口付近であたふたしていたトトリ目がけて投げる。


「せ、斥候さん!? な、何、その白い本!?」

「フィーだ!」

「絶対に取る! 死んでも受け止めてみせる!」


 言うや否や、トトリは、コントローラー操作では難しいと言われている“飛んでくる物体のキャッチ”を見事に成功させた。


「ぐへへ~、フィーたん! ようこそ、わたしの腕の中に! むしろお帰り!」


 もしフルダイブ操作なら、そのまま頬ずりしてしまいそうなくらい、だらけ切った顔を見せるトトリ。お願いだから、今だけは気持ち悪い発言をしないで欲しい。嫌がったフィーが〈変身〉を解いた瞬間、作戦が終わる。


 トトリがこれ以上、余計なことを言わないように。また、フィーが心変わりする前に、作業工程を先に進めないと。


「トトリ! 作った杖の方に、新しいスキルない!?」


 俺はゴーレムの攻撃を避けながら、トトリに確認してもらう。


「す、スキル……? 待ってね、えっと、えっと……あった!」


 どうやら魔導書と杖を持つことで、このシナリオ限定のスキルが使える仕様なんだと思う。


「それ、よろっ!」

「う、うん! えぇっと……えいっ!」


 掛け声とともに、スキルを使用したらしいトトリが、杖と魔導書を高く掲げるポーズを取る。それは、ソマリがピンチになった時に見せる、最後の切り札と同じモーションだった。

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