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チート妖精連れのコミュ障ゲーマー、陰キャオタクとパーティを組む  作者: misaka
第三幕……「これだからゲームはやめられない!」

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第7話 盾役(タンク)はボス攻略において必須級

 ちょっとした練習を5分くらい挟んだのち、いよいよ、裏ボス・ハザ戦に向けた最後の攻略が始まる。とある事情で、制限時間は5分となる。


 ついでに、このユニークシナリオがなぜ発生したのか分からない以上、寝袋無しでゲームオーバーになれば恐らく二度と挑戦できない。その頼りの寝袋も、残すは2つ。その寝袋も、トトリに全て渡してある。


 だから、トトリは3度。俺は1度でも死んだ瞬間、俺たちはハザに挑むすべを失うことになっていた。


「寝袋は置いたし、タイマー機能もセットした……。じゃ、じゃあ……行くよ、斥候さん!」

「うん、お願い、トトリ!」


 掛け声と同時に、2人でボス部屋に駆け出す。


 俺は、申し訳程度の防御力と魔法耐性を持つ皮の鎧だけを装備。一方のトトリは、両手装備の武器『戦槌せんつい』以外には一切の装備が無い状態だった。


 俺たちが部屋に入っても、まだボスは動かない。食器たちも、動きを見せない。恐らくこれが、運営が用意してくれている最初の隙だ。


「フィー、戦槌!」

「ん!」


 俺も戦槌を装備して、トトリと一緒に一番奥にある机に駆け寄る。道中確認するのは、この戦いについて。


 パーティを組んでいない俺とトトリが共闘できている。それが示すのは、今俺たちが挑んでいるシナリオがレイドと呼ばれる物であること。不特定多数のプレイヤーが協力してボスを倒したり、クエストに挑んだりする形式のものだということだった。


「こっちは準備OK! トトリは?」

「大丈夫!」


 入り口の反対側。隣り合う2つの机を前に、俺とトトリで戦槌を構える。最初に、なるべく多くの食器を壊しておきたい。ここで減らした分だけ、敵の手数が減るわけだし。


「おっけ! それじゃあ、せーので行こう! トトリに合わせる!」

「わ、分かった。じゃあ……せーのっ」


 2人して、巨大なハンマーを、机と椅子、カトラリーを巻き込める位置に振り下ろす。金属がぶつかる音。木がひしゃげる音。木くずが飛び散る音。最後に、食器たちが上げる絶叫……。多種多様な音と共に、戦闘が始まった。


 各テーブルから食器たちが舞い上がり、魚の群れのようになって襲い掛かって来る。


(俺とトトリ。ちょうど半々くらいかな……)


 2人して食器の群れから逃げながら、少しだけ時間を稼ぐ。その間に俺が確かめるのは、この部屋から出られるかどうか。


 唯一の出入り口でもある通路に差し掛かったところで、俺は通路に手を伸ばす。けど、見えない壁のようなものに阻まれてしまった。都合よくヒット&アウェイは出来なさそう。


「逃げられない! ということで、トトリ、頼んだ」

「う、う~……っ! あとで約束、守ってね!」


 隣を走っていたトトリが、食器たちを引き連れて中央に居るハザの方へと向かう。今から、トトリには2つのことを試すための犠牲になってもらう予定だ。


 俺も食器の群れに追われながら、トトリの雄姿ゆうしを見届ける。


 包帯に巻かれた腕を広げ、天井を見上げているハザ。そんなハザに向けて、


「く、ら、え~!」


 トトリが戦槌を振り下ろす。表記されるダメージは……0。ハザが、そもそも攻撃対象ではない証だ。


「や、やっぱり~!」


 棒立ち状態で叫ぶトトリ。今、トトリは、ハンマー系の武器に付随する長い攻撃後の隙の最中だ。その時間、2.8秒。


 最初、食器が浮き上がってから攻撃してくる時はどうにかなった後隙あとすき。でも、今、食器たちは元気に飛び回っている。棒立ちをするプレイヤーを見逃すはずもなく、トトリに向けて、一斉に食器たちが襲い掛かった。


「ふぎゃっ!」


 数えるのも億劫おっくうになるくらいの数25の表記がなされて、トトリが針山のようになった。もちろん、(ゲームオーバー)だ。


 見ていてあまり気持ちのいい光景ではないけど、ここはゲームの世界。作戦を立てたのも俺だろうと、自分に言い聞かせて。


「今っ!」


 俺はトトリの犠牲を無駄にしないために、すぐさまトトリへと駆け寄る。


 ゲームオーバーになってポリゴンになるまで、数秒だけ、プレイヤーの身体は残っている。そして、床や壁、プレイヤーに刺さった食器たちは、3秒の間、動かない。ということで……。


「フィー、斬鉄剣ざんてつけん

「(ん!!!)」


 戦槌からナイフへと姿を変えていたフィーが、今度は刃渡り70㎝ほどの真っ白な刀へと姿を変えた。この刀も、斬鉄のナイフ同様につばが無いタイプ。ぱっと見は真っ白な木刀とも呼べるそれを、俺は全力でトトリに刺さったままになっている食器たちに振り下ろした。


『Gaaaaaa……!』


 響き渡る絶叫。硬い何かを断ち切るような確かな手応えと共に、トトリに刺さっていた食器たちを斬ることができた。


(数えるのも考えるのも後!)


「――フィー、ナイフ!」


 刀を振り下ろした後隙(あとすき)を消すためにすぐにフィーにはナイフに変身してもらって、俺は再び走り始める。それとほぼ同時に、トトリの姿がポリゴンとなって消え去った。


 現在、ボス部屋に居るのは俺だけ。全ての食器たちが俺を目がけて飛んでくる。群れを大きくしながら追従してくる食器たちと、逃走劇を繰り広げること少し。


「斥候さん!」


 寝袋で復活したトトリが、今度は鎧をまとった姿で現れた。右手には鉄の盾が装備されている。


 本来ならデスペナルティとして全て失われるアイテム。俺がここに居る以上、アイテムを預かって渡すことも出来ない。なのに、どうしてトトリが装備を持った状態で現れたのか。これには、ちょっとした裏技がある。


 俺たちは、寝袋のそばにアイテムをドロップして、ボス戦に入っていたのだ。プレイヤーがドロップしたアイテムは5分間その場にとどまり、その後、消滅する。でも、裏を返せば、5分以内なら拾うことができる。それこそが、制限時間5分の正体だ。


 そして、トトリは開始早々に死んで、寝袋で蘇生した。


(だから、アイテムを全部回収することが出来る、と)


 早々に、かつ確実に死ぬことが分かっていて、なおかつ泥棒――他のプレイヤー――が居ない状況でしか使えない、めっちゃ後ろ向きな作戦だった。


(良かった、問題なかったみたいだ。それに、ちゃんとボス部屋にも入れたっぽい)


 俺がソマリの部屋に入れたことと、これがレイド戦であることから心配はしてなかったけど、とりあえず一安心だ。


 背後を見れば、部屋に再び現れたプレイヤーを目がけて、半数近い食器たちがトトリに向かって行っている。


「イタッ……」


 時折、食器たちが俺の身体をかすめるけど、まだ大丈夫。エナドリ味の回復薬を飲んで、ゆっくりと回復をしていく一方で。


「トトリ、行けそう!?」

「だ、大丈夫! どんとこい!」

「それじゃ……頼んだ!」


 俺が時計回り、トトリが反時計回り。部屋の外周に沿って、それぞれが反対方向に走り始める。やがて、正面から走って来るトトリが見えてくる。それでも止まらず、互いにすれ違う、直前。


「ば、ばっちこ~い!」


 トトリが、自身の背後から迫りくる食器の方を向いて盾を構えた。システムに従って、食器たちはトトリの全身を刺し貫いていく。けど、今回のトトリは鉄の鎧(防御力25/耐性10/耐久力200)と盾(防御力50/耐久力150)を装備している。


 しかも、トトリは俺と違って、HPにしっかりスキルポイント割いているプレイヤーだ。さっきみたいに即死するようなことは無くて、


「アイタタタタタ……!」


 痛覚は無いはずなのに痛がりながら、食器たちの猛攻を受け止めて見せた。


 味方の前衛に立って、敵の攻撃を受ける。いわゆる盾役タンクと呼ばれる役割をきちんとこなして見せたトトリ。


「ナイス、トトリ!」


 俺がトトリを背後から追い越しざま、トトリの身体の前面と盾に刺さった食器たちを斬る。


 面白いくらいにパキパキと斬れていく食器たち。さっき、死んだトトリと一緒に斬った食器の倍近く斬れた気がする。


(俺たち2人しかいないから、その分、食器が1か所に集まってくれてる!)


 少人数で挑んでいるメリットを実感していると、


「どう!? 斥候さん!」


 トトリから確認の声が飛んできた。耐久力を全て失った鉄の鎧(青色塗装ver.)が消えてなくなったため、今のトトリはTシャツ姿だ。


「行けた! ……ってことで、トトリ、急いで換装!」

「えっ、あっ、うん! インベントリから皮の鎧を交換して……」


 ボスに挑む前の5分間を使って練習した、素早い装備交換。練習の甲斐あって、3秒ほどでインベントリから必要アイテムを取り出したトトリ。防具を身に着け、走り出す。


 最初と、今回。都合、2度。大量の食器を斬ることが出来て、およそ半数ぐらいまで食器を減らせた。言ってしまえば、ボスのHPを半分減らしたことになる。当然、ボスは行動パターンを変えて来て――。


『なんと非道な!?』


 ハザの叫びが、ボス部屋に響いた。

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