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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第8話 第二形態は定番だけど……!

 半径20mくらいの広いドーム状の空間。煌々《こうこう》と輝くシャンデリアが照らすボス部屋は、さながらパーティ会場だ。しかし、今その会場は俺とトトリによって破壊しつくされ、目も当てられない状態になっている。


 ひしゃげた机や椅子。地面で鈍く輝く銀色の食器たち。時折見える金色は、ケーキスタンド。盗賊に荒らされたような惨状に、ついに裏ボス『永遠を願うハザ』が叫んだ。


『なんと非道な!?』


 全身に包帯のようなものが巻かれており、いわゆるミイラのような格好をしているハザ。戦闘が始まってからずっと膝をつき、天井画を見上げて、恍惚としていたそのボスが、ついに動き出したのだった。


 ハザが立ち上がるのに合わせて、俺たちを追っていた食器たちが一斉に動きを止める。


「トトリ、警戒! 一応、言っとく!」

「う、うん!」


 ハザを挟んでちょうど反対側の壁に居るトトリに警戒を促しつつ、俺はハザの一挙手一投足に注意を傾ける。


『なんと……。なんとむごいことを!』


 声に怒りをにじませながら、俺の方を向いたハザ。恐らく戦闘中に挟まれる会話パートなんだろうけど、確認はしておかないと。


「フィー、バトルスピア」

「ん」


 俺は、棒の先に巨大な円錐を取り付けたような形をしている槍の武器へと〈変身〉してもらって。


貴方あなたがたは分かっているのですか!? あの食器たちには私が丹精込めて押し込めた数多くの魂が――』

「ふんっ!」


 饒舌じょうぜつに語るハザへと思いっきりぶん投げる。


 まっすぐに飛んで行った真っ白なバトルスピアは、無事にハザを捉えて――。


「ダメージなし。やっぱりハザを攻撃できるようになったわけじゃないか」

『――ああ……! 折角、積み上げた晩餐ばんさんが! 私の祈りが……』


 バトルスピアが当たったことなど意に介していない様子で、ハザは会話を続ける。


「せ、斥候さん! 敵が話してるときは攻撃しない、聞き届けてあげるのが美学だよ!」


 遠く、ハザの背後で、なにやらお怒りモードのトトリ。……まぁ、例えば、戦闘開始前とかなら分かる。会話から攻略のヒントを得られることも多いから。けど、少なくとも戦闘中は何でもありだと俺は思っている。


「ってことで、フィー。斬鉄剣」

「ん」


 俺は近くで浮いている食器を斬ろうとしてみる。けど、甲高い金属音と共に、弾かれてしまうのだった。


「ちょっと、斥候さ――」

「大丈夫、話は聞いてるから!」


 さっきも言ったように、会話も攻略の重要な要素になる。


 あれこれ試しながら聞いていたハザの話を要約するなら、今まで俺たちに襲い掛かっていた食器たちには、ハザがこれまでにえとして殺した人々の魂が閉じ込められていたらしい。


 でも、俺たちが食器を……魂の器を破壊した。結果、閉じ込められていた魂たちは解放され、にえとしての役割を失ったそうだった。


『あの叫びの意味が分かっているのですか!? 貴方あなたがたに斬られた贄たちは痛みを感じ、二度目の死を迎えたのです! せっかく私が、完全な身体を与えていたというのに……!』


 ゆっくりとした足取りで俺の方に向かってきながら、ハザは、食器たちを切り刻んだことを糾弾してくる。けど、そもそもの話。食器たちに閉じ込められている人たちを殺したのはハザだし、閉じ込めたのもハザなんだよね。


 だからこうして糾弾されても、不思議と、罪悪感みたいなものはない。


『……あぁ、そうです! 信仰をないがしろにするこの者たちを処罰すれば、きっとアステアも喜んでくれる、そうに違いありません! あぁ、であれば……であるならば!』


 俺には理解できないセリフを言ったハザが、布が巻かれた腕を大きく広げる。すると、これまで飛び回っていたカトラリーたちが、部屋の中央に集まり始めた。


 それだけじゃない。椅子だとか、机だとか。壊したと思っていた物も中央に引き寄せられていき、やがて、ゆっくりと人型を形成し始める。


『贄たちよ! 今こそ、貴方がたの信仰心を見せる時です!』

『Aaaaaaah!』


 ハザの声に呼応するように、両腕を広げて絶叫したソレは、金属と木片とを組み合わせた人型の怪物『ゴーレム』だった。


 普通、ゴーレムって言ったら土とかレンガとかで出来てる、武骨で重量感のあるモンスターを想像する。けど、ハザが作ったゴーレムは、食器の数のわりに大きいから、スカスカな印象だ。


(食器で鎧とかぶと。木くずで内臓とか骨を再現してるのかな)


 一種の芸術作品っぽい。それが、第一印象だった。


「可哀想……」

「うわっ、びっくりした!」


 いつの間にか、俺のすぐ隣にいたトトリの呟きに、思わず声を上げてしまう。


「コホン……。可哀想って?」

「だ、だって、見て、斥候さん。あのモヤモヤ……」


 トトリに言われて、俺は改めてゴーレムを見遣る。


 体高5mほどの巨大なゴーレムは、その全身から紫色のオーラを放っている。


「き、きっと、ハザ野郎に無茶苦茶にされた人たちの怨念おんねん……だよ?」

「おんねん? ……あっ、怨念。なるほど」


 俺にはただのオーラにしか見えなかったけど、怨念。言われてみれば、そう見えなくもない。


「わ、わたし、なんか嫌……だな。ああやって、死んだ人を物みたいに使う、の」


 トトリが、嫌悪とやるせなさを顔ににじませて、ゴーレムと、ハザとを順に見る。


『物は人間に使われるばかり! 個々は小さく、人間に敵わない。……んですがっ! こうして集まれば、命あるものなど、簡単に物へと変えることができるのです! 人間に、反抗できる!』


 ゴーレムを見上げるハザが、歓喜に打ち震えている。


「いや、そもそも“物”は人間に歯向かおうって考える心も、知能も持たないんだけど……」


 だからこそ「物」なわけで。思考力と感情を得た物はもう、物じゃないでしょ。っていうツッコミをする気も失せてしまうくらい、論理が破綻しているハザ。


『さぁ、行くのです、皆のもの! 私たちの信仰を、示そうじゃないですか!』

『Aaaaaaaah!』


 ハザの声を受けて再び声を上げたゴーレムの頭上に『スケルトンゴーレム』なるモンスター名が表示される。同時にBGMが変わって、戦闘パートに突入したことを教えてくれた。


「小鳥遊くん」


 いつになくはっきりとした声で、俺のことを呼ぶトトリ。


「トトリ。ゲームでリアルの名前を呼ぶのはご法度――」

「絶対に、あの野郎をブッコロしよう!」


 何やらヒートアップしているらしく、言葉遣いも荒くなっていらっしゃるトトリさん。


(ゲームにここまで感情移入できるの、ほんと、すごいな……)


 今のトトリはきっと、俺以上にアンリアルにのめり込んでいる。どうしても俯瞰的ふかんてきにゲームをしてしまう俺とは違って、心の底から、このゲームを楽しんでいそう。その証拠に、トトリの目には、やる気の炎がちらついている。……って、本当に目の奥で炎が燃えてる。これも、アンリアルに設定されているモーションらしい。


 本気と一緒に細かな芸を見せてくれたトトリに、改めて感嘆しつつ。


「おっけー。……攻略の続き、しよう!」


 お互いに頷き合って、ゴーレムへと目を向けた。


 ……のは、良いものの。実は、状況はかなり悪い。だって、これはいわゆる第二形態だから。ここからまた、1からボスの倒し方を考えないといけない。


(で、寝袋は俺には無くて、トトリが1つを残すだけ……)


 正直、絶望的だ。


「トトリ、回復薬ってどれくらい残ってる?」

「あ、あと1つ、だよ?」


 俺が残り3つ。……どうしよう。全然勝てる気がしない。


「せ、斥候さん! 来る!」

「え、あ、うん」


 ゴーレムの巨大な拳が俺たちに迫る。食器が連なって出来上がったゴーレムの拳は、銀色の籠手こてって感じかな。


(質量も攻撃力もなさそうに見えるけど……)


 念のために避けておく。ついでに、拳が食器だけで出来てるなら……。


「フィー、斬鉄剣」

「(ん!)」


 すぐそこにある拳に向けて、斬鉄剣を振り下ろした。俺の予想なら切れてくれる……はずなのに。


「くっ!?」


 甲高い音を立てて、斬鉄剣が弾かれる。ダメージ表記が、無い。つまり、少なくとも斬鉄剣で攻撃してももうダメージが入らないことが証明された。


『無駄です! 私たちの信仰心は、あらゆる攻撃を弾くのですから!』


 得意げに解説をしてくれるハザの言葉を聞き逃さないようにしながら、俺はフィーを様々な武器に変えて、ゴーレムを攻撃する。……けど。


(斬撃系、打撃系、どっちも無理……。魔法は……)


 試しに〈火球かきゅう〉を使ってみるけど、やっぱりダメージ表記は無い。


(くっそ……。またギミック探し!)


 アイテムの少なさによる焦りを自覚しながら、俺とトトリはひとまずゴーレムとハザから距離を取るのだった。

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