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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第9話 “ざまぁ”するって、何だろう?

 銀色の食器と木くずで出来た、人間の骨格標本のようなモンスター『スケルトンゴーレム』との戦いは、早くも5分以上が経過していた。


『今です、パージ!』


 ミイラの見た目をした裏ボス・ハザが叫ぶと、スケルトンゴーレムの右腕が消失し、代わりに宙を舞う大量の食器が現れる。ここから30秒間、宙を舞う食器と追いかけっこをしながら、ゴーレムの攻撃を避けることになる。


「トトリ、回避と回復薬の準備!」

「う、うん!」


 この5分間、初見で、これだけ生き残れているのは奇跡だと思う。


(……それに、大体の行動パターンが掴めた!)


 群れを成して襲い掛かって来る食器たちから逃げ回りつつ、


「フィー、長槍ながやり!」

「ん!」


 ゴーレムの左腕から繰り出される薙ぎ払いを、俺は3mもある槍を使って棒高跳びの要領で避ける。着地後、すぐに前方に転がれば、背後で食器たちが地面に突き刺さる音がした。


 他方、トトリに向けてゴーレムが行なうのは、地団太を踏む攻撃だ。それ自体に攻撃力は無いんだけど、地面が揺れて、行動を阻害される。最初は避け切れなくて、トトリが行動速度ダウンを受けた。その後、食器たちの猛攻を受けて、鉄の鎧と回復薬を1つ失うことになったけど、今は……。


「じゃ、ジャンプ!」


 掛け声でタイミングを計るトトリが、揺れを回避する。後は普通にダッシュモーションをしていれば、食器たちに襲われる心配はなかった。


 このほか、スケルトンゴーレムの攻撃は多岐にわたる。腕を槍に変えて突撃してきたり、弓の形にして、食器たちでできた巨大な矢を飛ばしてきたり。それら、素早さと、そこそこの攻撃力を持つ攻撃をしたかと思えば、木くずを寄せ集めた巨大なハンマーを振り下ろすという、当たれば必死の攻撃もしてくる。


(本当に、油断できない……!)


 身体を自由に変えられるモンスターらしい、多種多様な攻撃をしてきていた。


 それでも、だ。攻撃パターンをほぼ全て見切ったうえで、こちらが払った犠牲は、回復薬2つと鉄の鎧、俺が身に着けていた皮の鎧が1つだけ。


(トトリに渡した分で寝袋が無くなったから、俺はもう死ねないし、手元にある回復薬も残り1つだけど……)


 初めての挑戦としては、まず間違いなく、最高の出来と言えた。


 けど、肝心の部分――ボスの攻略方法――が未だに見えていないのが、事態を楽観できない理由かな。食器たちが再びゴーレムのもとへ集まって、右腕を形成した頃。


「じ、10分経ったよ、斥候さん!」


 タイマーをセットしてくれていたトトリが、ゴーレムとの戦いが始まって10分経ったことを教えてくれる。俺の方でも視界の端にあるタイマーが10分を経過したことを確認した。


 トトリに感謝を伝えつつ、俺は、時間経過による攻略の可能性を排除する。


(どんな攻撃も敵にダメージが入らなくて……? 時間経過で攻略するパターンでもない……)


 他にどんな攻略方法があるか。頭をひねってみるけど、戦闘中&深夜ということもあってなかなか頭が回らない。


「(ん!)」


 フィーの声で、ゴーレムが俺に、槍となった腕を突き刺そうとしていることに気付いた。


「さんきゅ、フィー!」


 考えることをやめて、一度回避に専念する。俺を串刺しにし損ねたスケルトンゴーレムの腕が壁に刺さって、放射状にひびが入る。その光景を見た俺は、また1つ、攻略の糸口を思いつく。それは、ステージを壊すというものだ。


 今俺たちが戦っている場所は、地下。このままゴーレムが攻撃を続ければ、この地下空間全体が重くもろくなって、天井が崩落。ハザともども、ゴーレムを押しつぶす――。


「うわ、そっか! これ、時間制限あるタイプか!」


 ステージ崩壊の攻略を考えていた俺は、同じ論理でプレイヤーも下敷きになることを思い出す。


(そうなれば、トトリともどもゲームオーバー。寝袋も崩壊に巻き込まれて消滅。多分このシナリオにも挑戦できなくなる……!)


 あくまでも可能性の話でしかない。けど、改めてステージを見てみれば、至る所にヒビや穴が出来ていて、およそ半壊と言っても良い状態。そして、これまでアンリアルをプレイしてきた中で、ここまで忠実にステージへのダメージが表れていたことは無かった。崩落するギミックがあると考えるのが妥当だ。


「斥候さん!」


 考えながら敵の攻撃を避けていると、気づけばすぐそばにトトリが居た。1か所に集まると2人まとめて死ぬ可能性もあるけど、もう、逃げ回ってばかりはいられない。


「トトリ! 多分あと少しで、このボス部屋が崩れる!」

「え、ええっ!? ど、どうするの!?」

「……どうしようか?」

「えぇぇぇ!?」


 お手上げだと示して見せると、トトリが涙目で叫ぶ。


(やっぱり初見クリアは出来るほど、甘くないか……)


 こうなると、今日(日付をまたいだから、昨日含む)俺たちの行動を可能な限りトレースして、再びこのユニークシナリオが発生することを祈るしかない。


 ボスが腕をハンマーに変えて、俺たちを攻撃してくる。俺もトトリも問題なく避けるけど、また1つ、ステージにダメージが入った。


(第一段階よりも避けやすくなった攻撃。行動阻害をする地面への踏みつけ。ハンマーとか、槍とか、ステージを壊すような動作も、ヒントになってたのかな)


 ダメージが入らないボス。ステージ崩壊による時限ギミック付き。こうなって来ると、やっぱり、特定の行動をすればダメージが入るようになったり、あるいは特定の武器を使えば攻略できたりするんだろう。


(じゃあ、どんな行動、どんな武器……?)


 俺たちが今挑んでいるのは、レイドボス。そして、シナリオだ。これまでにあった違和感の中から、攻略のヒントを探さないといけない。


「ご、ごめん、斥候さん~! わたし、な、なんにも思いつかない!」


 俺の隣を並走するトトリが、攻略法など全然思いつかないと涙目で謝ってきた。


 でも正直、トトリは、悪くない。ゲームをする習慣はないらしいし、アンリアルが人生初のゲームだった。それに、トトリは『エンジョイ勢』と呼ばれるタイプ。ゲームをガチで攻略するのではなく、楽しむことに重きを置いてきた人種だ。


 そんなトトリに攻略法を求めるのがこくだと言うのは分かっている。けど、シナリオやNPCに対する熱量だったり、深い理解度だったり。俺とは違うプレイスタイルだからこそ見える物もあるかも知れない。


「トトリ。いつものトトリなら、どうやってハザを倒そうとする?」

「え、えと? 普段の、わたし?」


 ゴーレムの左腕が食器の群れになって襲い掛かって来る。一方で、右腕が変形し、巨大な斧になった。破壊力の大きい一撃がもう少しでやって来る。


「わ、分からない……」


 眉尻を下げて、やはり思いつかないと呟く。


「……了解! じゃあ次があるって信じて、今はボスの行動パターンを――」

「あっ! けっ、けど! ……ね?」


 俺の言葉を遮ったトトリが、かろうじて絞り出したんだろう案を出してくれる。


「わ、わたしは、ソマリちゃんがあの野郎にざまぁ出来るエンディングだったら良いって、思う……な?」

「ざ、ざまぁ……?」

「う、うん。き、きっと! ソマリちゃん、ハザにもてあそばれて、むしゃくしゃしてるって、思うから。だから、ソマリちゃんがあのくそ野郎をぶっ飛ばしてくれたら、わたしは、スッキリする……よ?」


 相変わらずハザへの敵対心(ヘイト)と、ソマリへの愛着が凄まじいトトリ。この人の場合、ソマリがハザに反撃できるよう、エンディングを導くと言う。


「ソマリが、ハザに、反撃……」


 ひどい目に遭ってきた人が、自分をしいたげていた人に復讐するなんて言うのはゲームでもよくある。


 でも俺たちはついさっき、ソマリを倒したばかり。安息を願っていたソマリは無事、成仏してくれたはず。その代わりにドロップアイテムは無くて――。


「いや、1個だけ、あったのか」


 そう言えばあの時、ソマリは1つだけ、アイテム()()()()()を落としていたように思う。そして、ソマリがハザに反撃するというその構図。


「可能性はある、か……?」

「せ、斥候さん!? 何かひらめいた!?」


 すがるような目で、俺を見つめてくるトトリ。


「トトリ。多分これは、トトリにしか出来ないことなんだけど……」


 この1分後。俺たちは臨時の作戦会議を終える。


「ソマリちゃんの恨み、食らえ~! ……んぎゃ!?」

『馬鹿ですね……。やりなさい、スケルトンゴーレム!』

『Gaaaaaa!』


 憂さ晴らしを兼ねてハザに向かって長剣を振り下ろしたトトリが見事、攻撃を弾かれる。そうして大きな隙を見せたトトリは、無事に、スケルトンゴーレムの放った巨大な矢に撃ち抜かれて大往生をして見せた。


 こうして俺たちの最期の希望――寝袋が消費され、完全に後がなくなったのだった。

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